聞いてくれ…俺の性癖を

テマキズシ

性癖の話し合い


今日は世界が終わる日

謎のテロリスト。Aは星をリンゴに変える装置を作り出し海王星をリンゴに変えた。そして今日が終わる一分前に、この星を含めた銀河系の全てをリンゴに変えると言い出した。


そんなヤバい状況なのに俺は何をしてるんだろうなあ…。


自分が今行っていることに思わずため息をつく。俺はいま提示版仲間とオフ会を行っていた。


世界が滅ぶ今日。俺達アブノーマル提示版のメンバーは、世界が滅ぶなら最後に自分のクソみたいな性癖を語ろうぜと言い出した。


それで俺を含めて五人の人間が集まった。


「サラリーマンくん!君は飲まないのかい?」


「すいません。飲むとすぐ寝ちゃうんですよ…。」


「あらら。そりゃしょうがない。なら君の分もゴクー。くぅ~たまらん!」


今俺に話しかけてきたボールのように太った人はハンドルネーム青山さん。


何でも青山生まれだから青山だとか。まあ俺もサラリーマンだからサラリーマンだし結構皆適当に決めてるよなあ…。


因みにこの人が呼びかけをした張本人。何と馬鹿みたいにでかいコンサートホールの跡地に呼ばれたのだ。何でも某ウイルスで潰れた店を自分が買い取ったそうだ。


「それにしてもアブノーマル板なのによくこんなに人が集まりましたね!」


こちらの常にニコニコしている女性の名前はコアラさん。コアラさんはどうやらまだ高校生らしい。酒を飲まずただひたすらにコアラのマーチを貪っている。


「儂としてはコアラさんとポピーちゃんが来たことが一番の驚きじゃのう。女子だし来ないと思ったんじゃが。」


物凄い量の白い髭を蓄えたお爺さんの名前は仙人さん。まあ見た目から仙人感が強いからなあ。だけどアブノーマルだ。


「アブノーマル板は私の悩みを受け入れてくれましたから…。」


「我も同じ意見だ。」


ポピーちゃんは200センチもある長身の女の子。見るからにムキムキな体にメルヘンチックな服を来ている。さながら童話のアリスだ。


「まあ前座はここまでにして、さっさと性癖について語るとするかの。」


「そうだな。」


「速い気もするが…まあそれぐらいにしないと世界が滅ぶか。」


「では我から時計回りにしようか」


順番はポピーちゃん。仙人さん。コアラちゃん。青山さん。そして俺になった。トリが務まる程の性癖じゃないんだけどな…。


「我の性癖はぬいぐるみ専門店だ。ぬいぐるみ専門店の中じゃないと私は発情できないのだ…。我は喘ぎ声が強く抜くとすぐにバレてしまう…。故に我はいつもこの性癖で苦しみ続けてきた…。」


「…分かるよ。大変だったな。」


「今日は吐き出してもいいんだ!ここには僕達しかいない。」


皆一様に優しい。当然だ。皆そういう想いを抱えてきた。故に結束力ならどの板よりも強い。


「それもただのぬいぐるみ専門店ではだめなのだ。七歳以下の子どもがいないと興奮しない。子どもがぬいぐるみを選ぶ時の可愛さで私は抜くのだ。………以上が私の性癖だ。」


「分かります…。」


「儂も同じ気持ちじゃ。」


全員でポピーちゃんを慰め合う。ポピーちゃんは泣きそうな顔をしていた。優しい子だ。子供を邪の目で見るのが嫌だったのだろう。


ゴホンと咳が聞こえる。次は仙人さんの番だ。仙人さんは全員を眺めると、悟りを開いたような顔で語りだす。


「…儂の性癖は池だ。池のど真ん中に浮かぶことで儂のここはそそり立つ。儂のここは亡き妻でもそそり立つことはなかった。池の中でしか無理だったのだ。妻はそんな私を許してくれたが…儂は辛くてたまらんかった。」


