Ep4 RAVEN

 僕は、アンドロマリウスの目に突き刺さったSTVSを引っこ抜いて血を払い、鞘に収めた。


「え…」


 みんなが僕の方を見ている。


「嘘でしょ…」


「なにか問題でも?」


「だって…悪魔の最後の討伐記録は200年前だぞ?」


 アズラエルはそう答えた。


「え?これ悪魔なんですか?」


「そうに決まってるだろ!こんなバケモノ、悪魔以外の何物でもないぞ」


 そうなの?やっちゃった?目立っちゃった?


「とっ…とりあえず、校長を読んできます!」


 ローズ先生はそう言ってその場から立ち去ってしまった。




 その日の夜、黒い軍服を着た人物が学生寮を訪ねてきた。


「貴殿がイスラフェル・フォン・タブリスですね?」


「はい…なんでしょうか」


「王国軍親衛隊独立作戦大隊八咫烏レイヴン第08小隊隊員ホマレ2等魔術士官です。あなたを1等魔術士官としてお迎えに上がりました」


 ついに来たぞ。親衛隊のお呼び出しだ。ちなみに1等魔術士官は軍隊でいうと大尉に当たる階級である。聞きたいことは山ほどあるが、後で説明してくれるのだろう。




 寮を出てすぐ近くの路地裏に入ると、ホマレはそこで小さな紙を取り出した。紙には複雑な魔法陣が描かれている。


「転移魔法を使用します。互いに触れていないと置いていかれるので手を握ってください」


 ホマレは右手を差し出してきたので、僕は握手するように手を握った。


「では行きます。一瞬落ちるような感覚がありますがきちんと立っていてください」


 なかなかに親切だが、これがこの男の本性かどうかはわからない。


 魔法陣を起動すると一瞬目の前が光り、足元が崩れ落ちるような感覚があった。しかし、立っていろと言われたので直立の姿勢を維持する。




 気がつくと、周りがレンガできた狭くて小さい部屋の隅に立っていた。ホマレはそばのデスクに座っている若い女性に敬礼したあと扉の前に行き、そこで直立不動の姿勢になった。


「君が悪魔を倒したという生徒かね」


 デスクに座っている人物が低い声で話しかけてくる。


「本来君を我が大隊に加えるのはもう少し先立ったんだが、君も見た通り今回のような事件になってしまったからな。どうやら我々が思っているより早く事態が動いているようだ」


「はあ…」


「失礼、自己紹介が遅れた。レイヴン大隊隊長レーレライ・アルマロス3等情報将校だ」


「そのレイヴンってなんなんですか?そんな組織無いですよね」


 勢い余って聞いてしまった。


「まあ説明するよ」


 そう言ってレーレライは形の整った足を組んだ。


「レイヴンは、王国軍の一部ではあるが、王族の直接の指示で表には出せない任務を請け負う特殊な部隊だ。そのため、剣術、戦術、情報、そして魔術の各方面から最精鋭を集めている。その任は諜報だったり特殊工作だったり、反抗組織の討伐だったりするが、特性上存在は最高軍機に属している。


 まあ、説明としてはこんなもんかな。それはそうと、本当にレイヴンに入隊するのかね?まあ、この部隊が存在するということを知った時点で入隊するか死ぬかしか選択肢はないがな」


 思ったよりやばいんじゃない?CIAとかMI6みたいなとこに入ろうとしてんの?僕は。


「入ります」


「よかろう。少し目を合わせろ」


 レーレライはそう言って席から立つと、自分の顔を僕の顔に近づけた。身長が今はまだ170センチを越していない僕が言うのも何だが、レーレライは背が高かった。レーレライは少し身をかがめて僕の瞳を覗き込んだ。


「よし、敵性組織の関係者ではないな」


 今の一瞬の間に、僕がこの世界に生まれてからの記憶を読まれたらしい。


「わかってるだろうが、君の任務は皇太子アズライル殿下の護衛だ。近年テロリスト共の動きが活発化していて、特に皇位継承順位が1位である皇太子殿下に刺客が迫りやすい。だから一人でも大きな強さを持つ君に殿下の近くで守っていてほしいのだ」


 まあ、学園に特殊部隊を大勢送り込むわけにもいかないしな。


「わかりました」


「ではここにサインを」


 差し出されたのは誓約書だった。内容は、




 「私は騎士として主君に忠誠を誓い、軍人として王国を守る義務を負い、たとえ殉職しても任務を全うする」




 つまり、死んでも文句なしってことだ。


「あと、レイヴンに入った時点で君は王国騎士となるが、それは今度だ」


「どういうことですか?」


「お前、悪魔を倒したのだろう。貴族なら爵位が公爵までストレートに上がるはずだが、まだ若いからダブリス家と分かれて新たに子爵家を作り、その初代当主をお前にするという話らしいが」


「え…ホントですか」


 僕は一瞬血の気が引いた。悪魔を倒すって、とてつもなくやばいことだったのか…


「新しい家の名前を考えといたほうがいいぞ」


 レーレライは俺の方を叩いた。


「制服を見繕ってこい」


「はい…」


 放心状態だ。貴族には爵位というものがあって、一番下が男爵、その次が子爵、伯爵、侯爵と続いて最高が公爵である。タブリス家は男爵家なのに、その次男が子爵家の初代当主とは…




 ホマレにつれられて部屋を出ると、そこは少し狭い廊下だった。松明の明かりが照らしている。


「今日からあなたは1等魔術士官です。私の上官になるので、身分相応の立ち振舞を」


「ハイ…」


「そこです」


「…分かった」


「そう。それでお願いします。1等魔術士官は中隊長クラス、つまり殆どの隊員はあなたの部下ですので」


「分かった」


 人の上に立つのはつらい。




 廊下の途中に小さな部屋があり、その中には黒い軍服がたくさん入っていた。その中からサイズの合う物を探すのは簡単だった。あとは制服担当士官に首元に階級章を縫い付けてもらったら完了だ。


 制服は専用の腕輪に収納することができ、腕輪に魔力を通すことでその時点の服が制服に一瞬で置き換えられる。


「これで終わりになります。この魔法陣に魔力を通せば転移する前の場所に戻ります。では、失礼いたします」


 ホマレは律儀に敬礼をした。僕は敬礼を返し、魔法陣を起動した。




 再び落ちる感覚があり、気がつくと寮の近くの路地裏だった。


 もうすでに夜明けに近かったので、すぐにベッドに滑り込み、眠りについた。

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