第3話 フェリーに乗る

 バスの壁と一体化すること30分、私は心の中でフクロテナガザルになり、オジサンに対して森の木々を激しく揺さぶるなどの威嚇を行う妄想をしつつ、どうにか新門司港に到着しました。これで脚広げオジサンとはおさらばです。ふう。



 フェリーターミナルに入り、ここでツアーガイドさんとご対面しました。優しそうな方で、ひと安心。

 乗船券を受け取り、ついでに同じツアー参加者の顔ぶれをざっと確認しました。20人ぐらいいらっしゃって、そのうち半分がおひとりさまです! わあ、結構多いかも。なんとなくほっとしました。

 男性も思ったよりいらっしゃいました。おひとりさま10人のうち4人が男性です。地味めなお花ツアーなのに。それを意外に思うのは、私が古くさいジェンダーに縛られているということなのでしょうか。嫌ですねえ。自分の考えを改めようと思いました。

 年齢は私が一番若いようでした。スイセンってご高齢の方に人気なのでしょうか。


 乗船手続きに向かう際、ふと別のツアーのほうを見てみると、そちらもご高齢の方ばかりでした。

 しかし、そちらは参加者同士でおしゃべりをしていて、とっても賑やか。ガイドの方が持っている旗に「吉本新喜劇を観る! 大阪の旅」と書かれていて、きっと陽気な人が多いんだろうなと勝手に想像してしまいました。


 それに比べてスイセンチームは静かです。誰もしゃべらないのです。らしいというか、なんというか。これはこれで。地味めなお花を見にいくツアー、私には居心地がよいです。すっと馴染める感じです。


 おそらくですが、おひとりさまは、ツアー選びをよく考えたほうが良さそうです。積極的に人と交流したいおひとりさまと、静かに過ごしたいおひとりさまでは、合うツアーと合わないツアーがありそう。



 ちなみに今回のツアーは、二泊三日、行きのフェリーで一泊、帰りのフェリーで一泊という予定になっております。船に泊まるの、楽しみ!



 さてさて、ツアーのほうは一旦解散となり(翌朝、船内で集合です)、各自自由にフェリーターミナルで時間を潰しておりましたが、午後4時30分、乗船時間となりましたので、私はもうニッコニコの笑顔でフェリーに乗り込みました。


 私が乗ったのは名門大洋フェリーの「フェリーきたきゅうしゅうⅡ」です。

 公式サイトによると、旅客定員は685人、載せられる車の数はトラック146台、乗用車105台だそうです。なかなかの大きさです。


 乗船は、車で乗り込む方と、徒歩のお客さんは、別のルートを通ります。

 私は飛行機に乗るときの道みたいなのを通って、船内に入りました。



 船内は明るく、きれいでした。フェリーは子どもの頃に乗って以来なのですが、あの頃とは大分雰囲気が違います。昔は渡船がサイズだけ大きくなったような、無骨な船だったように思うのですが、今はビジネスホテルのような内装になっていました。



 出港予定時刻は午後5時です。

 大阪南港へは翌朝5時30分に到着予定となっています。これから約12時間、フェリーを楽しむこととなります。


 12時間もあれば、きっとひとりでゆっくりあれこれ考えることができるでしょう。海を眺めて、ためいきをついて、ワケアリな女って感じを漂わせて……気持ちを整理するのです。そういうひとり旅をやるのです。ツアーですけども。


 ふふ……期待が高まります。


 そのとき、船内に行列ができていることに気づきました。乗船口のすぐ近くに、船内レストランの入り口があって、その入店待ちの列のようです。

 まだ5時前ですのに。腹ぺこな人が多いのでしょうか? と思ったのですが、そうとも言い切れないようです。どうも窓側席をゲットするために、早目にレストランに入る人もいるようです。せっかくですから海を眺めながら食事がしたいですもんね。


 また、お酒を飲みたい人も、早目にレストランに行くようでした。特にドライバーさんは明日の運転がありますし、飲むなら早い時間にということなのでしょう。こういうのもフェリーらしいのかもしれないなあと思いました。



 このフェリーは翌朝5時半に到着するわけですから、当然起床時間も早いです。私も早目に夕食を済ませたほうがいいのかもしれません。さて、どうしましょう。


 ちなみにフェリー内では、ツアー客は自由行動の時間ですから、もちろん食事も各自自由です。そういえば、小倉駅で駅弁を買って、船に持ち込んでいる人もいましたね。ほかにお菓子や飲み物など、皆さんいろいろ持ち込んでいらっしゃるようでした。旅慣れていらっしゃる……!

 フェリー初心者の私、食品類は何も持ち込みませんでした。特に何かを持ち込みたかったわけでもないのに、なぜか「しまった」という気持ちになりました。コンビニでプリンとか買えばよかったかも。


 さて、私はレストランに行くつもりでいたのですが、入店待ちをしている人々が家族連れや団体客ばかりなのを見て、少し怖じ気づいてしまいました。おひとりさまは入りづらいかも……。


 これは船内の売店でパンでも買ったほうがいいのか……。カップ麺の自販機もあるし、それでもいいかも? でもせっかくの旅なわけですし。


 どうしましょうか。悩みます。

 人生の悩み事じゃなくて、わりと規模の小さい悩みにぶつかりました。

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