第26話 初めての遠出!塩の村に潜む大問題とは?薪不足&人手不足の現実に驚愕!



第一章:父との旅立ち――馬での初遠出!






「馬に乗るのは初めてか?」


父さんが、手綱を握りながら振り返る。




「もちろんさ! 乗馬経験なんてないよ」


俺は父さんの背中にしっかりと掴まりながら、ワクワクした気持ちで馬に揺られていた。




これまでの移動は 家の周辺 や ギルドまでの短距離 ばかりだったが、今回は 初めての長距離移動 だ。


しかも 父さんと二人旅!




「馬の乗り心地って思ったよりも揺れるな……」


「最初はそう感じるが、すぐに慣れる」


「そうかなぁ……」


「お前のバランス感覚なら、すぐに慣れるだろう」




そう言われても、俺の尻はすでに痛い。




「これ、長時間乗るとお尻が割れるんじゃないの?」


「割れる心配はない。もともと割れている」


「いや、そういうことじゃなくて……!」




思わず突っ込んだが、父さんは馬を進めながら笑っている。


……うーん、なんというか、ちょっと楽しそうだな、父さん。




「馬に乗るのって、父さんも最初は大変だった?」


「そうだな……昔は俺も初心者だったが、鍛錬を重ねた」


「ほうほう、どんな風に?」


「……最初はよく振り落とされたな」


「マジか!?」


「慣れるまでに何度も落馬した」


「すっげぇ……そんなに練習したんだ」


「まあな。だが、今ではこの通り」




父さんは軽く手綱を引いて、馬をスムーズに操る。


まるで一体化しているかのような動きだった。




「すげぇ……俺も乗れるようになりたいな」


「そのうち教えてやる。今はまず、馬の動きを体で覚えることだ」


「うん……でもお尻が痛い……」


「そこは我慢しろ」


「地味にツライ……!」




道中、俺は馬の揺れに必死に耐えながらも、会話を楽しんだ。


父さんと二人きりで旅をするなんて、なかなかない経験だ。




「……ところで父さん」


「なんだ?」


「村に着いたら、何か美味しいものとかあるの?」


「……塩だな」


「いや、それは知ってる。塩以外の!」


「……塩漬けの魚ならある」


「やっぱ塩系かーーー!」




こうして俺たちは、のんびりと 塩の村 へ向かうのであった。


















第二章:塩の村に到着! しかし…?




