第9話 タツオミ

 あれから、タツオミを含めて勉強する機会が増えた。タツオミから、予備校で教えてもらったことを聞くととても勉強になって、自然とやる気も上がった。


「タツオミって、もう俺の先生みたいだよ。月謝払わなきゃ」


 俺は半ば本当にそう思ってた。


「じゃあ、今度ハンバーガー奢ってよ。もう俺の好みはわかるでしょ?」


 タツオミはいつも同じものしか食べない。俺とタツオミは笑ったが、ハルマは元気がなかった。


「ハルマ、具合でも悪いの?」


「あ、いや。大丈夫だよ」


 とは言うが、やっぱり無理をしているように見える。


「じゃあ、今日は予備校だから俺は行くね。明日なら空いてるから」


 とタツオミは俺に向かって言った。不出来な生徒が気になるんだろう。優しい奴だ。



 タツオミと別れて、ハルマの家に向かった。


「タツオミと勉強するようになって良かったよ。俺の周りはあんまああいう頭いい奴いないからさ。タツオミとハルマに囲まれると、勉強するのが普通って感じになるじゃん。それがなんか新鮮なんだよね」


 今までも勉強してなかったわけではないが、タツオミの理路整然とした勉強論に沿って勉強すると確かな手ごたえがあり、毎回感動していた。


「そうだね。タツオミはもっと上の進学校にも行けたんだけど、家が近いからここにしたんだって」


「だから余裕なのか。ハルマも……実は別の高校が良かった……なんて、思ってない?」


「俺は、今の生活が気に入ってるよ」


 そう言う割に冷たい声だった。


「どうしたんだよ、さっきから。怒ってるの?」


「怒ってはいなないけど……。リョウスケって、タツオミを使うのうまいなと思って」


「使う?」


「タツオミとは入学から結構一緒にいるんだけど、あんなに色々教えてくれたことなかったんだ。リョウスケは質問が上手いっていうか、甘えるのが上手いよね。タツオミが楽しそうに教えてるの、初めて見た」


「え、そうかな……。自分じゃわからないけど……」


 もしかして、俺が仲良くしすぎてヤキモチをやいているのか?!しまった、当初の目的を忘れていた。でも、前より三人で仲良くなってるから、これからだよ、これから!



 そうしているうちに、ハルマの家に着き、部屋に入った。


 コートを脱いでハンガーにかけていると、ハルマが後ろから抱きついてきた。


「最近してなかったから……」


 ハルマもついに性欲に負ける日が来たか! もはや感慨深い。


 外が寒くて、鼻が冷えている。冷たくなった頬をくっつけてからキスをした。


 今、ハルマは何を考えているのだろう。誰でもいいから欲望のままにキスしてるのか、タツオミを妄想しているのか。


 それにしても、なんだかキスも元気がない。


「ハルマ……本当になんかあったんじゃないの?」


「……なんでもないよ……」


 俺がお邪魔虫すぎたか。早急に対応しなくては。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る