Ep5 RELATIVITY

 その日もまた、レーレライに突然呼び出された。


「いくら魔術が強かろうと、運動能力フィジカルが良くなければいけないだろう…?」


 指をポキポキと鳴らして不穏な笑みを浮かべている。


「このレイヴン本部には隊員用の訓練場がある。そこで仲良くな」




 はい。ですよね。一般兵と同じトレーニングメニューに突然一般学生が突っ込まれたら当然バテて倒れますよね。


「オラオラ起きろぉ!この程度で倒れるなんて生ぬるいぞ!」


 なんせ休日は一日15時間筋トレ、剣術、魔術をさせるのだ。魔術はついていけるが、身体強化を仕込んでいたことはレーレライにとっくにバレているため、ズルすることもできない。「訓練で身体強化使ったらクビだ」だそうだ。




 ここで僕の平日のルーチンワーク。


朝4時 起床。超眠い。レイヴン用の制服を着る。


朝4時半 朝ごはん(生卵5個)を食べて朝7時半まで訓練。


朝8時 学校用の制服に着替えて登校。


夕方5時 学生寮に帰宅。そのまま着替えてまた夜8時まで訓練。


夜12時 宿題をこなし、ご飯を食べて就寝。


 


* * *




 1ヶ月ほど経ったある日、お父さんが爵位授与式のために僕を訪ねてきた。


「うおおおおおおおおお!我が息子よおおお!すごいじゃないか!悪魔を倒すなんて!私は誇らしいぞおおおおおお!」


 お父さんは号泣しながら僕に抱きついてきた。


「そんなに絞めないで…ぐるじい…」


 あまりに強く抱きしめるので、窒息死してしまいそうになった。


「ん?少しガタイが良くなった気がするな。学校とは別に何かしらの武術でも鍛えてるのか?」


「ん…まあね」


「そうかそうか!良いことだが、身体を壊さない程度にしろよ!」


「いやあ…あはは…」


存在そのものが秘匿されてる特殊部隊に入ったなんて言えるわけない。しかも父さんよりも士官としては階級が高いことなんて言えるわけない。何なら父さんよりも高い爵位を授かるわけだし。


僕はその場を適当にあしらっておいた。




子爵杖の授与式、つまり僕が貴族の次男から立派な"当主"(というか宗主)になるための式典は王宮で行われた。


大勢の貴族が見ているなか、赤いカーペットの上を1人で歩く。彼らは序列で並び方が決まっているため、その法則に従えば父さんを見つけるのは家なり簡単だった。


広間の中でも数段高くなっている場所の手前で跪く。一段高くなっているところには2脚の豪華な椅子と、壮年と思われる夫婦の姿があった。玉座だ。その脇にはアズラエルも含め、他の王族が控えている。


意図的に玉座に陽光が当たるような造りになっているため、それがさらに国王と王妃の神々しさを引き立てている。


「汝、イスラフェル・フォン・ダブリス」


国王ヴァサーゴ•フォン•アスターテは、衰えが始まってきているがそれでも気品を感じる声だった。


「学園の生徒を襲おうとした悪辣な悪魔を討伐した功を認め、子爵杖を与え、以後レラティビティ子爵家初代当主を名乗ることを許す」


相対性理論レラティビティ。科学者アインシュタインが導き出した、エネルギーと物質は等価交換であることを示す宇宙の根元的理論の一つだ。この世界では伝わらなくとも、名を残すのなら科学にまつわるものにしたいと思い、この家名を上申した。


今日から僕はイスラフェル・フォン・レラティビティだ。




* * *




式典のあとは祝賀会も兼ねた大きな宴だった。


家を継いだのではなく、実力で勝ち取った爵位は尊敬の的となる。そのため実際よりも二つか三つ上の待遇で扱われるので、僕は今伯爵と同等の権力を10代半ばにして手に入れてしまった。しかも皇太子アズラエルよりも求婚が受け入れられる可能性が高い。つまり典型的な「玉の輿」である。


少しでも僕に隙ができると、貴族の婦女子がたが胸のはだけたドレスで迫ってくる。下は8歳から上は30歳まで、幅広い層が僕を狙っている。その方々の対応をしているとおちおち家族とも話していられない。


勿論男子としては嬉しいことこの上ない!最高だ!しかし、しかしだ!僕にだって家族や友達と話したいことがある!


というわけで、アズラエルにとなりにいてもらって迫りくる女性陣をガードしてもらっている。わかってるよ、僕が虎の威を借る狐みたいなもんだってことは。


「君も大変だねえ」


アズラエルがフォローを入れてくれる。


「貴族だったら側室を迎えることも認められてるんだし、いっそ3人くらい娶っちゃえば?」


出た、超絶リア充発言。僕が前世ではほとんど縁がなかったやつ。


「ちょっとアズ、友達に変なこと吹きこまないでね」


後ろから二人に話しかける少女がいた。アズラエルは一瞬で誰だかわかったが、僕は知らない人だった。


「第一王女のリリー・アルダト・フォン・アスターテです。どうかお見知りおきを」


リリーは華麗にお辞儀した。彼女は僕らの6歳上の21歳で、アズラエルの姉に当たる人なのだという。とても身長が高く、僕が背伸びしたときと同じくらいだ。腰まで届く白髪を二つにまとめてツインテールにしている美女だ。


その後彼女はいくつか会話して、どこかに行ってしまった。


僕はこのとき、まだ知らなかった。彼女が去り際に「やっぱり、まだ気づかないか」と呟いたことを…。

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