可愛くないあいつと終わってしまった青春
山田空
俺の幼馴染みは可愛くない
「好きな人が出来たんだ」
幼馴染みがそんなことをいってきた。
俺の幼馴染みは可愛くない。
すぐ涙を流して俺に助けを求めてきたと思ったら俺が困ってるとき助けてくれようと頑張ってくれて頼りになる。
お前頼りないのか頼りになるのかどっちだよ。
そう思ってしまうだろ。
たぶんきっとあいつはどっちもなんだと思う。
すぐ誰かを頼ろうとして弱っちい性格でもいざっとなったらかっこよく助けてくれる。
俺はそんな可愛げのないあいつをいつの間にか目で追うようになっていた。
すぐにケンカをうってくる。
ベーって舌を出して俺を煽ってくる。
気にくわないので俺は追い回す。
でもそれは小学校の頃の話だ。
俺とあいつは中学に上がると同時に関わらなくなってしまった。
少しずつ彼女と俺の距離は離れていく。
それは物理的にも精神的にも
いつも隣り合って笑っていた異性であることさえ忘れてしまうほどに
でも今は異性であることを気にしてしまう。
彼女の髪から少しだけ匂う甘い香りが俺の鼻をくすぐる。
俺はそんな気持ち悪い考えが浮かんでしまった俺に吐き気を催す。
異性であることを気にしたくないのに気にしてしまって出来ていたはずの笑顔すらあいつの前で出来なくなっていた。
そしてそんな幼馴染みからこう言われた。
「好きな人が出来たんだ」
その時の顔は少しだけ悲しそうな顔に見えた。
今思えば俺にしろよそういってほしかったのかもしれない。
いやきっとこれはそう思っていてほしいっていう俺のわがままだ。
ああそうだったらよかったのにみたいなものさ。
「……うんよかったじゃん」
そう答えるのが俺の正解なんだ。
その時はそう考えていた。
そして一ヶ月も立たぬ内に幼馴染みにこんなことをいわれた。
「ねえあたし恋人が出来たんだ」
「……そっか」
俺は少しだけいつもの幼かった頃の笑みを思い出しながらこうことばにする。
「よかったじゃん」
俺はきちんと笑えているかい
そう質問をしたいと思ってしまった。
そんな質問をしたところで変わるわけないのにね。
そしてそのことばをこぼしそうになったときにようやくじぶんの気持ちに気づけたのもなにもかも本当にかっこよくないなあ俺
一番みっともなくてダッセェな。
むかしそういえば男友達にこんな質問をされたことがあったな。
「なああいつ可愛くね」
幼馴染みを指差していったそのことばに対して俺は素直になれずこう答えた。
「はああんなやつ野蛮でゴリラで可愛くねえよ」
みっともねえダッセェ
なんであんなことばをいってんだよそう思うじぶんがいるけどなんとなくわかってるんだ。
どうしてじぶんがあんなことばをいったのか
未熟だから俺はじぶんの気持ちに素直になれない。
だから俺は幼馴染みのあいつに見合うぐらいカッコいい男になりてえと思えた。
幼馴染みのあいつは俺なんかよりもよっぽど可愛くてカッコいい。
例えばフーセンが木に引っ掛かって泣いている子どもを見たら高いところが苦手なくせにへっちゃらみたいな顔でフーセンをとってあげる。
そして笑ってフーセンを渡してあげる。
そのくせさお化け屋敷の時は怖くて涙流してたんだよ。
あははそれでさおばけが怖くておもらししてたんだぜ。
小学生の時の話なんだけどさってああそっか俺って小学校の頃のあいつしか知らねえんだ。
中学に上がったときにもしもまだあいつのとなりでいれたならなにか変わったかもしれねえな。
そんなありもしない妄想をしながら俺は空を見上げる。
この物語はカッコよくない俺と可愛げのない幼馴染みの面白味のない青春の話しだ。
そしてその物語は今日終わりを告げた。
俺がもしもこの物語にタイトルを付けるならきっとこんなタイトルだろう。
可愛くないあいつと終わってしまった青春
そしてこの物語をいつか君にいえたらいいな。
そしてまたいつもみたいに笑って話せるぐらいになったらいいな。
それぐらい成長して俺たちがまた出会えたらいいのに
可愛くないあいつと終わってしまった青春 山田空 @Yamada357
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