第一章 ~廃墟への誘い~
昼下がり、僕は喫茶店へ向かった。扉を開けると、静謐な空間と、柔らかな光が広がり、外のざわめきとは対照的だった。コーヒーの香りとジャズが、心を和ませた。しかし、不吉な予感と、謎への衝動が、内心で渦巻いていた。
窓際の席には、旧友の直樹がいた。「やあ、悠斗。今日こそ、あの謎を解き明かすための一歩になるはずだ。」直樹は、高校時代からの友人で、映像制作を趣味としている。僕の能力のことも知っており、今回の調査にも協力的だった。
隣には、彩香がいた。彼女の瞳には、悲哀と覚悟が宿っているように見えた。彩香は、僕の幼馴染で、心理学を専攻している。彼女の優しさと洞察力は、僕にとって、いつも心の支えだった。僕は、孤独と恐れが薄らいでいくのを感じながら、席に着いた。
直樹は言った。「あの廃墟に行こう。最近、あそこでは、不思議な現象が報告されているらしい。君も、影のような存在を感じたりしていないか?」
その問いは、胸の鼓動を速くした。僕は、答えた。「昨夜も妙な影を見た。何かを訴えかけるような存在感があった。何かが目覚める予感すら感じたんだ。」
彩香が言った。「あの廃墟は悲劇の舞台になった場所らしいの。謎めいた記録が残されているって。」
直樹は、続けた。「昔は見事な洋館だった。しかし、家族全員が姿を消す事件が起こってから、『呪われた館』と呼ばれるようになった。夜になると、灯りが零れ、奇妙な音が聞こえるという噂がある。図書館で調べたら、一族が秘密の儀式に関与していた記録があった。その儀式が、運命を狂わせたのかもしれない……」
直樹の言葉は、時を遡るかのような重みを感じさせた。僕は、コーヒーを見つめながら、孤独と向き合い、誰かと繋がりたいと願ってきた日々、不可解な霊感が絡み合ってきたことを思い起こしていた。
彩香はスマホを取り出し、白黒写真を映し出す。写真には、洋館の外観と、家族が映っていた。家族は笑顔もなく、虚ろな眼差しで、まるで館に取り憑かれているかのようだった。
「この館には、深い呪縛のようなものがあるの。秘密と失われた時間の記憶が、影を落としている……」
僕は、霊感が、あの廃墟のオーラとリンクしている感覚を覚えた。僕の内側に宿る『声』が、何かを呼び覚まそうとしているかのようだった。
「僕たちが体験するのは、ただの心霊現象ではない。あの一族の秘密……そして、僕の能力との間に、因縁があるのかもしれない」僕の言葉に、直樹と彩香は頷いた。運命の再会と、宿命を感じさせる空気が漂っていた。
その瞬間、時の流れが止まったかのような感覚に包まれ、僕は内面と、未知の体験との境界が溶け合っていくのを感じた。孤独や痛み、そして希望――それらが、廃墟へと向かう運命の一歩に集約されるかのようだった。
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