二章 後悔

あの日さえ、無ければ

私はずっと、友達が欲しかった。いつからかは分からない、何故なのかは分からない、ただただ友達が欲しかった。

私は過去の記憶があまり無い。特に小学校低学年頃の記憶はすっぽり抜け落ちていて、その時のことを思い出すことは出来ない。


解離性健忘。


その言葉だけが、真っ暗な記憶の中に白く輝いて、浮いて見えた。

どうやら私はそういう病気のようなのだ。そういう病気を患っている―――という、らしい。


私には友達が居た。

彼女のことをはっきり覚えているわけではない。

むしろ忘れていることのほうが多い。

その友達の名前は、■■。自分のことを■■■だと言っていた。


「■■■と会うのは初めて?」


幼い頃私はその名前の意味を深く考えなかった。

■■■■ことに憧れているのかな、と渾名のような感じに捉えていたが、今考えてみれば本当にそうだったのかもしれない。

何故なら■■は私と同じように、世間ではあまり言われていないような見方を持っていたからだ。


「ここで魔女がこうすれば阻止できたのにね」


「え、それな! なんでそこでやらないんだろ」


「この本、死体が載ってるよ」


「マジ!? 見たい見たい! もう最高なんだから〜!」


「もし殺人を犯すとしたら、こうしたらバレないんじゃない」


「う〜ん、こっちの方がバレにくそうだけど」


小学生の会話とは思えないほど■■な、そんな内容ばかりだった。

小学生らしからぬ真剣さで、そのことばかりをずっと話していた。

ずっと話していて気付いたら最終下校時間を過ぎていて、見回りに来た先生に呆れ顔で帰れよと言われたこともある。

そんな二人は周りからは気味悪がられ、近寄ってくる人は居なくなった。

けど私は全く悲しくはなかった。彼女さえ居れば、それで十分だった。


私と■■は、いつまでも友達でいられる―――そう思っていたし、そう信じて疑わなかった。


ある日、いつもと同じように学校で話していた。

最近ハマっているのは殺人後のアリバイ作りに付いての計画について考えること。


「で、ここでさっきの電話がアリバイになるってわけ。頭いいでしょ」


「すご! 私そこまで考えられなかった! そっか、そこにさっきのが刺さるわけか。わぁ〜、気付かなかった」


「へへへ、完璧っ!」


「むー、負けないぞ! じゃあ今度は私の番ね!」


交代交代に楽しげに話していた私と■■。

クラブ始まりのチャイムでふと我に返ると塾の時間が迫ってきていた。二人揃って急いで荷物をまとめ、一目散に家へ走る。


「やっば、遅刻遅刻! あの先生遅刻には厳しいんだよね……!」


「急いで急いで~! あ、荷物取ったら合流ね! 出来る限りダッシュで!」


「当たり前! 最速で行くわ!」


家は■■■だったから、一緒に走った。

■■と家の前で合流しようと言って家の庭をダッシュで横切る。


と、その時、ぶわりと寒気が全身に走った。


身体がブルリと震え、冷や汗が流れる。

■■■■がしてたまらなかった。

それでも、その寒気の正体は分からないまま走って、玄関を■■■■■■■、階段を上って、■■■■■へ―――■■■■は、出来なかった。


玄関で立ち止まってしまった。

立ち尽くしてしまった。


殺人を犯したのは、■ではなかった。


私の母の■■■■に、私の■が立っていた。


血まみれの服を着て、真っ赤に染まった■■■を片手に、光のない目をこちらに向けている。

■■■で、指ひとつ眉ひとつ動かさず、それこそ■■■■■■■■状況だった。

自分も■■■■■じゃないかと思った時には、もう玄関の扉に手をかけていた。

先ほど玄関に入ってきた勢い以上の■■■■で、玄関から■■■■■■■。

本当に■■を感じた時■■■■■が出るというのは本当だったらしい。

何も考えられず何も分からず、ただただ叫んでいた。


「■■■!! ■■■! ■■■―――!!」


■■■に居るはずの■■が今ここに居てほしかった。

誰か、■■■■が今すぐ目の前に現れてほしかった。


「■■、■■。■■■■■■■■■■」


後ろから、■の声が迫ってきていた。

私はただ必死に■■■。震えてうまく■■■■■を、■から■■■ことだけを考えて無我夢中で■■■■■■。

こんなところで■■■■■■―――あれだけ考えていたことが目の前で■■となって、■■■■■になって私を■■■■■。

その勢いは■■■■■■にして、■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■。

■■■■■■■■■■。

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