会社員が癒された話

@8_8

会社員が癒された話。

真っ黒な空とは対照的なまぶしさと、知らない言語が飛び交う喧噪の中で、明日のことを考えながらひたすらに歩いていく。ひどく傷んだ心は、人混みをすり抜けていく体に張り付くようにして何とか俺の中に踏みとどまっている。

「疲れた・・・」

何か仕事でミスをしたわけでもないし、誰かと縁を切られたわけではない。

なんだかわからない力がひたすらに俺のことを攻撃している。辛い。けど、現状どうすれば良いかわからない。いやわかっても、何もできないだろう。

それだけ、俺は俺を見放している。それでいて、俺は俺をやめる勇気もない。


だから、きっと、こんなことをしているのだと思う。

地面ばかりの景色にきれいな足が映り込んだ時。

自分の財布を確認している時。

その娘に向かう自分に多くの眼差しが刺さっていた時。

それが社会人としていかなる行為であるか。本来どうあるべきか。

そんな常識はどこかに霧散して、見知らぬ彼女にひたすらに欲を向けていた。


3万円ほどで得られた事務的な動きと刺激的な光景は、今の自分がいかに虚しいかを知らせつつも、快楽と混ざりあい、なんだかわからない感覚を俺に与えていた。

時間にするとどれほどか。彼女はもう終わりといわんばかりに体を動かし、行為に一段落つけると、身支度を整え出て行ってしまった。

俺も少し間を開けて外へ出る。時計を確認すれば終電にはギリギリ間に合う時間で、足早に駅へと向かうべきことを俺に伝えていた。

そうして頭を上げ周りを見渡せば、同じく終電ギリギリなのか、足早に通りすぎるサラリーマンたちがいた。彼らの能面のような空虚な顔を見て、俺はどんな人種であったか思い出した。あんな若い子と交じり合う人間ではないし、彼女の目にも俺は彼らと同じ風に見えていたんだと。

そう思った瞬間、どうするべきかわからなくなった。このまま足早に帰る?いや、疲れるだけだ。どうしよう。とりあえず金は残ってる。何かしようか。いや、このあたりですることはない。まて、一応調べよう。

そうやって近く建物の壁に体を預けながら、既に省電力モードとなったスマホを操作する。やっぱり、近くには何もない。どうするか――。

「あの、どうですか。」

かわいらしい声と、きれいな足、そしてフローラルな香りが俺にあたった時、盛り返してきた常識に俺自身が蓋をする。ヤりたい。

「いいよ、いくら――――――

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