第10話 ハンバーガーショップ
翌日、俺はタツオミとハンバーガーショップにいた。タツオミの好物のてりやきバーガーと、それにサラダとお茶もつけてご馳走する。
「ファーストフードだけど、ポテトやジュースじゃなくてサラダやお茶にする、という些細な抵抗をしてるんだ」
とタツオミは言った。健康に気をつけているらしい。タツオミも部活に入っておらず、体力づくりに筋トレをしている。触らせてもらうと、結構ガッチリしていた。
「集中して勉強するためにも、やっぱり体力は必要だから」
勉強に体力が必要なんて、考えたことがない。なんかレベルが違う。難関大学を狙っているタツオミだが、将来の希望は特にないと言っていて、意外だった。
「そういう自分だから、大学に入って燃え尽きないように気をつけないとと思ってるんだよね」
と言って笑う。そんな風に自分のことがわかっているタツオミがすごく大人に見えた。
「リョウスケはどこ狙ってるの?」
「大学は国公立でってとこだけで、あとは何も決まってないんだ。今も学校についていくだけで必死だし。俺はタツオミやハルマみたいにしっかりしてないから、不安だよ」
つい弱気なことを言った。不思議なことに、ハルマにも同じようなことはよく言うのだが、そういう時はちょっと茶化してしまう。タツオミが相手だと、自分の不安が素直に出てくる。なんでだろ?
「そんなもんだよね。うちの学校の偏差値なら、課題やってれば国公立は大丈夫だよ。ハルマとも毎日勉強してるんでしょ? なかなか勉強時間ってとるのが大変だから、習慣があるのは強みだよ」
最近は二回に一回は、キスで終わってますけどね……。なんか俺のせいでハルマを堕落させた気がする……。
「ハルマと付き合ってるって噂、本当なの?」
変なことを考えていたタイミングで聞かれて、ドキッとした。
「まさか! 断り文句に利用されてるだけだよ。嘘に決まってるじゃん」
今まで、他の人にも何度も聞かれている。そんなに付き合っているように見えるのだろうか。
「俺、自分の時間を取られるのが嫌で、今まで彼女いなかったんだ。やっぱり彼女っていた方がいいかな?」
タツオミがそんなことを気にしてるとは意外だった。
「まあ……時間はとられるよね……」
デートもしなきゃいけないし、連絡も取り合わなくてはいけないし、あんなことした後にすぐには勉強はできない……。
「時々、男同士なら楽かなとも思うんだ。だからリョウスケとハルマが付き合ってるなら、聞いてみたいと思って」
「え?! それってタツオミは、男同士もなきにしもあらずってこと……?」
これは、ハルマにとって朗報かもしれない。付き合う性別を楽かどうかで選ぶって感性は凄いけど。
「いや、わからなすぎるから聞いてみたいな、ってとこ。むしろリョウスケやハルマが付き合ってるなら、いつも楽しそうだから羨ましいなって思ってたんだ。本当に付き合ってないの?」
「逆に聞くけど、俺たち付き合ってるように見える?」
「少なくても、ハルマはリョウスケのことが好きなんじゃないかな、って思うよ」
「え!? そうなの??」
あまりに意外な角度で来て驚いた。
「俺が二人の間に入ってから、ハルマから嫉妬されてる感じがするもん」
「そう……なのかな……。いや、付き合ってないんだ、本当に」
付き合ってはいないよな……。幼馴染からキス友に昇格しただけで。なんだよ、キス友って。
「あれ? じゃあ余計なこと言ったかな」
タツオミはバツが悪そうに笑った。
「う、ん。いや、うん。なんだろ。俺にはよくわからないよ……」
幼馴染すぎて、好きかどうかなんて考えたことがない。ハルマだって、きっとそうだろう。
「リョウスケは男はいいの?」
「……え。っと、俺は……」
今まで男を好きになったことはない。ハルマに対しても、女の子を好きになったときみたいな気持ちにはならない。なんだろ、キスの相性がいいだけで……。
「……もしリョウスケが男もアリなら、俺はどう?」
タツオミがまっすぐ目を見て言ってきた。
「え、ええっ? 俺とタツオミが?? 付き合えるかってこと??」
驚いて声が裏返った。
「端的に言えば。俺、リョウスケといると、なんかすごく自然体でいられるんだ。もっと二人で過ごしたいな……って思うんだよね」
タツオミはちょっと恥ずかしそうに言った。
「そ、そうなんだ……」
過ごすだけなら友達で十分だ。付き合うってことは……。
タツオミとキスができるかといえば……無理かな……。
「俺は……男と付き合うことは考えたことがないよ……。ハルマとも本当に付き合ってないから……」
うん、そうだ、そうだよ。ハルマとは童貞同士慰め合ってるだけだし、タツオミはちょっと性に迷っているだけだ。本当に男でイケるわけじゃないだろう。
「そっか。そうだよね。わかった。まあ、ハルマが近くにいる限り、俺がリョウスケとこれ以上仲良くすることはできないから……変な言い方だけど、安心して」
「う、うん。友達としてはこれからも仲良くしたいと思ってるよ!」
「そうだね。ごめん、困らせて。これからは友達としてまたよろしく。今日はごちそうさま」
そう言って、タツオミは席を立った。
残された俺は呆然としていた。人から見ると、ハルマが俺を好きなように見えるらしい。さらには、タツオミは俺のことを好きだった……と。
そんなに、俺っていいかな?? 俺の人生の初モテ期は、希望とは違った形で花開いてしまった。
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