家の前で、色々拾った

青銅正人

家の前で、グレムリンを拾った

 朝、雲見の山の上にある我が家の庭に出ますと、温暖なこの辺りでは珍しく雪が積もっていましたの。雪の中に、黒っぽいシワシワの小鬼が埋もれていましたの。

「まあ、グレムリンだわ」

 珍しいものが落ちていましたの。私、こういう醜い生き物?妖怪?には、ちょっと詳しいので、直ぐ分かりましたの。

「湯につけたら、戻るかしら?」


 洗面器に温めの湯を張り、小鬼をそっと湯に入れてみましたの。

「……グギャ……ギャ……ギャ……」

余り可愛いお声では、ありませんの。好ましいですの。

「目を覚ましたのですね」

「グギャ、ギャ」

「ええ、私が貴方を助けました」

「ググギャ……」

「困っている方を、助けることは当然でしょう」

「グ、グ、グ、グ……」

「そんなにお泣きにならないで、湯から出て、体をお拭きなさい」

 湯につけても、シワシワなのは戻らないのですの。


「なぜこんな山中の家の前に倒れていたのかしら?」

「ググギャギャ」

「まあ、お仕事がうまくいかなくて、彷徨っていたのですね」

「グッギャ、グッギャ、ギャギャグギャ……」

「『電化製品の静電気・ノイズ耐性が上がって、壊れなくなった。使う人の落胆や困惑を食べられなくなって、もう飢え死にしそうだった』のですか。米◯人や中◯人のように、カナヅチで打ち壊すと言うのは?」

「グギャー、グッギャグギャ」

「えっ、物理破壊せずに、使えなくすることが『電気のグレムリン』の誇り。それでは駄目ですわね」

「グ、ギャ……」

「贅沢言っていることは、分かっていると。それではちょっと解決策考えてみましょう。貴方はもうお眠りなさい」

「グゥ……」


 色々準備を済まして、翌日小鬼が目を覚ますのを待ちましたの。

「グギァー」

「はい、おはようございます」

 ちょっと体調が戻ったらしい小鬼は、私のお気に入りの猫の品種スフィンクスとそっくりですの。うふふ、かわいい。


「さて、貴方の悩みを解決する策を授ける前に、確認したいことがあります」

「グギャ?」

「貴方の誇りは、電気を使って機械を不調または故障させると言うものでしたね」

「ギャ!」

「では、貴方のせいで壊れた機材で困る使用者は、貴方からどれぐらい距離が離れると、貴方の栄養にならなくなるのかしら?」

「グーギャギャ」

「どれだけ離れても栄養になる。それは重畳。貴方インターネットってご存知?」

「ギャ?」


 まずその日は、パソコンの使い方とインターネットの仕組みと利用法を、小鬼に叩き込みましたの。ちょっと泣きながらも頑張る小鬼は、かわいらしかったの。

 翌日も、小鬼はさらに元気になり、全身に産毛のようなものが生えてきましたの。小鬼にソーシャルハッキングの基礎とスプーフィングの仕方と偽サイトの作り方、その対抗策を叩き込みましたの。口を半開きにして悪魔を見るような目で私を見る小鬼が、かわいらしかったの。

 さらに翌日には、DDOSサービスやランサムウエアについてと、足がつかないプロキシやVNCの使い方を叩きこみましたの、性に合う話だったようで、三角耳をピクピクさせながら、一生懸命聴く小鬼はかわいらしかったの。全身の産毛がしっかりした毛になってきましたの。

 さらにその翌日には、各種OSの特徴、コマンド、ツールの使い方、偽装ファイルの作り方、バグ情報の活用の仕方、パケットスニッフィングの方法とパケット解析を叩き込みましたの。小鬼は教育の意味が分かってきたのか、すごく楽しそうでしたの。尻尾をフリフリして、かわいらしかったの。


 幾日か、実戦のためにセキュリティの甘い企業のサーバーに侵入させ、警告メッセージを残させましたの。

「グギャギャギャ……」

「なぜ破壊しないのか? 今の対象は雑魚です。大物を殺るための習熟練習です。それに身内への攻撃はゆるしません。良いですね」

「ピ、ギャ!!」


 ちょっと恐怖で固まった小鬼のだいぶ毛が長くなってきた頭を撫ぜてあげましたの。すっかり毛が長くなって、背中を撫ぜるとすべすべして気持ち良いですの。目を細めて気持ちよさそうにする小鬼は、あざと可愛いい妹のようでちょっとムカつきましたの。絞めてやろうかしらなの。

「ピ、ギャ!!」

でも毛を剃ればシワシワのスフィンクスですから、許せますの。

「グギャ……」


「もはや貴方は並ぶものなきハッカーです。ネット越しに阿鼻叫喚を引き起こし、それを糧としなさい」

「ギギ!」

「でも相手はよく選びなさい。犯罪者を相手にするのです。オレオレ詐欺などの特殊詐欺師、電子通貨をハッキングしている某国達、相手は幾らでもいます」

「ギギ!」

「貴方は毛が長くなって、四足で居ればほぼ猫ですから、鳴かなければバレません。一処に留まらず、存分におやりなさい」

「ギ、ギギギ……」

小鬼が感激して泣いています。こうして私は、小鬼を送り出しましたの。


 あれから、色々な都市伝説を耳にするようになりましたの。いわく夜の学校のPC教室で猫がPCを使っていた。いわく会社のPCを使おうとすると猫が手元を覗きに来る。いわく詐欺集団のアジトが動画サイトにリアルタイムで流れた。いわく国家の財産を失ったとして某国で銃殺刑があった。


 小鬼はとっても元気にしているみたいなの。ところで貴方の猫は大丈夫かしら?

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