潮風の香りが漂い始めたころ、俺たちは塩の村に到着した。




 馬の足音が土と砂の混ざった道を踏みしめるたび、乾いた砂埃がほんの少し舞い上がる。


 村の入り口には木製の門のようなものがあるが、それは半分朽ちかけていて、扉の片方は完全に外れかけている。




 「……なんか思ったより活気がないな?」




 俺は思わずそう口にした。




 家々はどれも木造で、潮風に晒され続けたせいか、建物の壁は色あせ、ところどころ朽ちかけていた。


 屋根の一部が崩れている家もあり、補修する気力すらないように見える。




 村の中央に向かって進むと、通りにはちらほらと人の姿が見えたが、そのどれもが 疲れ切った顔 をしている。


 肩を落とし、足取りは重く、目には活力が感じられない。


 まるで、村全体が 静かに衰退していくのをただ受け入れているかのようだった。




 それに加えて、 村の道は細かい塩の粒がうっすらと積もり、歩くたびにじゃりじゃりと音を立てる。


 この村では塩がすべてなのだと、これだけで理解できた。




 「ようこそおいでくださいました、領主様……」




 やがて、村の広場に出ると、一人の老人が俺たちを出迎えた。


 日焼けした顔に深く刻まれた皺、白くなった髪、そして疲れ切った目……。


 服も潮風に晒されすぎて、色褪せてしまっている。




 「村長か?」


 「はい、村長のゲルトと申します。お久しぶりでございます、領主様」




 村長の声はどこか力がない。


 それを見て、俺は確信した。


 この村は今、とてつもなく疲弊している。




 「……さっそく塩作りを見せてほしい」


 「はい、こちらへ……」




 俺たちは馬を降り、村長の後ろについて歩きながら、村の奥へと向かう。




 途中、通りに並ぶ家々の前には、家財道具や壊れた木箱が放置され、生活感がほとんど感じられない。


 子供の姿も少なく、見かけても服は薄汚れ、遊ぶ元気すらない様子だった。


 ……まるで、活気というものがすべて奪われた村のようだった。




 「……なあ、父さん」


 「何だ?」


 「この村、本当に塩でやっていけてるのか?」


 「……現状を見る限り、厳しいだろうな」




 父さんの低い声が答えを示していた。




 やがて、視界が開け、俺たちは村の端、海岸へと出た。




 そこには広大な塩田が広がっていた。


 大きな四角い枠の中に海水が張られ、天日干しで塩が作られているのがわかる。


 しかし、何かが おかしい。




 「……あれ?」




 俺は違和感に気づいた。


 村長は困ったように苦笑する。




 「ご覧の通り、塩の生産量が……追いついていないのです」




 広大な塩田のわりに、干されている塩の量が圧倒的に少ないのだ。


 明らかに生産が滞っている。




 海沿いにずらりと並んでいる釜炊き場も、半分以上が冷え切っていた。


 本来なら火が入って、もくもくと煙を上げているはずの場所なのに、そこに活気はない。




 「……薪が足りていない?」


 「……はい、それもあります。そしてもうひとつ、大きな問題が……」




 村長は深いため息をついた。




 「塩作りには 大量の海水を運ぶ作業 があります。これは 人力 での作業で、かなりの重労働です。


 しかし、人手が足りず、一度に運べる量が少ないため、塩の生産速度が大きく制限されているのです」




 なるほど……。




 俺は 薪不足と人手不足、この二つがこの村の問題 なのだと理解した。




 「つまり、薪不足で釜が動かせず、人手不足で海水を十分に運べない――そのせいで生産が追いつかない、と?」




 「その通りです……」




 俺はしばらく、静かに海を眺めながら考え込んだ。


 この村をなんとかしないと、塩の生産が安定しない。


 俺の領地にとっても、この村にとっても、解決しなければならない問題だった。




 俺は拳をぎゅっと握る。


 この問題、なんとかしないといけない。




 そして、俺の 塩の村視察 が本格的に始まるのだった。
















第三章:塩の製造工程――異変の正体






 「では、塩作りの工程を説明いたします……」




 村長は俺たちを塩田の前へと案内した。




 目の前には、広大な四角い塩田が広がっている。


 しかし、その様子はどこか異様だった。


 塩田の水量が異常に少なく、一部はすでに干からびてひび割れている。


 正常な状態ではなく、明らかに生産が追いついていない状態だった。




 「……そもそも、塩ってどうやって作るんだ?」




 俺は村長に問いかけた。


 もちろん、前世の知識である程度は知っているが、この世界の塩作りはどうなのかを確認したかった。




 「はい、まずは人力で海水を塩田に引き入れ、天日干しにして蒸発させ、濃縮塩水を作ります。」


 村長は塩田を指さしながら説明を続ける。




 「海水には塩分が含まれていますが、そのままでは濃度が低く、塩を取り出すのに効率が悪いのです。


 そこで、まず天日干しをして水分を蒸発させ、塩分濃度を高める必要があります。」




