第3話 A面 泥泥退治2
通話が切れた端末に舌打ちする。無茶を強いる上司に歯噛みした。
「大丈夫です。絶対、大丈夫です」
独り言にも近い言葉を背後に投げかける。女性は震えつつも、八次を見ていた。
構えた刀の鞘が柔く光る。鞘とは名ばかりの、刃を覆う金属製のアーマー。それに刻まれた溝が点光した。
解錠の文字が浮かんで消える。
「なにこれ、ホログラムに力入れてんのかよ」
かっけぇじゃんと吐き捨てると同時に、重い音を立ててアーマーが落ちる。泥々が飛びかかってくるのに対し、刀を構えた。
「ニタニタ笑うなよ、気持ち悪いから」
近付いてくる泥々をに刀を振るう八次。八次の動きをぬるぬる避ける姿に、弄ばれているような気もする。腹が立つ、と歯を向いて顔を顰めた。短く息を吐いて、援軍を待つ間が持てばいいと、自身を奮い立たせる。振り下ろした刀を再度構えた。
「イヨッシャアー!」
独特の掛け声を腹から出し、強がりのような気合を入れる。様子を伺うように流動する泥々へ、刃を振り下ろした。
近づいては離れる泥の影。刀を振り抜いては避けられるが、それでも追撃は緩めない。初めて対処する天使に勝てると思うほど馬鹿ではない。しかしここまで攻撃が入らないとなると、落ち込む上むかっ腹も立つのだ。
刀を地に近づけ、泥々の間合いに入る。間合いに入り込まれても、泰然な様子。舐められているのかと八次は笑った。人間的な思考が見える。気持ち悪い。
「避けるなオラ!」
一閃、逆袈裟切りを放つ。吹き飛ばされ、ビチビチとのたうち回る影。切られた箇所が、磁石に吸い寄せられる砂鉄のようにざわめいている。しかし影は人の形に戻れず、同じ動きを繰り返している。
「はは、ビビってる!」
泥々を的外れに煽る。煽りというよりかは、自分の気持ちを落とさないように出した声だった。言葉に意味は無い。八次は緊張すると独り言が増えるタイプだった。
刀による攻撃が効き、回復を阻害できることが分かった。これだけでも有益である。
影は立ち上がろうとしている。八次はじっと泥々を見ていた。目を離さないように、動きを見逃さないように。ずるり、と泥々が動いたとき、線路の向こうから声が届いた。
「八次!」
管楽器のような、耳を劈く声。背後へ反響していく自身の名前に、八次は破顔した。
「紫波!」
「てめぇ!」
凄まじい速さで泥々に接敵し、飛び蹴りを放ったのは金髪結い上げ纏めた少年。すらりと伸びた、少年と青年の間を象った四肢。
「お前のせいで型抜き負けたんだ!もんじゃ奢れよ!」
「緊急事態だし仕方ねぇじゃん。つかまた駄菓子屋行ってたのかよ」
泥々に避けられ、転がりながら受身をとって立ち上がる少年。名前は紫波と呼ばれた。大層ご立腹、といった表情で八次に怒鳴る。
「どうせまたチビたちに負けてたんだろ」
「負けてねぇし」
泥々は、避けるために崩した身をゆらりと起こす。
紫波の腰に下げられていた、八次と似たアーマーが柔く光る。左右対称のアーマーが解錠された。紫波は短刀を抜いて構える。
「は?刀使えんの?つかアイツなに?キモ、うわ、キモキモ、キモキモ!」
「うるせぇな~」
「あいつなに?」
「泥々」
「まじ?はじめて見たわ。」
「俺も。」
泥々から目を離さず、二人は刀を構える。
「そこに保護対象がいる。刀による斬撃は効く」
「ホゴ?人いるのか!?」
「そこ」
「うわ、いた」
「そう」
「とりあえず、早く片付けるぞ。鵺湯が来る前にどうにかしねぇとぶっ飛ばされる」
紫波の言葉に、八次は若干顔を青くして頷く。
「俺が陽動。後ろから叩いて終わりだ」
「おう」
紫波の構えた手の甲、刻まれた刺青が動いた。
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