交わる未来

曖昧な好き 交わる未来

曖昧な好き ― 交わる未来


 「わからない」


 あのとき、彩はそう言った。

 私のことを好きなのか、わからないと。


 でも――あれから時間をかけて、彩はちゃんと答えを出してくれた。


 


― それから半年後


 秋が深まり、制服の上にカーディガンを羽織る季節になったころ。


 「百合」


 放課後、屋上に呼び出された私は、彩と向かい合っていた。

 彩はいつも通りの無邪気な笑顔を浮かべていたけれど、どこか緊張した面持ちだった。


 「ずっと考えてた」


 風が吹く。

 私の髪がなびくのを、彩がじっと見つめていた。


 「百合が私のことを好きだって言ってくれたとき、すぐに“私も”って言えなかったのは、本当にごめん」


 「……ううん」


 「でも、今はちゃんとわかる」


 彩は、私の手をそっと握った。


 「百合が好き。友達としてじゃなくて、恋人として」


 胸がぎゅっと締め付けられる。


 「私、百合が誰かと仲良くしてると嫉妬するし、百合が笑ってると私も嬉しいし、百合が泣いてたら世界が終わるくらい悲しい」


 「……彩」


 「だから、私も百合と同じ気持ちだったんだって、やっと気づいた」


 彩が、いつもの笑顔で言う。


 「好きだよ、百合」


 その瞬間、私は――涙が溢れてしまった。


 「バカ……こんなの、泣くしかないじゃん……」


 「ごめんごめん! でも泣いてる百合もかわいい」


 「うるさい!」


 頬を染めながら、私は彩の手をぎゅっと握り返した。


 「私も……好き。大好き」


 そう言って、私たちは初めて、お互いの気持ちを確かめ合うキスをした。

 あの夜の衝動的なキスとは違う、優しくて、幸せなキスだった。


 そして、私たちは恋人になった。


 


― 5年後


 大学生になった私たちは、二人で小さなアパートに住んでいた。


 「百合ー、朝だよー!」


 「うーん……あと5分……」


 「5分で済んだ試しがない! 起きろー!」


 彩の手が私の頬をつついてくる。

 寝ぼけながら彩の手を掴むと、彩は苦笑しながら指を絡めてきた。


 「もう、ほんと起きないと遅刻するよ?」


 「わかってるけど……彩がかわいすぎて起きれない」


 「はあ!? 何それ!」


 「だって、昔は私が彩をドキドキさせる側だったのに、今は完全に逆転してる」


 「し、知らないよ!」


 彩の頬が赤くなる。


 「……でも、百合がそう言ってくれるのは嬉しいかも」


 彩は照れながら、私の髪を撫でた。


 私たちは、ずっとすれ違っていた。

 でも、今はちゃんと、お互いの気持ちを理解して、一緒にいられる。


 「ねえ、百合」


 「ん?」


 「これからもずっと、一緒にいようね」


 「当たり前でしょ」


 私は彩の頬にキスを落として、そっと微笑んだ。


 ――あのとき、すれ違った“好き”は、今こうしてひとつになった。


 そしてこれからも、ずっと。


 


(終わり)

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曖昧な感情と交わる未来 桜椛 - Ouka - @ouka12

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