天国中毒の死ねない転生

千華

1 彼女

 非常に、生きる意味を見いだせない。


 それくらいの極地に達したときでないと、転生なんてまか幸せなものは発動していけないと思う。




 

(死んだ→転生なのか、死ぬ寸前→転生→イマココなのかを切実に知りたい)



 圧倒的に前者希望。

 葬式代、あるいは火葬代だけでも、内閣系列から引けてると思うとテンションあがる。


 がそれはともあれ――



 クラスでのボッチが辛くて自殺未遂したのに、転生先が人っ子1人いない原っぱは、


 あんまりではないでしょうか……。




 誰もいない。

 既に消えたい。

 転生先で死んだら次また転生?それとも天国へゴーできる?天国何合目とか存在してくれてる?


「はぁ」


 これは正直三択どれでもいい。

 私の素敵な転生先が仮に1億転生後だったとしても、それまで殺され続ける覚悟だけはあるので、あるいはこのまま即天国なら本望だ。



 よし、死にましょう。



「……」


 あれ、原っぱでの即座な自殺方法って何??


 高所なし、爆速で動く金属の塊もなし、水もなし、縄もなし。


 いかん、何もない。

 砂漠の方が飢餓で死ねた可能性あったよ。

 あと欲を言うなら、自殺はかなり嫌なので自然か他人が原因で死にたい。

 そう、自殺はしたくない。【我が儘】


 

(誰かいないかな)


 首絞められた方が他殺になって私への非難が減り、結果ストレスなく逝ける。

 全肯定な人生ほど幸せに感じられる死に様はない。

 神格化された王様なんて、きっと直接的な批判は何も浴びないまま綺麗に逝けるんだろうな。

 さてそれが幸せなのかは知らない。



 へたり、と座り込んだ。


 その辺に生えていた雑草の胡散臭いとげとげさとは違い、柔らかい髪の毛の上に座ったような感覚。

 これはここで絶食死も選択肢の1つに入ってきた。

 


 誰もいない。

 無人島かな。無人世界?人類滅んだ後、的な。それこそパーティータイムだ。


 「静かだ」



 転生しても継続中のセーラーのリボンが顔に触れる。

 車の排気ガスなんかより何億倍も美しい風だ。

 風邪じゃないよ。引きたくないからね。学校休みたくて雨の中傘差さずに帰った経験、腐るほどあるのにかれこれ六年は風邪引いてないんだから。

 学校がなくなった今、もう引きたくないのよ。


 

「そこのエルフ。止まれ。何者だ」

 

 あら、原っぱにも人がいたみたい。

 エルフだって。異世界らしい。学校なさげ。ひやっほう。


「ふふふっ……。ふふふふふ勝ったッ!!!」


「聞こえないのか。エルフ。お前のことだ」


「学校のない世界なんて私にとっては天国同然ッ。天国に行きたい願望は変わらないけど!!何倍もマシっ……だ?」


 目を塞いでいた風が解け、リボンは虚しいかな、私に世界を広げて見せた。


「死にたいのかお前……」


「そうですけど」


 目の前に、いかにも異世界な身なりと大剣を持った男1人。

 これはチャンス以外の何物でもない。

 鴨がネギ背負って来たそのもの!

 

 音速で男にしがみついた。

 

「殺してくれますか?」


「怖いです。縋るな」


「出来るならあなたの手で殺して欲しいですけど、もし嫌なら剣だけ拝借してもいいですか?地面に突き刺しておくので、私をその上に投げてもらって。それだけで自殺以外の死に方が完成するので!」


「怖い」


「協力してもらえますか?別に拒否する理由はないですよね。止まれって、さらさら私のこと殺す気でしたよね。よし。そうと決まれば善は急げです。善ではないか。とにかく、ちょっと借ります」


「いやちょっ、ちょっと待て!貸さない!あとお前は死ねない!!」


「ちょっと、だから善でも悪でも早くっ……て。


 ――え?」


 死ぬ前に、塵になって消えた感覚がした。転生成功したやも。


 死ねない?なんて?ちねない?血寝ない?血は寝ない?えそれって死ねないってこと?


「何言ってんだよ。お前、エルフだろ。エルフは不死の生物。食物連鎖の頂点!生きるしか能ない生き物!!――って死んだ?」


「いいや嘘だね……。だって私今ショックで死ねそう、だから……ア゛、アァ」


「エルフ研究してる学者連れてこようか?」

 

 バチンと大きな金属音を立てて、男は納刀した。

 その光景に、もはや反射で喉が死ぬ。


「ギア゛ァ゛ァァァァァ………


「出しとこうか?精神安定剤?」


 全力で頷いた。



「あはは~キャハハハッ~ふふふふふっ。ぐ、ウッ、アァァァ……


「なんだこの生き物」


「死ねないって……じゃあどうやって天国に行けばいいんでしょうか。エルフの死に方を教えて下さい」


「あぁ急に進むんだ」

 

 自前の大剣に頬ずりするエルフを一旦生物だと認識し、謎の男は正面に座った。


「エルフは死ねない。なぜそれを知らないんだ」


「え?私はエルフじゃないから」


「駄目だ。会話できねぇ。記憶喪失?」

 

 確固たる覚悟で種族を否定【一歩間違えたらやばい】した。


「あのさ、


 ピクッとどこかが触られた。

 自分の何かデカいもの【一歩間違えたらやばい】が反射で動いた感覚が、頭に伝わる。


「なら、これは何だと説明するんだよ」

 

 手を掴まれ、動いた何かに自分の指を当てられる。

 そして、それに、


「感触が……あ、ある……」


「耳の位置だろ?それ。エルフの長い耳だろ?さぁ、お前は誰だ」


「耳が伸びたヒューマンウーマン」


「いっそ死ね」

 

 これはもう他殺願望とかゆうてる場合じゃない。世の中、願望ばかり叶えられるものではないんだ。自殺も視野に、いや、今すぐにでも……!


