ハートの虹
僕と親友のカイト、そしてサクラの三人でプチ旅行に来ていた。朝早い時間帯でしか見られない奇跡の景色をバックにカイトはサクラに告白をする。
僕が教えた告白スポット、朝霧が朝日によって虹色に輝く。その虹がハート型の湖にかかることから、恋愛成就が謳われている。
「俺と付き合ってください」
カイトが告白したと同時に水に映った虹がハート型に見えた。
「……いいよ」
サクラの可憐な声が彼を望んでいた。そんな彼らを茂みの中から見ていた僕の心を掻き乱した。
なぜ僕がここに来ていたのか分からない。カイトの告白を見守りたかったからか、失敗するのを望んでいたのか……
カイトとサクラの弾んだ話し声が静かに遠ざかっていく。
——僕は動けなかった。
朝露に濡れた茂みが、僕の頬を冷たく撫でる。きっと、彼らは朝に弱い僕が見ているなんて思っていない。
だから、早く戻ってテントで彼らを迎えないといけないのに……
僕は男だから、泣くなんてみっともないことはできない。ちょっと、待っててね。頬に伝う露が途切れたら、バレる前に向かうから……
カイトが笑顔で僕の気持ちも知らずに感謝する姿が頭に思い浮かぶ。笑顔で祝福できるように、心を整えるから。
カイトに「サクラとの仲を取り持ってくれ」と頼まれたのは、半年前のことだった。
「コウマ、頼むよ! お前なら、うまくいくだろ?」
カイトは無邪気に笑いながら、女に興味のなかった僕の肩を叩いた。彼は昔からそんなやつだった。まっすぐで、裏表がなくて、だからこそ周りに人が集まってくる。僕が唯一、心を許せた親友だった。
「……わかったよ」
そう答えたのは、カイトの頼みなら断る理由がなかったからだ。僕だったら、途中でサクラのことが好きになったと言い出さないっていう信頼の証だった。
サクラの趣味や行動を調べ、カイトにアドバイスを送る日々。
そのはずだったのに——気がついたら、僕は彼女に惹かれていた。
僕をストカーだって彼女の友人に詰め寄られた時に救ってくれたのはサクラだった。
儚げで優しそうで意思の脆弱な人形のようにサクラのことを思っていた僕はその凛とした姿に惚れてしまった。
——僕はギャップに弱かった。
そういえば、カイトと仲が良くなったのは君が意外とマニアな趣味を持っていたからだったね。つまり、僕はギャップで二回負けたみたいだ。君とサクラでさ。
ねえ、カイト。
君には分かるかい?
好きになってしまった人を、男の矜持だなんだって言い聞かせながら、君に伝えた僕の胸の痛みが。
サクラと過ごした時間が、君のためのものではなく、僕自身のためのものになっていたことが。
だけど、僕は君を裏切れなかった。
何を考えているのか分からなくて気持ち悪いなんて言われる僕に向けてくれた信頼を裏切れなかった。
君がどれだけ彼女を大切に思っていたか、知っていたから。
ねえ、カイト。
僕は苦しい。君が彼女と付き合うのが、サクラは僕を友達程度にしか思っていないって分かってるのに悔しい。
でも、それなのに——君が嬉しそうに笑う姿を見ると、僕まで嬉しくなってしまうんだ。
ねえ、カイト。
サクラのことを幸せにしてくれよ。
頬についた露が伝って、顎から落ちた。
朝日が昇るころには、僕も——君を祝福できるはずだから。
「コウマ、どこに行ってたんだよ。探したんだぞ」
息を切らして、駆け寄ってくる彼を見てウダウダと自分を納得させようとしていたのがバカみたいに思えてくる。
こんな僕でさえ、少しいなくなっただけで全力で探してくれる。そんなカイトだからこそ、サクラのことを任せたんだ。
「……告白成功おめでとう」
カイトの驚いた表情を見て、胸の中でごちゃ混ぜになった感情がスッと森の新しい空気が僕らの間を吹き抜け、流されていった。
最初に祝福するのは君たちを大切に思っている僕以外には考えられないよね。
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