四年間の埋め合わせ。

@ginbear13

第1話


「はぁ」


 高校ニ年の夏。

 私は何もしないで過ごしていた。

 自分でも何かしたいと思っているが暑く動けない。

 身体が涼しさを求めていてそれに従ってしまい重力を全身で受け止めていた。

 宿題も八月の前の方に終わらせてしまいそれからは怠惰な日常を過ごしているがそんな毎日を良くは思っていないけど、じゃあかといって何かしたいことも思い浮かばず毎日携帯とずっと睨めっこしていた。

 ただ短い誰かが作った大して面白くもない動画を見て時間を浪費していた時、ふと一つの動画が目に入った。

 それは、私が住んでいる町の紹介で見知っている場所が何軒か紹介されていた。


「へー、マイナーな動画作る人も居たもんだなあ」


 その中で紹介されていた昔一人の女の子とよく行った場所を思い出していた。

 町外れにある神社で昔はそこでよく駆けっこやかくれんぼとかをして遊んだ。


「暇だし久々に行ってみるか…」


 私の家からだと少し離れたところにある神社に向かった。

 足取りは思ったよりも軽く自分が少しワクワクしているのが分かる。


「やっと着いた…暑すぎ。うわー何年振りだろ…」


 汗だくになりながら着いた神社は相変わらずの寂れ具合で当時となんら変わっていなかった。


「ここに良く隠れたっけな」


 私が良く隠れていたスポットはあの時から時が進んで無いみたく小さい私が隠れていた時のままだった。

 ちょっと隠れてみる。

 当時の私は小さくすっぽり入っていたはずだけど今の私には少し小さかったらしい。

 身体がはみ出ていた。


「凛ちゃんみーつけた」


「え?」


「昔と同じところじゃすぐ分かっちゃうよ?」


「あはは、そうだよね…じゃなくて!、お父さんの転勤してこっちに居ないはずじゃ!」


 彼女は小学生の頃に転校しちゃってもうここには居ないはずなのに。

 夢?

 私の知ってる彼女とは少し違うけど面影もあって少し大人びた彼女、真季が目の前に屈んでこっちを見ていた。


「そうだね、だから私だけこっちに戻ってきたんだ」


「そうだったんだ…」


 知らなかった。

 当時の私たちは携帯やスマホなどの連絡手段を持っていなかった。

 だから学校での約束が全てだった。


「いつからこっちにいるの?」


「夏休み始まったあたりかな、やっと最近荷解き終わって落ち着いたからお散歩に来たの。」


「そっかぁ…じゃあ一人暮らしなの?」


「そうだよ、ここから近い所に住んでるんだ、良かったら来る?」


「え、いいの?、行きたい!」


 私は四年振りに会う真季の家に手を繋いで向かった。

 手汗や汗臭く無いかを心配しながら。




 お家はマンションだった。

 この辺は昔ながらの一軒家が多く、マンションなんて数えるくらいしかなく、その内の一番デカい所に真季は住んでいた。

 同い年でこの格差は一体…


「お邪魔します」


「いらっしゃい、今エアコン付けるね」


 少女一人で住むには明らかに広すぎるその家はなんというか殺風景だった。

 家具は最低限、シンプルなデザインの物に揃えられていて主張をあまりしていない。

 ここで暮らす彼女は寂しく無いのだろうか。


「そこのソファでも座って待っててね、今飲み物取ってくるよ、紅茶でいい?」


「あ、うん。頂きます」


 スッと友達に紅茶を淹れて出すのって、なんかかっこいい。

 私は少し緊張していた。

 久々に会った彼女は少し大人びてるしなんか香水?でいい匂いだし、マンション住まいだしでなんだか遠い人に感じてしまい昔の様に上手く話せない。

 話したい事なんで山ほどあるのに。

 この空白の四年間を早く埋めたいのに。


「凛ちゃん」


「な、何かな?」


「ただぼーっとしてたから声掛けたの。紅茶テーブルに置いとくね」


「ありがとう!」


 ちゃんと昔みたく笑えたかな?

 ご丁寧にミルクや砂糖なども用意されていて好み聞かれなかったから苦かったらどうしようって気持ちは杞憂だった。

 ミルクティー飲んで落ち着こう。


「ねぇ凛ちゃん」


「な、何?」


「なんでそんなにビクビクしてるの?、昔みたくお話したいなぁって」


 不意に真季に顔を覗き込まれてドキってしていまう。

 それは真季が可愛くなったからでしょとは恥ずかしくて言えない…


「顔が近いかなって…」


「だって近づけてるしね、ちゃんと凛ちゃんが成長したかみたいし」


「ミルクティー飲むね!」


 真季ってこんなに可愛いかったっけ?

 長い睫毛、大きなクリクリした垂れ目、綺麗な鼻立ち、どれを取っても私には無いもので羨ましい。

 目を背けてしまう。

 心臓がいつもよりも活発に動いてくれてるお陰で息が詰まりそうになる。

 これも可愛いのがいけないんだ。


「凛ちゃんのお顔見てお話したいなぁ。あ、そういえば髪伸ばしてるんだね」


「え、あ、うん。伸ばしてるっていうか怠惰な生活をしてた代償っていうか…」


「凛ちゃん…」


 名前を呼ばれながらもう少しで腰まで届きそうな髪の毛を弄られる。

 真季と離れてからの4年間美容院に行ってない。

 髪は腰を通り越して膝まで向かおうとしている。

 夏は暑いし冬は寒いしで外に出たくなく用事がなければ極力お家にいた弊害だった。

 真季といればそんなの関係ないのに一人になってしまった私は世界が灰色になってしまって何もしようと思えなくなってしまっていた。

 でも髪乾かすのとか手入れとかは大変だけどやってるしそこまで汚く無いはず…たぶん。


「ねぇ真季」


「やっと名前呼んでくれたね。なぁに?、凛ちゃん」


 私はずっと会ってから気になっていた事を質問する。


「真季はさ、この四年間何してたの?」


「そうだなぁ、中学は都内のとこに行って普通に通って卒業してね、ちょっとやることが終わらなくて高校も一年とちょっとだけ向こうの所で授業受けてね、そんでやっとこっちに戻ってきたんだ〜」 


 大事な部分がすっぽり抜けてる気がする。

 ちょっとの部分で一番気になるんだけど。


「って事は夏休み終わったらこっちの高校に転校してくるの?」


「そうだよ、凛ちゃんと一緒の高校だよ」


 え、待って嬉しい。

 また真季と一緒に過ごせる。

 毎日登校とかも出来るかも。

 このマンションお家から近そうだし。

 でもなんで真季は私の高校を知ってるんだろう?

まだ教えて無いはずだし、近くにも4校くらい学校があるはずなんだけどな…

 田舎だからお隣さんがなんでも知ってるあれで知ったのかな?

 私はモヤモヤした気持ちで真季の女子高生が住むには広すぎる家で過ごした。


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