第3話

「お父さんとカラオケに行って来るから、お兄ちゃんと留守番しててね。

 先にお風呂に入って、遅いようだったら寝てていいから、ね」

 母は、先に玄関で靴を履いていた父に同意を求めた。

「ああ、あんまり遅くまでテレビを観てるんじゃないぞ」


 父は恥ずかしかったのか、靴を履きながら僅かに後ろを向き、言った。

玄冬しずか頼んだよ。

 よろしくな」

「分かったから、親父、早く行った方がいいよ。

 遅くなるとボックス混むから」

「ああ、今日は何を歌うかな」

「お父さん、着いてからでいいでしょ。

 行って来ます」


 私達は居間に戻ると、テレビを付けた。

 兄はサッカーが好きだ。

 今夜はサッカー中継があったが、私はスポーツよりもアニメの年頃だった。

 私はアニメが観たかったので、ビデオをセットしてもらって後から見ようと思った。


 兄は最近、私に対して不機嫌なことが多い、

 両親に対してそういう素振りは無かったが、私が母と会話している時や、父にまとわりついている時などに、冷たい視線を感じていた。


 九才の私には、憎まれる理由が分からなかったし、憎まれている自覚も無かったのだ。

 兄から身体的な虐待は無かったが、ただ不安にさせるような何かはあった。

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