第16話 ティータイムそして訓練への誘い
屋敷につくとすんなりと門番は通してくれた。団長から話が伝わっているのだろうか。
ここを出るときにはあまり見ていなかったがこうして落ち着いてみてみるときれいな庭だなー。
庭を見ながら歩いているとその一画で椅子に座り本を読んでいる女性が目の端に映った。
誰だろう遠くてわからない。
歩みを進めるたびその距離は縮まり次第に誰であるかはっきりしてくる。
足音で気づいたのか、それとも気配なのか女性は話しかけてくる。
「早かったね」
話しかけられてその女性が団長であることに気づいた。
服装がいつもと違うからなのか、それにしてもまとっている雰囲気も違うように感じられる。
「君もここに座るといい」そう隣にある椅子を進めてくる。
近くのテーブルにはティーポットとティーカップが置かれていた。漂うお茶のいい香りが心を落ち着かせてくれる。
「どうだい。君も飲むかい?」
そうしてお茶を注がれる。先ほどよりも強く甘い香りが鼻孔をいっぱいにした。しばらく冷めるのを待ちながらにおいだけを楽しんでいると
「大丈夫だよ、熱くないよ」
そういわれ恐る恐るカップに口をつける。口の中を液体が湿らせそしてにおいが鼻を抜けていく。ほのかに甘い。普段こういったお茶を飲むことはないがとてもおいしいものだと認識する。そしてさぞ高いのだと
「どうだい?おいしいかい?」
「おいしいです」とだけ短く返した。
「このお茶はね、ここの花畑でとられたものなんだよ。」
「毎朝、庭師が手入れをして、その日一番いい状態の花を摘み取ってこうしてお茶にしてくれるんだ」
「だからなのかな、とてもおいしいよね」
コクン、コクンと俺はそのお茶をのみながら相槌をうった。
そして自分のティーカップに視線を落として思案する。お茶がなくなりかけておかわりが欲しいなーというわけではない。ただその冷めてきたのだ。
お茶というのは難しいものだ。熱すぎると当然だめだし、そして冷めてもまたダメなのだ。
「どうした?飲まないのか?」
カップをもってもぞき込んだまま止まっていたのを不思議がってそう話しかけてくる。
しかし少し考え込むようなそぶりをして納得したような面持ちになった。
「あぁ、少し待っていろ。」
そう言って団長は一人のメイドを連れてきた。
そしてなにやらメイドに耳打ちをしている。
「では頼むぞ」
「わかりました。では」と手に持った子供の背丈くらいある杖を突きだすとなにやら魔法陣のようなものが浮かび上がりそうして結果として僕の持っていたティーカップがほんのりとあったかくなったのだ。
「飲んでみるといい」
そういわれカップを口に近づける。心地よい温かさだ。お茶の温度がとても心地よく心まで温まるようだった。
「どうだ、おいしいだろ。」
お茶を飲み終え団長の観察眼の鋭さに感服する。
「それにしてもよく気づきましたね。」
「あぁお茶の温度のことか、そう褒められたものではないよ。君が猫舌なのは見ていてわかっていたからね。それに私も冷めてしまったときによくやってもらうんだ。」
「それにしても便利ですね。魔法ですか?」
「見るのは初めてかい?」
「えぇ、まぁ」
「お茶をおいしく飲む魔法だよ」
「良い魔法ですね」
魔法をほめたためかメイドの少女の顔はほんのりと赤くなりそしてその顔を隠すようにうつむきながら後ずさっていった。
「もう一杯どうだい?」
そういわれもう一杯ごちそうになる。
「お菓子もある。好きなのを食べるといい」
そうしてお菓子とお茶をごちそうになった。
団長はお茶を飲みおわると読んでいた本を閉じた。そうして僕のほうを見て戦闘を喚起するのだった。
「では訓練を始めるとするか」
その言葉を聞いてメイドがすぐさま木でできた短刀をもってくる。
団長はそれを受け取るとその出来を確かめるように触っていた。
「君の短剣と同じくらいの長さだろうか?」
そういわれ腰の短剣を抜いて見比べてみた。驚くべきことに寸分たがわずその長さが一致していたのである。
驚くべきことである。刀身を抜いて見せたのは今が初めてだ。団長は腰に装備してあるこの短剣の形状をどうしてここまで正確に把握したのだろう。
「同じくらいだな、ではこれを」と渡された短剣をうけとる。
「団長は短剣もつかうんですか?」と素朴に抱いた疑問を投げかけてみる。前見た時の団長の装備には短剣はなかったはずだ。見逃していた可能性もあるが、確かなのは短剣が団長の主力武器メインウエポンではないということだ。
「そうだな、普段使うことはないが扱えないというわけではないぞ」
「それに武器種がちがうとその対処も変わってくる。短剣どうしのほうがいいと思ってな。」
なるほどそういうことか実に合理的だ。
「まずはお前の力量が知りたい。好きに打ち込んでくるといい。」
全知全能機構とともに歩む異世界 抜け殻 @nukegara88
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