第2話 鍵と白い影 1

 オレ、 後藤ごとうコージっていうんだ、あだ名は【ゴートゥー、またはゴー】。我賀田わがた小学校5年にこの春なったばかりなんだ、好きなものはサッカー、サッカーさえあれば何もいらないそれほど大好き。この前、家の中で、サッカーボールをっていたら、「外でしなさいっ」てお母さんに怒られちゃった。だって、今度の日曜日、地元クラブチームの試合だから、ボールをってなくちゃ、不安で仕方しかたなかったんだ。苦手なものは、算数と生たまごと、そして女の子。算数は九九が大の苦手、生たまごはあのヌルヌルがダメ、そして、女の子は、オレ、女の子の前に立つとどうしてもきんちょうしてしまうんだ。分かんないけれど。おかあさんに相談すると、クスクス笑って、だいじょうぶ、だいじょうぶ。しか言わないんだ。なにがだいじょうぶか、オレには分かんない。


 小学校も高学年こうがくねんになると、何かクラブに入らなくてはいけない、決まりらしいんだ。運動部うんどうぶ【ソフトボール部、陸上部、サッカー部】と文化部ぶんかぶ【音楽部、図書部、理科部、園芸えんげい部】があって、決まった人数しか入部することが出来なくて、サッカー部は大人気で、あっという間に、定員の人数になってしまって、クラスの担任の先生に「後藤ごとう君は地元チームに所属しょぞくしているから、他の人にゆずってくれないかな?」ってたのまれて、たのまれたらいやと言えないオレはしかたなく、人気のない文化部の園芸えんげい部にはいることになったんだ。

 エンゲーブって何だろうと思っていたら、花や、植物をえて育てるらしいんだ、植物って、たねをまいて、水をあげたら育つんじゃないのかな。なんで、それだけなのに園芸えんげい部ってあるのかな。「うーん、なんでだろ。」って疑問。


 いよいよ部活動開始ぶかつどうかいし!って別の日に、部員の自己紹介じこしょうかいのために会議室かいぎしつにオレと、あまりしゃべったことのない、クラスの女子、そして、となりのクラスの女子が二人、そして、今年から、顧問こもんの先生になったという、女性の国語の先生とが集まったんだ。そしてそれぞれ、自己紹介じこしょうかいをすることになったんだ。

 オレ、キンチョウ、超キンチョウして、後藤ごとうコージ、って自分の名まえを言って、今10才って言ったまま、何も言えなかった、顔が、真っ赤になって、だって、女の子が俺を見てるから、キンチョウして。超キンチョウして体の動きが、自己紹介じこしょうかいする時もカクカクしてしまって、席に着いくまでカクカクしてた。席に着いてから、入部にゅうぶした、三人の女子の自己紹介じこしょうかいを聞いたんだ。


 一人目は、松根まつねさん、っていってた、ピアノとバイオリンが好きで、よくお父さんに教えてもらっているって、好きなものはパンと音楽、嫌いなものは男子だんし毛虫けむし。男子といったところで、ちらっとオレの方を見て、毛虫けむしっていった。なんだか、オレのことかなとおもって、なんだか、複雑ふくざつ今日きょうったばかりなのに。

 二人目は、宮竹みやたけさん、大好きな、ひいおばあちゃんに教えてもらっている、編み物が好きで、虫が苦手って言ってた。

三人目は、百合川ゆりかわさん、ダンスが大好きで、ダンススクールに通ってて、将来はダンスバトルで優勝を取りまくること、っていってた。すごいと思った。

 その他、色々いろいろ聞いたけど、女子じょし自己紹介じこしょうかいはほとんどおぼえていなかった。

 先生の自己紹介じこしょうかいは。桃田ももた先生。モモちゃん先生ってみんなに呼ばれている。独身どくしんで、先生になって2年目、近くの町に住んでいて、植物の事は全然わからない、分からないから、みんなでガンバロー、って言っていた。なんだか、親戚しんせきのお姉さんって感じ。


 さっそく部活動ぶかつどうしよう、ってことになって。体育館裏たいいくかんうら花壇かだんにいくことになった。校舎こうしゃ校舎こうしゃの間のスペースにブロック、レンガ、大きさの不揃ふぞろいいの植木鉢うえきばち、プラスチックでできたプランターが、重ねて土とか、枯葉かれはとかでうずもれていた。

 校舎こうしゃあいだけると、体育館裏たいいくかんうらになってて広い花壇かだんが、あれ、全然ぜんぜん花なんか咲いてないや。なんだか、雑草ざっそうがいっぱい生えてて、花壇かだんの地面が見えないくらい。