「回収回収。返せ」


「ァ…………


「声すら出てない」


「アァァァァァァ!!!!」


 頭上に隕石が落ちたような感覚がしました。首は無事のよう。



「死に方……教えて下さい。お願いします」


「なんでそんな内容で土下座されないといけないんだ。やめてください」


 流れるようにスライディングをかます私の頭を拾い上げると、丁寧に座らせた。


(あぁ、こんな男が現実世界にいたら、私はもうちょっといい生き方できたな)


「何を後悔してんの」



「はぁ。で、エルフの死に方?そんなの、あるわけがない。だから不死の生物と呼ばれている。初代のエルフが誕生したのが今から3000年前。つまり、この3000年の間で生まれたエルフは、1人残らず存命中。分かる?」


「この星を壊せば死ねる」


「あ……まぁ」 


 よし、誰か、この星を今すぐ潰してくれ。

 自分で潰して数十億人の命を奪ったとか、ストレスで天国すら生きていけないから絶対無理。誰か頼む。


「とにかく、俺にエルフの死に方を教えることは出来ない。だから言っただろ?エルフの研究をしている学者の元へ案内しようかって」


「よろしくお願いします!!!!」

 

 二度目のスライディング土下座で返事を待つ。


 

 死にたい。殺して欲しい。死なせて欲しい。自殺したくない。人を殺したくはない。恐ろしい他責願望。

 いっそのこと、父親が私ごと殺してくれれば良かったんだ。とても美しい死に方だ。

 物心ついていない赤子が、妻を殺した旦那についでのように殺された。というある種のシンデレラストーリー。誰に殺されたいとか特にない。ここについては通り魔に刺されても、底なし海に落とされて溺死でも、何でもいいのだ。

 どうか、殺して欲しい。



「はぁ。死にたいのに死ねないのも考え物か。分かったよ」


「本当ですか!?」


 私の熱意を受け取ってくれたようで、地味に悩んだ末に男は頷いた。めっちゃ嫌そう。


「逆に断ったら何されるか分からない」


「無理矢理にでも首を切らせる」


「よし、この先を歩くと割とすぐ街につくぞ」

 

 ちょうど私が向いていた方向を、彼は指差す。

 絶望の中では、どこまでも果てしなく続く地獄に思えた草の道も、地平線はあるというものだ。


 あそこにいけば、死に方を教えてくれる人がいる。

 私は死ぬことが出来る。

 天国に行くことができる。



「ところで、ここに何しに来てたんだ?」


「死ぬため」


「あそう」

 

 死ぬために線路に突っ込み、また死ぬためにここに来たのだ。

 何も間違っていない。

 転生とその種族だけが唯一の誤算だ。最悪だ。


 私が男氏に続いて立ち上がったのを確認すると、彼はそのままぽつりと呟いた。


「死ぬために、生きてるんだな」


「そう……ですね」


「この何百年か、幸せだったのか?」


「なんびゃ………。不幸せですよ」


 だって社不だから……。


「なら、幸せを見つける助けくらいする。行くぞ」


「あ……」


 さっと腕を引かれ、私は足を踏み出していた。

 十分前くらいに、閉じた踏切に入れた足よりもずっと軽い一歩。

 いっそこの足がまたどこかへ……

 

 

「ところでお前何なの?」


「お前呼び!?」

 

 聞いてなかったなと思い腕を引かれながら私は口にする。

 名前、素性、職業、知らない人にはついて行っちゃいけないんだよ。

 目元暗くして問う。

 

「名乗れ」


「なんて気迫だよ」


 あいや、初対面同士なら自分から名乗るのが礼儀だとどこかで読んだな。

 私今めちゃ面倒で無礼なやつかも。【遅い】


「私は、あいやごめん。ちょっと先に名乗ってください」


「グジン、王都出身、今ただの放浪者!!!」


「ぐ、ぐぐぐぐぐグジン……!?うそ愚、人……。

 殺してあげましょうか?」


「さっっっっっさと名乗れこの天国中毒っ!!」

 

 この世界観でのネーミングセンスを知りたくて先に名乗らせたのに、私なら生きていけない重さの名前が降ってきて倒れそうになる。

 愚の人。この人の親はどういう心理でそんな名前を……私も人のこと言えないが。


「心臓痛いっ……」


「大丈夫。死なないから」


「心配しろよぉ」

 

 エルフって辛い生き物らしい。

 きっとどれだけ重傷の病にかかっても、全身骨折しても死なないから大丈夫で片付けられるんだ。あぁ、同情するよ。


「私は……カタカナ名前。えっと、ヘル、です」


「おい魂胆は分かってるぞ。地獄にしたいだけだろ」


「可哀想じゃないですか?殺してあげたく


「なるわけないだろ」


「なんだその可哀想なら死のうって考え」とボロボロに名前を否定されふてくされる。

 

 人生なんてぽっくり終わるんだ。

 いつか、死にたくないと思ってしまう時が来る前に、死が私に優しい間に死にたい。



(そんな時が私に来るのか知らないが)


 死ぬために生きる。死に方を見つけるために生きる。

 死を拒否する日を避けるために生きる。


 これは、そんな社不のタヒに方発掘の物語。

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