第8話
姫霧は、意識をはっきりと持ちホームの標識に目を向けた。
そこに書かれた駅名を見た瞬間、彼女の顔にかすかな安堵の色が浮かんだ。
「……よかった。私の居住エリアの駅だわ。」
いつものように帰ることができる。そう思うと、少し気持ちが落ち着いた。
彼女は、ここしばらく続いていた緊張から解放されるように、小さく息をついた。
それに対して、プラスは何も言わず、ただ静かに立っていた。
姫霧はそんな彼女の横顔をちらりと見て、少し考えてから、問いかける。
「ねえ……あなたは、どうするの?」
プラスは、しばらく答えなかった。
冷たい風が吹き抜ける。遠くで、電光掲示板がちらちらと不安定に点滅している。
やがて、プラスはぽつりと言った。
「私の帰る場所は無い。」
それは、あまりに淡々とした言葉だった。感情の色はほとんどなかったが、それが逆に、深い孤独をにじませていた。
姫霧は、そんな彼女の言葉を聞いて、一瞬だけ何かを考えるような表情を浮かべた。
そして、ふっと微笑んだ。
「じゃあ、私の家に来ない?」
それは、ごく自然な提案だった。
特別な意味があるわけではない。ただ、目の前にいるこの少女を、一人きりにしたくなかった。
プラスは、驚いたように姫霧を見た。
姫霧は、相変わらず明るい微笑みを浮かべている。
どこか温かく、どこか優しく、そして、拒絶の余地を与えないような、そんな笑顔だった。
プラスは、ゆっくりとまばたきをし、そして――
「……わかった。」
そう答えた。
まるで——外世界の内側に取り残されたように。
外世界の内側 紙の妖精さん @paperfairy
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