 ちょうど、体育館の壁にもたれかかるように、押すとべコべコとへこんだり、元通もとどおりりになったりするほどの薄い金属きんぞくで出来た大人おとなが何人も入ることのできるおっきな物置が、スコップや、くわや、一輪車いちりんしゃなんか、園芸道具えんげいどうぐを入れているみたい、入り口付近には雨が当たらないようにお米が入っているような、大きな袋の中に、しかぬまいし?何て読むんだろう、あともう一つは、くさった葉っぱと土って書いて、なんて書いてるのか、分からないけれど、そんな袋が、三つほどまれてた。後で先生に聞くと『鹿沼石かぬまいし』『腐葉土ふようど』って読むらしい。どれも、園芸えんげいには必要らしい。ってお姉さん先生は言ってた。


 物置の入り口はくさりと大きなじょうで、すごい!海賊かいぞくの宝箱に出てきそうな大きなじょうかっていた。先生が、ガチャガチャと金属のっかに一杯のかぎを通している、かぎかたまりを職員室から持ってきてて、ガチャガチャとかぎじょうんでいたけれど、一杯いっぱいあるじょうかたまりの中から一個づつんで回しているけれどどれも違って、鍵穴かぎあなに入るけど回らなかったり、鍵穴かぎあなに入らなかったり、入って回るけど、かなかったりと、どれもじょうに合うかぎが見つからないみたい。「もう!」と言ってじょうかぎさったまま先生は手を離した。そのままブランと金属のっかが、一杯のかぎが付いているかぎのかたまりが、振り子のようにぶらさがっていた。そして、腕組うでぐみをして、しばらくウーンとうなっていたと思うと、急にくるっとかえりオレを見て「コージ君よろしく」と、ちかよってきて、急に片手をあげ、ハイタッチをしてきた。オレは急にいっぱいかぎの付いたっかから「合うかぎを見つけるようにっ。選手交代せんしゅこうたい!」て、選手交代せんしゅこうたい指名しめいされた。こんな、選手交代せんしゅこうたいはいやだ、エースはこんなところで選手交代せんしゅこうたいなんかしないもん。

「えー!」といいながらかぎを見ると、かぎじょうにささったままブラブラれていた。「どうしようこんなに一杯あるのに、どうやって見つけよう」と、いったんかぎいて目の前でジッと見ていると、後ろから、「ガンバレー」って先生と部員三人が声をけてきた、「男子だんしー、がんばれー」と口に両手をわっかにしてメガホンの様にして、三人一緒に、そして、後について先生が「男子だんし!ガンバ!」と声援せいえんをおくってきた、「男子だろうが、かぎを見つけるのって関係なくない?」と声に出さずに心の中でさけんだ。


 もう一度、かぎを一つづつ、じっと見ていると「やっぱりわからないや。」って気になって一つづつ鍵穴かぎあなかぎんで何十本も試して、指がしびれてきて、もうすぐかぎっかが一周する少し前、かぎもうとしたとき。

 チャリーン!と目の前にかぎが落ちてきた、「エッ!」と思って上を見上げると何かが空を飛んで行った。何かはわからなかった、ただ、白いかげしか見えなかった。かげは黒いものなんだけど、かげの様に見えたのが白かったんだ。すぐ振り返って後ろで、声援せいえんを送っている女子じょしと先生に「今の見た?」って聞いてみた。


「なーにー、」「もう鍵空かぎあいたー」とか、「どうしたのー」とか、「ガンバレー」とか、くちぐちにいってて、なんだかみんな見てない感じだった。おかしいな、とおもって、落ちたかぎひろってみた。そのかぎはキラキラ光ってるようにみえた。新しいからピカピカに光ってるのかな、と思ってジッとよく見ると、光が反射はんしゃして光っているわけじゃなく、かぎそのものが光っていた。なんだか気持ち悪くなって、先生に見せようと思ったとたん、普通の金属のかぎの色になった。頭の中に「?」がいっぱいになって、どうしようかなと思ったけれどなんだか、このかぎくんじゃないかなとなんだか不思議な気持ちになって、心の中で、「よーし。」と言って、鍵穴かぎあなに差し込んで回してみると、カチンとかぎはじかれたようにかぎひらいたんだ。


 うしろから「いたー」「いたー」「お疲れさまー」「ゴクロー」とか口々に言って、オレの近くにやってきた。「近い近い!」って心の中で叫ぶくらい、ちかよってきた、オレにではなく、オレが物置ものおきの入り口に立っていたからだ。そうだとしても急に近づいてこられるのは、とってもドキドキだ、このドキドキが顔に出さないようにするのにオレは頑張った。


 じょうかぎっか、くさりを土のふくろの上に置き、先生は「じゃあ中からスコップや、シャベルや、クワとか取りだしましょう、あっ、その前に軍手ぐんてをして怪我けがしないようにしましょう。」と言って物置ものおきの中にはいっていった、女子じょし三人もあとに続いて入っていった。入り口に残されたオレはもう一度空を見上げ、白いかげみたいな何かが見えた方向ほうこうをもう一度見た。

 だけど青い空が広がっているだけで、何もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る