我賀田小学校、園芸部へようこそ!

吉高 都司 (ヨシダカ ツツジ)

第1話 プロローグ

「パパー。ママー。」彼女たちがってくる、パパとよばれるのは、やっぱりずかしい、いや意味いみでなく、こそばゆい感じがする、あの時みたいに。ママと呼ばれている彼女の横顔よこがおは、あの時のままだ。二人が通っていたなつかしい小学校の前に二人と、ってきた僕たちの二人の娘。

 今年から5年生になる双子ふたごだ。里帰さとがえりのため実家に行くついでになつかしさのあまり、ってみようか、と言うことになった。

 春休みもあって、誰もいない小学校に校務員こうむいんの方に許しをて、駐車場に車を止め、校門の前にいく途中、桜の木があの時のまま、僕たちを迎えるように左右にしげっていた。

 その下で彼女たちがってくるのを待っていた。少し息を切らした彼女たちは同時に「パパとママはここの小学校に通ってたの?」って聞いてきた。

 僕は「そうだよ。」と短く答えると、二人は二ッと笑いながら「へー、じゃあ幼馴染おさななじみっていうんでしょ。」

むずかしいこと知ってるね、」と僕とママと呼ばれている彼女は目をあわせて、なんだか恥ずかしくなっていると。

 もっとびっくりしたことに、「筒井つついつの井筒いづつにかけし まろがたけ す、す、えーとなんだっけ。」と和歌をよみだした。

ぎにけらしな いもざるまに でしょ。」としもをよんで、双子ふたごの二人は目をあわせて二ッと笑った。

 パパと呼ばれた僕と、ママと呼ばれた彼女は同じく目を丸くしておどろいて「よく知ってるね、伊勢物語いせものがたりのようなむずかしい古典を。」と、僕は本当に驚いて彼女たちに言った。

 再び二人は目をあわせて、二ッと笑って僕たち二人に「エッヘン、だってパパとママの娘だもん。」と得意とくいげにいった。続けて、「ねえ、パパとママはどうやってラブラブになったの。」と声をあわせて聞いててきた。

「いや、そんなこと、」と僕、「そうよ、恥ずかしい。」とママ。

 それでも二人は、僕とママと呼ばれている彼女のそでを引っ張り、「ねー、いいでしょー、教えてよー。」と声をあわせていった。

 その時、一陣いちじんの風が、もう散ってしまった葉桜はざくららした。少し残っていた、桜の花びらが二、三枚ユラユラ、ちゅうを舞ってっているのを見ながら、しがみ付いている二人を見下ろし、彼女たちの視線に合わせるように、しゃがんで、そして、ママを少し見て。少し軽い深呼吸しんこきゅうの後、僕は話し出した。

「パパと、ママがね、初めて会ったのはね・・・」

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