家の前で、河童を拾った

 夏の朝に、家の庭にある太田川の川べりを歩いていましたの。水の少ない川の中に、ざんばら髪の小男が体育座りをしていましたの。

「まあ、河童ですわ」

 最近見かけませんでしたが、私こういう生き物?妖怪?には、ちょっと詳しいので、直ぐ分かりましたの。


「何してらっしゃるのかしら?」

声をかけると、河童が応えましたの。

「カッパッパー……」

「相撲を取る相手がいなくて、困っているのですね。相撲部屋に入門なされば良いでしょうに」

「カパ、カッパッパ、カッパッパー……」

「『横綱に勝って、尻子玉を抜こうとしたら、部屋中の力士総掛かりで追い出された』のですね」

「カパー……」

「『意味が分からない』と。そうですわねぇ。闘士であれば、敗者は命を取られても文句を言えないでしょうに。尻子玉程度で、おかしなことですわねぇ」

「カパー……」

近くに生っていたキュウリを一本もいで、河童に渡してあげましたの。

「カッパッパ」

「『キュウリではなく、キュウリの香りのする魚が食べたい』ですって? 絞めてあげましょうかしら?」

河童が慌てて、キュウリを齧って言いましたの。

「カカカカ、カパ!」

「『キュウリ美味しいです』と。初めから、そうおっしゃればよろしいのです」


 ポリポリとキュウリを齧る河童を見ているとちょっと手助けをしてみたくなりましたの。

「貴方、闘い方は相撲でなくてはならない理由があるのですか?」

「カッパカパカパカパパ」

「『正々堂々と戦うのなら、種目にも相手にも、こだわりはない』のですね」

「カッパ」

「なんとかなりそうです。明日またここにおいでなさい」


 少し知り合いに連絡をとって、翌日川に行きましたの。河童は相変わらず体育座りでしたの。お家に帰らなかったのでしょうか?

 河童に木剣を渡して、知り合いの武御タケミちゃんに剣術を叩き込んでもらいましたの。河童は全身痣だらけになって泣いていましたの。うふふ、かわいい。この辺りは温泉だらけなので、浸かって癒やすといいですわ。

 翌日には、河童に弓を渡して、知り合いの八幡ハチマンちゃんに、弓の使い方を叩き込んでもらいましたの。

 その翌日には、妹の家の麓の自衛隊の演習場で、弓での遠距離戦を叩き込んでもらいましたの。河童の甲羅が矢でヤマアラシみたいになって、かわいかったですの。もちろん後で、手当てはしましたの。

 天日アメノヒちゃんによると、槍は一対多の乱戦では素人が有効に使うのは難いそうで、パスしましたの。


 お二人には、一日交代で一月ほど河童を鍛えてもらいましたの。途中で河童が逃げようとしましたので、縄で縛って松の木の枝から吊るしましたの。たった一日で心を入れかえましたの。宮本村のタケゾウ君ぐらいは頑張ってほしかったのに。後は死んだ目で頑張ってましたの。お二人も河童の努力を褒めてましたわ。うふふ。


 河童の訓練が終わりましたの。あらかじめ調べておきました都内某所にあるマンションの一室を、河童とともに訪れましたの。オートロックでしたので、面倒だから部屋に直接伺いましたの。

「カク◯ム異世界ファンタジーで、日常描写はリアルなのに、戦闘シーンがイマイチと評判の◯◯さん。調べは付いていましてよ。貴方の元いた世界に、この河童をお送りなさい」

「!?……」

「何の得があるのか? ですか? 貴方、元の世界では、城郭都市から一歩も出たことがない弱虫さんでしたね。だから戦闘シーンが駄目なんです」

「!!」

「そんな貴方に朗報でしてよ。この河童が戦いのリアルな記録を、貴方に届けてくれます。貴方は、それを参考に執筆すればよろしいのです」

 あっという間に話がつき、転移の宝玉を手に入れましたの。代わりに、オモちゃん謹製の河童とお揃いスマホを渡しましたの。


「武御ちゃんと八幡ちゃんによると、貴方は古今並ぶものなき武士モノノフになったそうです。その技量を生かせる場所へ、あなたを送り込みましょう。存分に戦って、尻子玉を抜きまくりなさい」

 蛇の尻尾から取り出した剣を、餞別に河童に渡しましたの。剣のあった所にはレプリカを置いておきましたの。今時はどうせ使わないので、気にしなくて良いですの。

「カ、カ、カカッパァ……」

河童は、感激して泣いていましたの。長くなりそうだったので、そのまま転移させましたの。


 河童は異世界で元気にしているそうですの。

「尻子玉はなかったけど、魔石があったので、それを引っこ抜きまくっている。付いた二つ名が『魔石の勇者Kカッパー』」

だそうです。◯◯が言ってましたの。彼の小説にも★が沢山増えたそうですの。


 ところで貴方の読んでいる異世界ファンタジーは、本当にフィクションなのかしら?

 

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