第7話

「お兄ちゃんのお母さんって亡くなったんじゃなかったんだ。

 良かったね」

「お前だから話してやるけど、他の奴だったらぶん殴ってるよ」

 そう言いながら、兄は私を睨み付けていた。


 幼いながらも、私は言ってはいけないことを言ってしまった。

「お兄ちゃん、あたし、あたし…、あの…」

「お前じゃしょうがないし。妹だからな」


 いつになく激しい口調に驚いた私は、早く部屋を出たくてたまらず、

「お兄ちゃん、今日のおやつは何?」

 すると、兄は私の襟首をつかむと、

「この話は親父達には黙っているんだ。

 特に母さんにはな」

 

 どうしてお母さんには言ってはいけないんだろう。

 私は赤い口紅の人とお兄ちゃんの言ったことを考えていた。

「朱夏、ほら、また考えごとしながら食べてるからこぼして。

 今日は学校で何したの?」

「うん」

 私は、おやつを食べながら今日の報告をするのが日課だった。

「母さん、朱夏はさっき、俺のおふくろに会ったから今日変なんだよ」

 爆弾発言。

 お母さんに言っていけなかったのでは?

 スプーンを持つ手を浮かしたまま、口を開けて兄の顔を窺う。

「朱夏、それ本当なの?

 どこで…」

 兄は何でもなさそうに母お手製のコーヒーゼリーを口に運びながら、

「家の前だよね。

 それであの女、朱夏を俺と間違えてんの。

 バッカだよなあ、母さんもそう思うだろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る