イーロンマスクとサムアルトマン。世紀の対決の舞台裏

山下安音

第1話 サムアルトマン解任劇のミステリー

 イリア・サツケバーはグーグルの技術者だったが、イーロンマスクから誘いを受けて、オープンAIの設立メンバーに加わった。2015年12月設立時点では、非営利組織として人類の技術開発に貢献するとのミッションを掲げ、サムアルトマンも共通の目的を追求する同士として、意気投合していた。 


 2023年11月16日に、イリアがアルトマンにテキストメッセージを送った。「金曜日の午後に電話をしたい。」 


 11月17日、午後12時過ぎ、アルトマンがグーグルミートに参画。「取締役会によって、アルトマンはCEOの資格を失った」と決定事項が伝えられる。それを聞いた、取締役会長のグレッグ・ブルックマンも怒って辞職。社員もマイクロソフトも株主もこの決定は知らされていなかった。社員は、「これは一体何が起こっているのか?敵対的買収なのか」と真理を知ろうと躍起になった。 非営利組織の株主は、6名(サム・アルトマン、グレッグ・ブルックマン、イリア・サスケバー、残り3名は社外株主)サムアルトマンは、4:2の採決で、非営利団体であるOpenAIの取締役会によって解任されたのだ。 


 このサムアルトマン解任の発起したイリア・サスケバーには、「AGIの安全性を確保しつつ開発するという使命、オープンソースで全人類のための技術開発を果たすという使命を守るためには必要なこと。」との決意であった。この趣旨に賛同した4名(イリア、クオーラの創業者、AI研究者に研究資金を提供する会社、ロボット系の会社)がアルトマンに解任を通知したのだ。


 なぜ、株主の決定なしに、解任を通告できたのか?この解任劇は、あくまで非営利組織のCEOとしてのサム・アルトマンを解任するとの意思決定が、取締役会で決定されたという事実的経過なのだ。その背景には、非営利団体としてのOpenAIの傘下に子会社として事業部門(営利部門)が存在する仕組みになっている。この非営利団体が全活動を統括し、営利部門は非営利団体の指示に従う。OpenAIの公式サイトによると、これはOpenAIのミッションである「安全で全人類に利益をもたらす汎用人工知能(AGI)を構築する」ための基盤とする目的だということなのだ。


その後の展開


 11月17日、午後13時46分、アルトマンがTwitterで「退社」を報告。OpenAIで過ごした時間を愛していたと述べた。 


 11月17日、夜、OpenAI従業員770名の内、シニア研究員が3名が退職し、「サムアルトマンを復帰させなければ一斉に退職するぞ」と警告。 


 11月18日、午前、アルトマンとブロックマンは、新しい会社を設立しようとしているとの報道。 11月18日、昼、株主がサムアルトマンを復帰させるように取締役会のイリア・サスケバーに圧力をかけ始める。49%の株を所有している筆頭株主であるマイクロソフトのCEOサティア・ナディアは、このままでは、OpenAIの多額の利益を喪失するとの危機感を抱いていた。サムは、投資家からお金を集めることにもたけていたので、サムの働きなしには、経営計画は成り立たなかったからである。

 OpenAIは、大規模言語モデルを動かすために、AIチップ半導体メーカーNVIDAに多額の支出をしてきていたが、今後、自社で半導体メーカーを立ち上げる計画を立てていた。中期、長期計画ビジョンを動かしている最中であり、将来に向けて、多額の投資と多額の利益が見込まれる事業展開にとって、サム・アルトマンという看板CEOを欠いては、これらの経営計画は遂行できないと考えていた。なんとしても、サムを復帰させねば。マイクロソフトのビルゲイツは、躍起になって、CEOサティア・ナディアに指示を出した。 「アルトマンとブロックマンを復帰させよ。」マイクロソフトは、他の株主にも圧力をかけて、取締役会に通告するよう圧力をかけ続けていた。 その結果、取締役会は、「午後5時までに結論を出す」とマイクロソフトCEOサティア・ナディア通知。


 11月18日、夜、サム・アルトマンが「OpenAIのチームが大好きだ」とツイート。OpenAIのチームメンバーがハートマークで応答。暫定CEOのミラ・ムラティも同じく、ハートマークをつけて引用で応答。これらの雰囲気からサム・アルトマンは復帰するのではないかとの報道が飛び交い、関係者のみならず、部外者も刻々と動く動向に注視するようになっていた。


  11月19日、午後、株主たちは、イリア・サスケバーに圧力をかけ続けるが、イリアは頑として、これを拒否し続けていた。


  11月19日、21時頃、イリア・サスケバーは、動画実況中継サービスTwitchの創業者エメット・ミアを暫定CEOに指名。これにより、数十人のOpenAI従業員が一斉に退職を表明し、反発した。 


 11月19日、23:53、マイクロソフトのナデラCEOは、「アルトマン、ブロックマン、OpenAIを退職したシニア研究員の3名はマイクロソフトに入社することになった」とXで発表。 


 11月20日、午後2時、元暫定CEOのムラティが「OpenAIは社員がいなければ何もない」とツイートすると、770名の従業員たちも同じ言葉をツイートし、OpenAI関係者コミニティのタイムラインが「OpenAIは社員がいなければ何もない」のツイートで埋め尽くされる。 


 11月20日、午後5:15、イリア・サスケバーが「取締役会の行動に参画したことを深く後悔している。決して、OpenAIを傷つけるという意図はなかった。また、ここからやり直したいです」と表明。サム・アルトマンがハートマークを送る。


 11月20日、午前6時、OpenAI社員770名中、650名を超える人数が名を連ねる。「取締役の辞任を守める。アルトマンを復帰させよ。さもなくば、我々は、マイクロソフトに行くぞー」という署名を突き付ける。イリア・サスケバーもこの署名にサインしていた。 


11月21日深夜、OpenAIが、アルトマンとブロックマンが復職すると公表。取締役会も新たにすると発表。


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