第2章 秘密を共有する二人

第4話 彼女の理由と守りたい想い

 「光太くん、ちょっと時間ある?」

そう声をかけてきたのは、大学の空き教室でノートを閉じていた三浦 未来だった。

光太は一瞬きょとんとしたが、彼女の表情がどこか思いつめたように見えて、「うん、いいよ」とうなずいた。


未来は周囲を気にするように視線を動かしてから、静かに唇を開いた。

「もう、隠しても意味ないよね。動画のこと、光太くんに知られちゃったし……」

光太は座っていた椅子から立ち上がり、そっと彼女の隣に移動した。

「ごめん、俺、どうしても気になって……でも、深く追及するのは悪いかなって」

「ううん、見られたのは私が配信してるんだから仕方ないよ。ただ、大学や母には絶対ばれたくなくて……」

未来は消え入りそうな声でそうつぶやくと、少しだけ胸を張るように深呼吸した。


「私、父が亡くなってから母と二人暮らしなんだけど、生活がけっこう苦しくてね。奨学金だけじゃ足りなくて、バイトを掛け持ちするにも限界があったんだ」

「……それで、配信なら効率がいいと思ったわけか」


光太は声をひそめて尋ねた。

未来はうなずきながら、自分の指先をぎゅっと握りしめた。


「本当は、こんなことよくないってわかってる。でも、お金が必要だし、夜の時間を使えば授業に影響が少ないから……そう考えて始めたんだ」

「そっか。無理してるんじゃないか?」

「うん、正直、きつい。でも、母に余計な負担をかけたくないし、私が稼げば学費もなんとかなるから……」


彼女の瞳は強がるように揺れていた。

光太はその表情をまじまじと見つめてから、小さく息をついた。


「相談相手とか、いないの?」

「ゼミの仲間や友達には言えないよ。こんなこと言ったら噂になって大変だし。だから光太くんにだけは黙っててほしいの」


未来の声は震えていたが、その奥には切実な願いがこもっているように感じられた。

光太はもう一度深くうなずいた。

「わかった。誰にも言わないよ。ただ、俺で力になれることがあれば何でも言ってくれ」

そう伝えた瞬間、未来の視線が少しだけ安堵に変わるのが見えた。

「ありがとう。こんな話、誰にも言えなかったから、ちょっと気が楽になったかも」

光太は胸の奥に奇妙な感覚を覚えた。

友達以上にも思えるし、でも恋人とは言えない、この不思議な距離感が自分を落ち着かせない。

それでも、彼女の表情が和らいだことは素直にうれしく感じた。


場所を移して廊下を歩くと、向こうから石川 拓海が手を振りながら近づいてきた。


「光太、なんかいい雰囲気じゃねえか?」

「そ、そうかな。別に普通だけど」

「おっ、未来も一緒か。なんか二人とも顔が赤いけど?」


拓海がにやりと笑ったのを見て、未来はうつむき気味に小声で挨拶をした。


「こんにちは、拓海くん。ちょっと光太くんと話してただけ」

「まあまあ、あんまり俺の前でイチャつくなよ」

「だ、誰がイチャついてるっての」


そう言い返した光太の声が妙に上ずっていて、自分でも恥ずかしくなった。

未来は小さく笑いながら、少しだけ拓海に会釈をして足早にその場を離れた。


「なあ光太、あの感じはどう見てもただの友達じゃないぞ。何かあったのか?」

拓海は軽く目を丸くして光太の背中をのぞきこむように笑う。


「……ちょっとね。まあ、いろいろと相談があってさ」

「ふうん。だったらちゃんと支えてやれよ。あの子、どことなく無理してる感じするし」

「わかってる。俺なりにできることを考えてみるよ」


光太はそう答えながら、胸の奥に不思議な決心を抱いていた。

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