第2話 狂信者金髪取り巻きドリル

 咳払いをして声をいい感じにする。どんな感じで喋ればいいの?


「───ん゙ん゙っ、もう起きてるわ。入って」


 あー、なんか……違和感がすごいな。これが私の声で?口調で?この容姿で?この立場だって?

 後々考えないといけないことが増えたかもしれない。


「失礼いたします。おはようございます、お嬢様。今日はお早いご起床ですね」


 扉を開けて入ってきたのは、老齢のメイドだった。記憶によれば名前はマルタ・ヘンリエッテ。昔からの教育係でばあやと呼ぶことが多いらしい。美少女メイドでも美魔女でもない。


「おはよう。学院への入学が近いから色々考えていたの」


 今のところ上手くいっている私のアドリブ力を褒め称えたい。


「もうそのような時期でしたか。確かに、本日は一緒に入学するとおっしゃっていたグレイヴドリル家のご令嬢と会うお約束をしておりましたね」


「───グレイヴドリル家ッ……」


 思わず呟いたその家名を聞いて勝手に息が細くなった。

 な、なんだこの身体の震えは……? 自分の意思とは裏腹に止まらず、まさに本能から来るような……いや、彼女カタリアーナだ。カタリアーナが怖がっている?


「ああ、お嬢様はあのご令嬢が大の苦手だというのが昔からの口癖でしたね」


 そんなことを朗らかに微笑しながら言って、ばあやは髪を梳かし始めた。


 グレイヴドリル家、グレイヴドリル家……カタリアーナが苦手なグレイヴドリル家?ドリル……?

 あ! あの狂信者ドリルっ娘か!


 フロリア・ガード・グレイヴドリル伯爵令嬢。一対の猛々しい金髪ドリルがチャーミングな私の取り巻き……もとい私に敬虔な信者である。


 ストーリー中は常にカタリアーナの傍に登場してきており、合法的なストーカー野郎みたいな女である。ガンギマった忠誠度で悪役令嬢であるカタリアーナに似合わぬドン引き顔をよく見させてくれていたので記憶に残っている。


 とにかくヤバいやつだ。

 というか昔からそんな関係だったのか。


 あれ、大丈夫か……? 中身変わっちゃったよ? 殺されたりしない?

 あ、あれ? かなりピンチ?


「ば、ばあや。今日はいつ頃会う約束をしていたかしら……?」


「そうですね、午前にはこちらに到着すると伺っております。遅くともランチには間に合わせると」


 もうっ……! もう数時間しかないっ……!

 この間に何かできることは……そうか。


「ばあや、お願いがあるのだけれど───」



 ◇



「カタリアーナお嬢様、グレイヴドリル家の方が到着すると連絡が来ました。お出迎えの準備をしましょう」


 死亡リスクを少しでも下げるためドタバタしていたところ、使用人の男がそう言ってきた。

 ついに来たかぁ………


「すぐに終わるから先に行っておいてちょうだい。門の前であってるかしら?」


「はい、門の前でお出迎えを行います。では、お先に失礼いたします」


 よし、準備はこんな感じで大丈夫だろう。

 上手くいったんじゃないか、化粧。


 ばあやに見せるようにくるっと回ってみる。


「変なところはない?」


「大変美しゅうございます」


「……そう、ありがとう。じゃあ行くわよ」


 やっぱ調子狂うなぁ。

 今の私は、バカみたいにアホほど可愛くなっている。自分で言うのはなんだが、これもドリルを悩殺して違和感に気付かせないためだ。


 ドリルは私のことを可愛いとかなんだともてはやしていた、ガチっぽく。


 だから擬似ハニートラップで生き残れそうじゃね? と思ったわけだ。プライドはない。

 そこからは早かった。


 まずはセットに3時間掛けていたドリルを編み込みカチューシャをアクセントにした、お清楚系ロングヘアーに変更。1時間も掛からなかった。今後もこれにしよ。

 可愛げのある服は私物に全く無かったので、メイドに協力を仰いだ。淡い色で統一したブラウス、バッスルスカート、ショール。それにコルセット。こいつのせいでかなり腹が痛い。

 最後に化粧で立派なお人形さんの完成だ。

 恥はないが?


 ただ、悪役令嬢であるはずの私に協力的なのは引っ掛かった。メイドたちは服も嫌な顔一つせず貸してくれたからな。

 さっきの使用人もそうだ。もしかしたら嫌でも顔に出さないプロフェッショナルかもしれないが誠実だった。


 若いメイドの大半は下級貴族の奉公が大半……そう考えると好感度は重要と思えそうだけれど。

 ゲーム内の印象と周りの対応が随分違う。何か原因があるのか……



「お嬢様?」


「あ、あぁ。なに?」


「馬車がもうお見えになりますよ。せっかくおめかししたのですから笑顔の方が良いでしょう」


「そうね……」


 石畳の上を木製の車輪が転がっているのを音で感じる。門を越えてしばらくすると馬車が私たちの目の前で止まった。

 来るぞ来るぞ……笑顔だ、笑顔。



 ——─ぎぃ、と。扉が軋む音がした。



「カタリアーナ様?」


 あまりにテンプレな見た目と思ってしまう、金髪ドリル、つり目、その他諸々。


「ひ、久しぶりね。フロリア」


 頼むッ……!気付かないでッ……!


「ほ、本当にカタリアーナ様なんですかぁ!?!?!?」


「ちょっと雰囲気を変えてみたの」


「カタリアーナ様が私に物怖じせず喋った!?!? しかも服が可愛らしいですわ!!カタリアーナ様お可愛いですわ!! と、ということはあたくしに好意が!? 結婚しましょう!! カタリアーナ様結婚!!」


 別の意味で怖くなってきた。


「む、ですがあのカタリアーナ様があたくしをこんなに誘うなんて……何か裏があるのでは?」


 ヤバい化け物に勘付かれる。


「ほ、ほら! 外は寒いから早く中に入りましょう! 昼食の用意もしてあるわ!」


「か、かかかかカタリアーナ様の腕が私の腕に絡み付いてきた!? 」


「言い方! 早く行きましょう!」


「あっ、カタリアーナ様のいい匂いが……スーハースーハースーハースーハー」


 早く昼食の席に座らせて距離を取らないとなんか、いろいろまずい……! ゲーム内でもこんなにヤバくなかったのにッ!

 こんなことになるとは……殺される気配が皆無なのはいいとしてこれはこれでしんどい。





「お二人とも行ってしまわれましたね……」


「楽しそうでいいと思いますけどね」


「もう学院に行く年齢とは言え、お嬢様の教育係なんですからしっかり追い掛けないと」


「老体をもう少し労って欲しいですよ。まあ、お父様のこともありますから頑張りましょう」



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乙女ゲー善役令嬢(TS済)です。 ミTerら使 @mitara4_SHI

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