三百

小狸・飯島西諺

短編

 さる小説投稿サイトにて小説を書いてもうすぐ3年が経とうとしているが、その数が三百を迎えたので、ここに記しておく。


 掌編から長編、全て合わせて、三百である。


 長編の各章は別々ではなく、その長編を1作として考えている。


 色々加えて水増しすればもっと早くに三百に到達したのだろうが、融通の利かない性格ゆえに、それは許せなかった。


 勿論もちろん数を書けば良いというわけではないし、文章量が優劣を決めるという世界でもない、三百に到達したからといってそれが特別に評価されることはなく、何らすごいことでも何でもない、事実私の書く小説というのは所謂世間で高評価を得られるようなものではない、どちらかというと己の内面を抉り出して書いた陰鬱な私小説的であり、決して読んでいて楽しいとか嬉しいとかそう言った正の感情(という表現が正鵠を射ているか甚だ微妙だが)を喚起させるようなものではない、私よりすごい人などごまんといるし、私より長く話を書き続けている人など当たり前のように存在する、だからこんな風にわざわざ表題に「三百」と書いて喧伝することなどおかしいことなのかもしれないけれど、しかし書き続けたこと、途中で辞めなかったこと、それは誇っても良いことなのではないかと思うのである、まあ、所詮は自家撞着の類なので、どうか気にせず読み飛ばしてほしい。



 執筆活動を明かしている友人は少ないけれど、こんなことを言われることがある。


「書くことに困らないのか」


 幸いなことに、困ったことはない。


 書きたいことにあふれている。


 その代わり――代償と言っては何だが、私は、口で言葉を、気持ちを伝えることがとてつもなく苦手である。


 はっきり下手だと言ってしまって良い。


 口頭で相手に、正直な気持ちを伝える。


 これが、なかなかできない。

 故に、病院や美容院に行く際には口ごもってしまうので、あらかじめ「こうしてほしい」「今週はこうだった」という風な紙を持って臨んでいる。


 それくらい苦手である。


 理由ははっきりしているが、ここでは語らない。


 小学校に入る前から苦手だった。


 言いたいことが言えない。


 言語化できない。


 両親には、話していない。


 気付かれないように、ずっと無理をしてきた。


 今でこそ、成人し社会人になり、何とかそれを取り繕う手段を持っている。


 相当観察力の鋭い人でなければ、私のこの、己の感情に限定した言語化能力の欠如を見破ることは不可能だろう。


 それくらい、独学で、独自に訓練してきたつもりだ。


 自分の欠落を、一人で埋めてきたつもりだ。


 だからこそ――なのだろうと、私は思う。


 今まで口で語ることができなかったことを、延々と私は小説という形で出力している。


 ずっと塞がれてきた口の代わりに、小説の執筆という行為によって、私は会話し、コミュニケーションを取っているのである。無論、小説はコミュニケーションの手段ではなく、娯楽のための、通俗娯楽作品であり、そこは勘違いしてはいけない。


 そのあたりは、私の脳内で上手く、都合良く変換されているらしい。


 いつだって、読者のために、読んで下さる方のために書いている。


 それもまた、自家撞着の自画自賛かもしれないけれど。


 元々は、何ごとも継続できない性分であった。


 いや、今もそうかもしれない。


 昨年インスタグラムに、小説の感想をつづるアカウントを作ったのだが、6回くらい投稿して飽きてしまった。


 飽き性なのである。


 そんな中。


 書いていた小説の数が、長短編含め三百を越えたということは、良いことなのではないだろうか。


 本当、良く続いたものである。


 これからも私は、きっと小説を書き続けるだろう。


 三百を越えたということは、そろそろ過去作との重複なども懸念に入れなければならないところなのかもしれないが、何も心配していない。


 別に商業誌で書いているわけではないからである。


 こんな陰鬱な私小説集を出したい出版社など金輪際現れないと思っているし、今の時代は、こういうのは流行らないだろう。


 分かっている。


 それでも私は書き続ける。


 それに小説は。


 これまでどれだけ書いたか、ではなく。


 これからどれだけ書くか、なのだから。


 そんな、私らしくもない前向きな言葉で、この三百というめでたい数字の物語に、幕を引こうと思う。




(「三百」――了)

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