オレの拳は勝利の味しかしらないのだ

白川津 中々

◾️

気づけば真っ白なライトを痛い程浴びていた。


「大丈夫か!」


「タンカ、タンカ!」



けたたましく鳴り響いたゴングの後に慌てふためく人間の声。リングの上で、俺は負けたのだと自覚する。散々に殴られ、血反吐を零し、身体中が軋み、最後に一発。一瞬気を失い、気が付いたら、女みたいに腰をくねらして寝ているのだ。情けないったらありゃしない。


「大丈夫か!」


「聞こえるか!?」


うるさい。

全てがうるさい。

もういい。どうせ負けたんだ。しばらく、ゆっくりさせてくれ……



コンティニュー?



……なんだ?

頭の中で声がする。


10.9.8


あ、これ知ってる! 格ゲーで負けた時に出てくるやつ! しかしなんで……パンチドランカーか?


7.6.5


あ、やばいやばい。カウントが減ってく。とりあえず、コンティニュー、イエス。


ディリディリディー


……


……あ、試合前じゃん。身体も痛くないし体力も回復してる。何だ、俺にこんな能力があったのか。こんなんもう楽勝じゃん! 絶対勝てるじゃん! 神様ありがとう! 俺、今日チャンピオンになります! いくぞ! うぉぉぉぉぉぉうわぁーうわぁーうわぁーうわぁー……


また負けてしまった……もしかして俺、弱いのでは? 自信なくすぜ……


コンテニュー?


いや、チャンスはあるんだ。俺は無限に挑戦できる。例え弱くても、勝つまでやれば俺はそれはもう、強者だ! こうなりゃ途中何度か殺されても絶対に諦めない! なるぞ世界王者! 貰うぞベルト! ホップステップ玉砕だ!


……


その後、俺は何度何度も負け続け、その度にコンティニューで再戦し何とか勝利したが、100万あるはずのファイトマネーが2000円に下がっていた。きっとコンティニューでスコアがリセットされたためだろう。名誉は手に入れたが完全に赤字である。


これならバイトしてた方がマシだな。


死ぬ思いをして手に入れたチャンピオンの肩書が、随分と、軽く感じてしまった。俺はもう、ボクシングをする資格がなくなった。



だから次は競馬か競輪が競艇の選手にでもなろうかと思う。レース前、単勝で俺に賭け、勝つまでコンティニューし続ければ報酬がなくても黒字まっしぐら! 夢しかないじゃないか! 笑いが止まらん! 


やるぞ! あした(の生活)のために!


真っ白に燃え尽き損なった俺の中で、悪い丹下段平が目覚め、そう言った。





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