第16話

「優子。莉理に意地悪しないで。お姉ちゃんなんだから、言うことぐらい聞いてあげなさいよ。十二個も違うんだからね。」

 お母さんが冷たい目で私を見下ろす。

「うん、分かった。」

「分かったのなら、さっさと莉理に謝りなさい。泣きそうになってるわよ、あの子。」

 私は、お母さんに見てほしくて、頑張ってるのに。そんな顔で見てほしいわけじゃないのに。心臓が苦しくなっていくのに、やめられない。

 本当に私、馬鹿みたい。

「莉理、ごめんね。」

「・・・・・・。」

 元凶は、ぷくっと頬を膨らませている。そばに座る男の人も少し顔をしかめていた。大事な一人娘を傷付けられたから、そりゃそうか。

「莉理。」

「・・・・・・。」

「莉理、お詫びとして。今度、どこかに遊びに行こうか。」

「え、ほんと―――」

「だめよ。あんたは勉強があるでしょ。それ以外取り柄ないんだから、勉強ぐらい頑張りなさいよ。」

 名前すら呼んでもらえなくなったのに、どうして私はお母さんからの愛を求めているんだろうか。こんなに冷たい言葉を投げられるのに、笑っていられる自分が分からなくなってきた。

「・・・・・・お父さんに会いたい。」

 空気が凍ったことに気が付く。ああ、やっちゃった。

「おねえちゃん?おとうさんなら、ここにいるよ。」

「そうだね。変なこと言っちゃった。いっぱい勉強したからかな。けど、お姉ちゃん、まだ勉強したいから。莉理、お姉ちゃんと今度、一緒に遊んでくれる?」

「うん!」

 この子が羨ましい。何も知らないなんて、ずるい。リビングを離れようとするとお母さんが「優子の父親はもうあの人よ。変なこと言わないで。」と耳打ちした。リビングの扉を閉めると、乾いた笑いが漏れた。口角は、上がっていなかった。玄関の姿見で、私を見てみても、私は笑っていなかった。真っ黒で輝きはもちろん、色すらない目をしていた。

 私は、とっくに壊れてる。

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