第9話


 一体どれくらい真季の口に指を押し込んでいたのだろう。

 体感では数分くらいだと思うけど、時が止まったかのように永く感じられた気がする。

 真季は異物が来た事による人間の本能に抗うように、私の指を吐き出さないよう涙目になりながらも受け入れてくれた。

 ゆっくり抜いていく。

 歯を傷つけないようにそっと。


「ん……」


 さっきまで真季の口の中に入っていた指はふにゃふにゃでふやけて月明かりに液体が光って綺麗だった。

 真季が肩で息をしていてさっきまでの行為が如何に辛かったのが思い知らされる。


「真季辛かったよね。ごめんね…」


「んん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしちゃったけど、凛ちゃんのならなんでも受け入れるから」


 そう言って真季は弱弱しく私に微笑んでくれた。

 私はなんでこんな事をしたんだろう。

 自分の事なんて自分以外分かるわけないのにあの時の衝動を行動に起こしてしまったのが自分でも分からない。

 でも自分の気持ちにも形めいた何かを感じれたし私の世界に彩をくれたのは真季だって改めて分かった。

 あんな事をした手前嫌われてないかは心配だけど。

 微笑みかけてくれてる真季に私は近づく。


「真季」


 今度は痛くしないからそんな覚悟を決めた顔で見ないで。

 でもこんな私を受け入れてくれてありがとう。

 まだ言えないけど今度はちゃんと言葉にして伝えるね。

 私は好きを言えない代わりに真季の手を引き寄せる。

 体格差で全然真季の事を包み込めてるか分かんないし、真季の胸に顔を擦り付けてるだけになっちゃったかもしれないけど、力いっぱい抱きしめてありがとうと好きを身体いっぱいで伝える。


「今度の凛ちゃんは甘えん坊さんだねぇ」


 そう言って真季も私を抱きしめてくれた。

 真季の方が十センチ以上身長が高いからか包み込まれる感じで人肌が暖かくて心地いい。

 今の真季を同じ事思ってたら嬉しいなって思う。


「甘えん坊じゃだめ?」


 真季の胸に埋まっていた顔を上げて真季を見上げる。

 真季はあんまり好きくないかな。

 こういうの。

 不安で胸がぐるぐるする。


「凛ちゃんだから好きだよ」


「えへへ」


 良かった。

 私だから好きって良い言葉だね。

 私じゃなかったらしないって事だもんね。

 私以外に真季って友達とかいるのかな。

 中学、高校に入ってから友達というかなんとなく一緒にいるそれっぽい人は何人かいるけど、それでも真季ほど仲良くしたいって思える人はいなかった。

 やっぱり真季の居ない灰色の世界ではそこまで私は楽しめなかった。

 つい最近までショート動画ばっか横になって見てたしね。

 頭の中でぐるぐる考えてたら真季の腕の中で気を失っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

四年間の埋め合わせ。 @ginbear13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