第7話 波に揺られて眠りましょう
まず向かったのはゲームコーナーです。
人がいませんでした。
スロットマシーンやクレーンゲームなどが、寂しげに点滅しています。では次。時間がないので、さくっといきます。
続いて、自販機コーナーです。
ジュース、カップ麺、あとお酒がありました。お酒を買っている人をよく目にしました。というか、船内は酔っている人が本当に多かった。皆さん、そんなに酔って、4時半に起きられるんでしょうか。寝過ごしたらどうなっちゃうんでしょう。海に放りだされたりして。そんなことを想像して、ふふっとひとりで笑います。別に寂しくはないです。本当です。いや、嘘、ちょっと寂しい。
お湯とお水は無料で飲み放題でした。お湯はカップ麺用ということなのかな。置いてあった紙コップに少なめに水を注いで、穴に持ち帰ることにしました。
紙コップを持ったままウロウロしていたら、コインロッカーを発見。私のような穴暮らしは、カーテンいっちょで仕切られているだけなので、貴重品はここに預けると安心というわけです。なるほどね! 次!
テレビコーナー(テレビを観られます。けっこう人気なのか、人が常にいました)、記念撮影コーナーを見て(紙コップで手がふさがっているため撮影はできず)、記念スタンプコーナーで手帳にスタンプを押し(スタンプを押すのって、1回目は高確率で失敗しませんか、私だけですか)、そういったものを見終わったところで、「もうすぐ消灯です」とのアナウンスが流れました。
もう? はやすぎる!
といっても個室には消灯時間はないとのこと。船賃が安い人のいるエリアだけ明かりを消すぞ、ということのようです。暗い船内はちょっと怖いです。おとなしく穴に戻ることにしました。
穴に戻り、横になり、カーテンを閉め、すぐに消灯となりました。
おやすみなさい……って、だから、まだ物思いにふけっていないのですけれど。でもしょうがないですね、もう寝ましょう!
あっ、もらってきたお水はどうしよう。しょうがないので一気に飲み干しました。紙コップは穴に設置されたドリンクホルダーに一時的に入れておくことに。あしたの朝、捨てよう。ドリンクホルダー、役に立ちました。
おっと、寝る前にスマホをチェックしておこうっと。……連絡が誰からも来てないですね!
ちなみに船内は無料Wi-Fiが利用できるのですが、ひとり3回まで、1回30分という制限つきです。混み合っているときは使えません。
モバイルデータ通信(docomo)のほうは、売店のところまで行けば、かなり通信状況が悪いとはいえ使えることは使えるんですが、穴の中ではどういうわけか使えませんでした。
ああ、そうそう。フェリー会社からのサービスとして、船が今どのへんにいるのかをリアルタイムでスマホで確認できたり、大きな橋を通過時はメールで教えてくれたりして、面白かったです。
ただ、穴の中にいる人には、橋通過のメールは届きません。なんせモバイルデータ通信ができませんから。ちょうど橋を通過するタイミングでたまたまWi-Fiを使っていれば、メールは届くことでしょう。なかなか条件が厳しいです。もういっそ船内で銅鑼を打ち鳴らすなどして「もうすぐ橋だぞ、備えろ!」などと叫んでほしいところですが、夜間ですのでね、それも難しいのでしょうね。
暗い穴の中で、スマホの画面の光だけを明かりにして、船の運航状況を眺めていたら、いつしか眠りに落ちていました。
ふと大きな揺れを感じ、目が覚めました。2時間ほど眠っていたようです。
思いのほか揺れが激しい。立っているときは気にならないのに、横になっていると、妙に波を感じます。
目を開けて、暗闇の中でじっとしていたら、心の奥に隠れていたモヤっとしたものが再び出てきました。
同級生のお父さんが亡くなって……。
同級生はすごく悲しんでいて、この世で一番不幸っていう顔をして、それは本人にとっては誇張でもなんでもなく本当に心底つらいことで、友人たちも彼女を「なんて可哀想なの」という感じで寄り添って。
それを心理的に少し離れたところから見ている私。
うらやましいな、と思ってしまったのです。それがモヤモヤの正体。
親の死を悲しめる人がうらやましい。
そうかあ。親が死んだら悲しいのが普通で、そういう人の気持ちがみんなはわかって、それが当たり前で。
親に愛されてきたから、親を失ってつらい、ということなのかな。
そのつらさこそが、親から愛された人生を送った証拠であるように見えてしまうな。いいな。うらやましいな。
私は多分、親が死んでも泣かないでしょう。
父が認知症になったと聞いたときも、何一つ悲しくなくて、私のことを忘れてしまうのだろうと考えてみても、それも全然悲しくなくて、ただ私が介護することになるんだろうな、そういうことしか頭に浮かばなかったのです。
親が死んで悲しむ人は、いいなあと思ってしまいました。ひどいですね、友人は本当に悲しんでいるのに、そんなことを考えるだなんて。自己嫌悪してしまいます。
また、友人たちに心配してもらえて、いいなという気持ちもありました。
なんだか情けない。でも、私って人から心配されることって少ないから。
なんかそういう人生だったなあ。
船はゆらり、ゆらりと、海に浮いたゆりかごのように揺れながら、大阪へ、そして夢の中へと、私を連れていったのでした。
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