万能の新元素エーテリウム
ちびまるフォイ
快適な快適な実家ぐらし
「なんだこの元素は!?」
見つかったのは本当に奇跡だった。
どういうきっかけで、誰が見つけたかもわからない。
けれど見つかったその新元素は地球のあらゆる問題を解決できた。
すべてのエネルギー問題。
すべての環境問題。
あらゆる気候変動。
さらには動植物にも良い影響。
完全無欠で完璧な新元素だった。
地球のひとたちは大喜び。
「今すぐ、この元素エネルギーに切り替えよう!!」
世界のエネルギー施設はすぐに停止し、
新元素・エーテリウムに切り替えが行われた。
簡単に複製と増産が可能で安価な元素なので、
おもちゃのように小さな施設でも地球の半分以上のエネルギー供給ができた。
もう節電なんて言葉は死語となる。
「エーテリウム最高! もう手放せない!」
人類を悩ませていた共通課題はいっぺんに解消。
エーテリウムのおかげで緑が戻り、ゴミは消え、幸福度は上がった。
今では水に溶かしたエーテリウムを「エーテル水」などと呼び、
なんら健康に意味がないものの大人気商品となるほど。
まさにエーテリウム元年。
地球の問題が解決されたことで、人類の興味は宇宙へとうつった。
「さあ、ついに人類史上発のエーテリウムを使ったシャトルの打ち上げです!」
スペースシャトルはエーテリウムにより一気に上昇。
派手な炎と煙を出すも、それはまったく地球環境に無害。
「見事に打ち上がりました! 人類の新たな一歩です!!」
太陽に向けて高々と打ち上がったシャトル。
だが、宇宙進出しようとしたときに爆散して消えた。
「あ……?」
打ち上げ式にいた人たちはぽかんと口をあけた。
その後の調査でエーテリウム唯一の弱点がわかった。
「理由はわかりませんが……宇宙では効果ないようです」
「なんで理由がわからないんだ!」
「そもそもエーテリウムじたいがよくわからん物質なんです。
よくわからん物質の、よくわからない性質なんです!」
「そんな得体のしれないものを使っていたのか!」
「じゃあお前が今使っている機材も
昔の電気エネルギーに切り替えてやろうか!? あ!?」
「ごめんなさいぃぃ!」
エーテリウムは地球にだけ有効な性質だった。
宇宙に行くと役立たずになってしまう限定的なものだった。
それがわかってもアンケートでは「まあ別にいいっしょ」が大多数。
多くの意見は同じだった。
「いや別に地球で暮らすんだから問題ないでしょ」
というものだった。
宇宙にはいけなくなったが、宇宙に行きたがる人はそう多くもない。
快適な地球生活が保証されるのであれば、エーテリウムを使い続ける。
エーテリウムを使い倒し、宇宙にもエーテリウムを放出し続ける。
地球はエーテリウムに囲われて脱出できない星の孤島となった。
地球で暮らすぶんには問題ない。
たんに宇宙との接点を失っただけに過ぎない。
エーテリウムによる技術の進歩は続き、便利な生活が続く。
そんなある日のことだった。
「あ、あれは……UFO!?」
地球の首都に謎の飛行物体が接近してきた。
『我々は宇宙人だ。エーテリウムは気に入ったようだな』
「な、なぜそれを!?」
『その物質は我々が提供したものだ』
「なんだって!」
そう言われて納得したのは多くの科学者。
あまりにオーバーテクノロジーで都合が良すぎる物質だった。
「なにが目的だ! まさか、エーテリウムを没収するつもりか!?」
『いいや。今回は最初で最後の観測にきた』
「観測……?」
『エーテリウムを使い倒しているようで安心した。
これからもエーテリウムを使い続けるのか』
「もちろんだ! 手放すつもりはない!!」
『そうか。そうしてくれ。さらばだ』
「おいちょっと!?」
宇宙人を乗せたUFOはジグザグに光りながら何処かへ消えた。
いったい何を観測に来たのかもわからないまま。
「なんだったんだろう……」
地球人たちは呆気にとられていたが、
エーテリウムが没収されるようなことはなく安心した。
これからも宇宙には進出せず、地球で快適な暮らしを続けられるだろう。
いつまでもいつまでも……。
一方、時空を超えて未来に戻ったUFO。
船内ではボイスチェンジャーを外し終わる頃だった。
「いやぁ、よかった。エーテリウム提供しておいて」
「だな。もし怪しんで使われてなかったらどうなっていたか」
「これで私達の惑星は安心ね」
UFOは母星である火星へと着陸した。
地球以上に進んだ文明ができあがっている。
地球以上の緑生い茂る豊かな大地と、クリーンなエネルギー。
大昔のエーテリウムなどという時代遅れ元素は地球にくれてやった。
「もしも宇宙進出してきてたら、ここも壊されていただろうな」
「エーテリウムで地球に監禁できて本当によかった」
「エーテリウム依存、ばんざーーい!」
火星に進出した未来の地球人たちは祝杯を上げた。
万能の新元素エーテリウム ちびまるフォイ @firestorage
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