情報屋と超能力少女

@jiikbgyuy

第1話情報と少女

「ネオ=ヴェルタ」——この街は腐っている。いや、腐り果てている。

特に、こういう仕事をしていると、つくづくそう思う。


よし、終わったな。


引き抜いたコードを手際よくまとめ、元の場所に仕舞う。


レオン・カストナー。

黒髪短髪に、鋭い灰色の瞳。防弾加工のコートを纏い、インナーは戦闘スーツだ。

情報屋として、常に周囲を警戒している。


いつも通りの仕事を終え、今日の収穫を確認するため、ポケットからモニターを取り出す。


「今回は、高く売れそうな情報が……」


期待を込めて画面を覗き込む。


「まぁ、だいたい予想どお……り……なんだこれ?」


収穫の中に、一つだけ鍵が掛かったデータがあった。

興味をそそられ、適当に解除してみると——


「No.004?」


画面に表示されたのは、予想外の文字列だった。


気になったが、今の俺には、それを調べる余裕はない。


「帰ってから見てみるか」


そう呟き、帰路に向かおうとしたその時——


「お前、何をしている」


低く鋭い声が背後から響く。


「いや? 何も?」


……バレてる、無理だ。


「ぶっ殺してやるぅぅぅぅ!」


言うが早いか、銃弾が乱射された。


「はぁぁ?!」


即座に身を隠す。


危ない、とても危ない。

殺されるぞ、これ。

なんなんだ、この会社の警備体制は!?

不法侵入者は即射殺かよ!?

いや、知ってたけどさぁ……。


「こ、殺す……ん?」


銃声が止んだ。続いて、カチャカチャと無機質な音が響く。

弾切れか。


よし、今だ! さっさと逃げる!


走った勢いのまま、エレベーターの下行きボタンを叩く。


大きく息を吐いた。——安堵。だが、そんな余裕も長くは続かない。


「この時間、この会社の下層には警備員が一人のはずなんだけどな……」


上層階では、偉い連中がパーティー中らしい。

そのおかげで、中階層も低階層もガラ空きだ。


ダンッ、ドンッ、ガッ!


なんだこの会社、うるさいなぁ。

真夜中だぞ、全く。


ピーンポーン——


「あっ、きた」


エレベーターのドアが少し開いたところで一瞬止まり、そして、ゆっくりと開いた。


「……え?」


中に、何かがいる。


肩がビクッと跳ねそうになるが、急いでいるので、迷う暇はない。

ボタン前に陣取り、即座に地下行きのボタンを押す。


80、79、78、77——


チラッ、チラッ。

やっぱり、いるよなぁ。


うつ伏せで倒れている、少女……多分。

白黒のボディースーツを着て、プラチナブロンドの長髪が観覧車みたいに広がっている。


50… 40… 30… 20… 10…


まぁ、可哀想だけど、仕方ないよね。

こんな会社にいるのが運の尽きだ。


ん? そういえば、このエレベーター、俺のいた階層より上から来たんだよなぁ。


ピッ——


モニターに「B1」と表示されると同時に、音が鳴った。


ガッ、ガガッ

エレベーターの扉が開きかけて、一瞬止まる。

……調子悪いなぁ。でも、すぐに動いた。


さぁ、で——る……。


なぜだろうか。いつの間にか、隣に人がいる。

そして、俺より先に外に出た。


振り向いたその顔に、一瞬、息を呑む。


左が青、右が金のオッドアイ。

不思議な透明感を纏い、儚げで、今にも消えそうな——


「ちょっと、閉めようとしないでよ!」


「あっ、ごめん」


無意識に指が、閉めるボタンに乗っていたらしい。


彼女は鋭い視線を向けながら、エレベーターの扉を体で遮った。


「私、死にたくないの」


「で?」


「ここから出るのを、手伝って」


「いや、なんで俺……」


「私、上の階層から逃げてきたの」


言いながら、彼女は手招きする。

俺を促すように。


ためらいながらも、エレベーターを出た。

そして、彼女が指差す方向に目を向ける。


今、降りたエレベーターの隣にあるエレベーターが動いていた。

現在進行形で、こちらに降りてきている。


「言ったでしょ。私、上の階層から逃げてきたって」


ふふん、と得意げに胸を張る。

ない胸を。

うるせぇ。なんでその体型でボディスーツなんだよ。


急げ、急ぐ、急いだ。

車に乗り込み、荷物とコートを助手席に放り投げる。


シートベルト、よし。ミラー、よし。

……なんか後部座席にいるけど、まぁ、よし。


レッツゴー!


「ぶっ殺してやるぅぅぅぅ!!」


——?!


なぁんてな。いやー、やっぱり車は早いなぁ。


順調にビルを抜け、逃走成功——のはずだった。


後部座席から、少女がひょこっと顔を出した。


「あっ、これ借りるね」


助手席に置いてあったコートを羽織る。

寒そうに肩をすくめている。


「いやぁ、寒い」


「……あと、なんか来てる」


「ん?」


違和感を覚え、サイドミラーに目をやる。


——無数の赤い点滅が、闇を切り裂くように迫っていた。


「ちょっと、揺れるぞ」


「ん、なあああぁ⁉︎」


スピードを上げ、大通りに飛び出す。

車と車の間を縫うように駆け抜け、逃走を試みる。


「……まずいな」


スピードはこちらが勝っている。

だが、一直線に追ってくるドローンには、今のままでは太刀打ちできない。


「んあああ、ちょっっっと!!」


少女の叫びが、車内に響いた。


「……」


「いやぁ、これ、ぬぇぇ、っ」


大通りを横切り、小道へ滑り込む。

狭い路地を利用して、なんとか撒けないか試みる。


だが——追いつかれそうだ。

鋭い羽音が、徐々に大きくなっていく。


追いつかれる——!


目を細めた、その瞬間——


「イッターい!!!!!!」


鋭い叫びが車内に響き渡った。


「……ん?」


外から轟音が響き、驚いて目を開く。


——バンッ!


フロントガラスに、ドローンが突き刺さっている。


動揺しつつ車を降りると、辺りにはドローンの残骸が散らばっていた。


「……何があった?」


「これは……」


周囲の状況に目を見張っていると、少女が額を押さえてうずくまっていた。


乱れた髪の間から覗く瞳。

左は深い青、右は鮮やかな金。


さっきまでの軽い雰囲気とは打って変わり、儚げで、今にも消えそうな——。


身体は小柄で、借りたコートに包まれているせいか、より華奢に見える。

だが、その指先は微かに震えていた。


「……お前、大丈夫か?」


声をかけると、少女はゆっくりと顔を上げる。

唇を噛み、潤んだ瞳でこちらを睨みつけた。


「……痛い」


「そうか……」


こいつ、何者だ?

さっき、エレベーターで見た時も気になったが——


首元に「No.004」のマーク。


金か、情報か、それとも——疫病神か。

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