04 僕と家族

 まず先週、僕の両親が死んだ。フェリーの事故で……死体もなかったけど、まあ葬式をしてたんだ。でも、それはいい。


 問題は、そこに来たヤツだったんだ。

 オヤジとオフクロの


「あ……」

「…………あ?」

「え、あ、いや、太陽くんって、お父さんお母さんのこと、そう呼ぶ派なんだー、って」

「…………なんだよ、ヘンじゃないだろ」

「えー、でもさー、それってなんか、もっとオトナの人の呼び方っぽいっていうか、なんか……ムリしてる感ない? 自分で言っててどう?」

「……ぃ、いいだろそんなこと、前からそう呼んでるんだから」

「一絵、ヘンなクチバシを突っ込むんじゃないよあんた、だいたい、ご両親を亡くしたばかりの子にそんなことをね」

「わ、私なりに気をつかって、その……ご……ごめんなさい……」

「ああ、それはいいんです、別に、どうでも」

「別に、どうでも……って、あんた……」

「まあその……あんまり、良い関係ではなかったので……はい」

「…………ああまったく、どいつもこいつも、どこを見ても、イヤな世の中だね、まったく……悪いね、続けとくれ」


 …………オヤジとオフクロの同僚だって名乗ったそいつが、雨咲紫子あまさきゆかりこ。そいつが僕に葬式の後で話しかけてきて……世界を変える力が欲しくないか、とか言いやがったんだ。


 正直……やっべえ人に話しかけられちゃったな、と思ったけど……でも、その時は僕、葬儀ホールのロビーのソファにいて……その後ろで、親戚一同が話してたんだよ。僕を誰が引き取るか、押しつけ合ってて、どいつもこいつも、あんな子を引き取る余裕はウチにないだとか、そういう施設に送るべきだとか……いや、まったく、笑いを抑えるのに必死だったんだ。マンガみてえ! ってさ。


 だからまあ……僕の前でそんな話堂々としてる親戚連中と、初対面の僕に世界を変える力が欲しいか尋ねてくるヤバいお姉さん、天秤にかけて……頭のヤバさは同じぐらいだな、って思ったから、後で話のタネにでもなりそうな、雨咲あまさきの方についてくことにしたんだ。


「……ねえねえ、美人だった?」

「すんげえの、生まれて初めて見たぐらい」

「うひー、私でもついて行っちゃうかなー、それは、なんか物語の始まりっぽいし」

「だろ?」

「でも、よーするに、色仕掛けされたってこと?」

「……ぃ……いや……? 違う……が……?」

「一絵、思春期男子にそういうこと言うんじゃないよまったく、坊やもいちいち反応するんじゃない……ほら、続けな」


 ……ごほん。


 まあそれで……そしたら、ホールの外にいた男に肩を叩かれた、って思ったら次の瞬間……アジト、的なところにいた。転移系異能ワープだろうね。


 そこで、雨咲がイコライザーの首領だってこと、僕に世界最強の異能をくれるってこと、その力でこの異能主義ヒロイズム社会をあるべき人間中心の社会に戻して欲しいこと、色々説明されて……で、まあ、適当にハイハイ話を合わせて逃げよう、って思ってたら……あれよあれよと言う間に、アジトの中の実験施設みたいなのの真ん中に行かされて……気がついたら、その異能がもう、僕の中にある、って言われた。


 何をどう考えても、世界最強の異能だ。

 その異能は……ええと……要するに……。


「わかった! 時間を止めるヤツ!」

「もっと強い。そもそも今の社会じゃ時間系異能クロックは最弱だよ、野良で何やったって異能犯罪だから、公務員しか就職口がない」

「えー……? 体を光にできるヤツ?」

「問題にならない。五年ぐらい前に鳴り物入りでプロデューした異能選手がいたけど、去年引退したんじゃなかったっけな、結局質量がないに等しいからダメージが与えにくいってことで」

「うーーーん、なんだろ、ヒント、ヒントちょうだい」

「クイズやってんじゃないんだよ一絵……」


 ……ごほん。


 異能の名前はモンキー・マジック。

 三つの願い、って書いて〈三つの願いモンキー・マジック〉って言えば、ちょっとは予想つくんじゃないか? 名付けはそこの博士がしたんだけど。


 どんな願い事でも、三つ、なんでも現実になる……そういう異能。


 五千兆円でも、世界から炭素原子を消滅させるのでも、自分が世界大統領ってことになるのでも…………全人類から異能を消すのも、なんでもできる……らしい。


 今はもう滅びたって言われてる、戦争を終わらせた八人が持ってた、アレだ。




 零種異能ゼロス――概念系異能コンセプトだ。




 ……まあ、信じなかったけどさ。


 でも、僕にその改造をした博士的な人が、言ってたんだ。

 僕のこの異能は、一万人分の異能が凝縮したヤツなんだって。


 それで……神楽さんは知らないかもだけど、


「あ、一絵でいいよ、一絵で。妹いるしややこしいでしょ。私も太陽くんって呼ぶから」

「あー……うん」


 一絵さんは知らないかもだけど、イコライザーってそういう事件、かなり起こしてるだろ。


「……そーなの?」

「都内の失踪事件は八割方、EQの連中が絡んでる、なんて都市伝説があったけど……まいったね、連中、そんな技術があったのかい……? 人間をかっさらって、溶かして、合わせて、強い異能の原料にしちまう……そういうことかい」


 そういうこと、みたいです。


 ……で、話はこっからおかしくなるんだけど……。


 ようやく僕も、おかしい人に絡まれたんじゃなくて、現実の犯罪者、テロリストたちに良いように使われようとしてる、って気付いた。


 願い事を三つ、叶え終えるとどうやら僕、死んじゃうらしいから。


 ……でも、そこの博士が……たぶん、頭のおかしい人だった。

 いや、僕からしてみれば、イコライザーの人たちみんな頭はおかしいけど……社会を転覆させてやろうとか、そういう頭のおかしさじゃなくて……。


 その博士に……色々聞かされて、僕はようやく真剣に怖くなり始めて、ただ突っ立ってるだけだったのに……突然博士が、僕の異能が暴走した! とか叫んで、その実験室をシャッターで覆って、見学してるEQの連中が見えないようにしたんだ。


 博士……アラシダジュンプウとか、ふざけた名前を名乗ってたけど、博士はどうやら、


「ちょっと待ちな、その博士って……女かい?」

「……でした、けど」

「眼鏡で百三十ぐらいのチビ?」

「でした……けど……?」

「…………まいったね、坊や、そいつ、本物だろうね……」

「ご存じ、なんですか……?」

「坊やなら知ってんじゃないかい? 異能研究でノーベル賞をもらった、広井淳子ひろいじゅんこっていただろう。事故か何かで死んだってことになってたが……その広井のインタビュー記事で読んだことがあるんだ。落語が好きで、自分でもアマチュアながら披露するぐらいで……高座名がたしか、嵐蛇巡風あらしだじゅんぷう


 ……なる、ほど……。


 で、その巡風が、言ったんです。

 自分は異能研究がしたいから、異能をなくしたくはない、って。

 君はここから逃げ出して、カオスを振りまけ、なんて言って。


 で、その研究室から密かに、外に繋げてたっていう抜け道から、僕を逃がしてくれたんですけど……すぐに、あの男が追ってきて……幸い、アジトは渋谷のビルのワンフロアに繋がってたみたいで、そこら辺なら土地勘があるんで逃げられましたけど……でも、追っ手は転移系異能ワープ、それも人着タイプで……。

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