 なるほど、基本的な流れは俺の知っているものと同じだ。




揚げ浜式塩田だね




 太陽の力を利用して水分を蒸発させることで、塩の結晶を作るのではなく、塩を抽出しやすい濃縮塩水を作るのが目的というわけだ。




 「……でも、太陽の力だけで完全に塩になるわけじゃないんだろ?」




 「はい、ここからが次の工程です。」




 村長は俺たちを塩田の奥にある建物へと案内した。


 そこには大きな釜がいくつも並んでいる。


 本来なら釜がすべて稼働し、塩を精製しているはずなのに、半分以上が冷え切っていた。




 「濃縮した塩水は、この釜で煮詰めて水分を完全に飛ばします。


 そうすると、最終的に塩の結晶ができるのです。」




 村長は、かつて塩を作っていたであろう釜の中を見せてくれた。


 内部にはほんのわずかな塩の結晶が残っているだけで、ほとんど何もない。




 「つまり、塩作りの工程は大きく分けて二段階あるわけか。」




 ✅ 第一段階:塩田に海水を引き入れ、太陽の力で水分を蒸発させて濃縮塩水を作る。


 ✅ 第二段階:濃縮塩水を釜で煮詰め、最終的に塩の結晶を得る。




 俺は整理しながら頷いた。




 「……でも、今の状態を見る限り、どっちの工程もうまくいっていないように見えるな。」




 「はい……」


 村長は疲れ切った表情で頷いた。




 「以前は、この釜もすべて稼働していたのですが、薪の不足と人手不足により、生産量がどんどん落ちてしまいました……。」




 「薪が足りないってことは、海水の濃縮も思うようにできないし、釜炊きもできない。


 さらに、人手が足りないってことは、そもそも塩田に海水を運ぶ作業自体が難しい……」




 俺は状況を理解し、額に手を当てた。




 「なあ、薪ってそんなに調達が難しいのか?」




 「はい。この村は海沿いにあり、周囲には木がほとんど生えていません。


 昔は内陸部から木を運んでいましたが、最近は燃料の価格が高騰してしまい……」




 村長は辛そうに言葉を切った。




 「つまり、木材の供給が追いつかなくて、燃料がどんどん高くなり、結果として薪を買うのが難しくなったと?」




 「はい……。しかも、塩作りには大量の海水を運ぶ必要があります。


 この作業はすべて人力で行っているため、体力のある若者が必要です。」




 俺は改めて塩田の様子を見た。


 確かに、何人かの村人が大きな桶を抱えて海水を塩田まで運んでいる。


 だが、その人数はあまりにも少なく、労働負担が大きいのが一目でわかる。


 顔を赤くし、息を切らしながら、何度も何度も往復しているのだ。




 「……でも、どうしてそんなに人手が足りないんだ?」




 「若い者の多くが、この村を離れてしまったのです。」




 村長の顔が沈む。




 「塩作りは重労働です。しかも、燃料不足の影響で思うように生産できず、村の収入も減りました。


 その結果、若者たちはより良い仕事を求めて、他の土地へ出て行ってしまったのです……」




 「……なるほどな。」




 つまり、この村は好景気の波に乗れず、逆に衰退してしまったのか。




 ### 好調な領地運営と、苦しむ塩の村    俺はここで、一つの大きな矛盾に気がついた。




 俺の住む領地は、黒砂糖の生産が軌道に乗り、燻製肉の販売もうまくいっている。


 その結果、領地全体の経済が活発になり、塩の需要も爆発的に増加した。




 しかし――。




 その需要に供給が追いつかず、この村の生産能力が限界に達してしまった。




 だからこそ、


 「もっと塩を作らなければ!」


 と村人たちは無理をして働き、気が付けば疲弊しきってしまったのだ。




 これこそが、今この村が抱えている最大の問題だった。




 「……まさか、俺たちの領地の発展が、この村を追い詰めたのか……?」




 俺は思わず、父さんの顔を見た。




 父さんは静かに頷いた。




 「……そうだ。私はこの村の重要性を理解していたが、ここまでの状況になっているとは予想できていなかった。」




 父さんの表情は険しい。




 「領主として、村の発展を支えるのは当然の責務だ。だが、私はここに目を向けるのが遅すぎた……」




 俺は何も言えなかった。




 俺の領地が繁栄する一方で、塩の村は衰退しつつあった。


 これでは領地全体の発展とは言えない。


   この村の塩がなければ、俺たちの領地の発展も持続できないのだから。




 俺は拳を握りしめる。




 「……なんとかしなきゃな、この村の問題を」




 このままではいけない。


 俺たちは、この村をどうにか立て直す必要がある。




 だが、今すぐには解決策は浮かばない。




 「……まずはもっと詳しく話を聞かせてください」




 俺は村長に向かって、まっすぐにそう言った。




 俺の 塩の村視察 は、まだ始まったばかりだった――。








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