「…分かるよ。大変だったな。」


「今日は吐き出してもいいんだ!ここには僕達しかいない。」


妻の写真をロケットから取り出した仙人さんが泣き始める。アブノーマルを知ってなお愛してくれた妻さんは本当にいい人だったのだろう。


「それもただの池では駄目だ。ドブ臭い池でないと興奮できない。あの匂いが儂のここをそそり立たせてくれる興奮剤となるのだ。」


「分かります…。」


「我にもその思い伝わったぞ。」


仙人さんにハンカチを渡す。暫くしてようやく泣きやんだ。次はコアラちゃんの番。暫くため息をついたコアラちゃんはとうとう語りだした。


「私は…コアラが食べたユーカリで興奮するんです…。私の大好きなユーカリがコアラに食べられた…。これって寝取りだと思うんです。そう思うと興奮が止まらなくなっちゃって…。その為に動物園の飼育員になったんです。」


「…分かるよ。大変だったな。」


「今日は吐き出してもいいんだ!ここには僕達しかいない。」


コアラちゃんはスマホでユーカリを食べるコアラの写真をだしてくる。その時のコアラちゃんの顔は発情していた。


「それもただの食べられたユーカリじゃダメなんです。よだれがたっぷりついたユーカリ。これに限ります。コアラのよだれは愛液なんです。それがたっぷりあってようやく寝取りは始まるんです。」


「儂も同じ気持ちじゃ。」


「我にもその思い伝わったぞ。」


ヨダレが凄い垂れているコアラちゃんをポピーちゃんがキスで止め、次は青山さんの番になった。


「僕の性癖はリンゴと宇宙です。僕は大いなるなる宇宙が大好きです。宇宙の中を泳ぎながら抜きたいです。そしてそれ以上にリンゴが好きです。リンゴを神と崇めるリンゴ神教を立ち上げる程には好きです。だからこの銀河系全てをリンゴに変えようとしました。」


「…分かるよ。たいへ……はあ?!!」


青山さん以外の全員がざわつき始める。しかし当の青山さんはそんなの知ったこっちゃないといった様子で話しを続ける。


「この世に生まれ落ち、性癖により苦しめられて三十年。とうとう私はあらゆる物をリンゴに変換する装置を作り出した。これで私は宇宙をリンゴに変え、ようやく満たされることができる…。」


そうして彼はコンサートホールのカーテンをめくる。するとそこには謎の大きな機械があった。


「…なんで、なんで、こんな大規模なことを!」


「その通り!!!我らの性癖で他の者を傷つけてはいけぬのだ!!!!」


「ムラムラしてるんだよ僕は!!!!!!!もうこの思いを止められないんだ!!!!!!」


「「「「ッ!」」」」


全員黙ってしまった。子どものように泣き続ける青山さんの顔を見て何も言えなくなったのだ。


俺達は分かってしまう。満たされないこの痛み。誰にも認められることのない辛さ。俺達は仲間だ…。


「本当は…一年もあれば作ることが出来た。……でも、それをずっっっっと拒み続けた。だけどとうとう限界が来た。」


「分かって…くれるよな…。僕達は…仲間だろ………。」


「……………。」


「………?サラリーマンさん?」


俺は青山さんに近づき抱きしめた。分かるよ。君の気持ちは。だけど…。


「オラァ!!!!」


「ガハッ!!!」


「サラリーマンさん?!何を!」


全員が驚いている。俺は殴って気絶させた青山さんを見つめながら語る。


「…俺の性癖は英雄願望だ。世界が滅ぶほどの状況じゃないと興奮しない。そしてそれを解決しようと動くと馬鹿みたいに興奮する。今みたいにね。」


俺はビッグマウンテンを指差しながらそう答える。そう。これこそが俺の性癖。俺の生まれ持った運命。


「警察に連絡!速く!俺が押さえておくから!」


「ここは圏外だ。我らのスマホは通じん!!」


「なら儂が車でひとっ走りしてくるぞい!二人はこの中に固定電話が無いか探してくれい!」


「分かりました!」


一斉に全員が駆け出していく。俺はベルトで青山さんを拘束していると、彼が語りかけてきた。


「……何だよ…。なんで…理解してくれないんだ。」


「違うよ。皆理解している。だから止めてるんだ。」


「何を言ってるんだ!!!僕の性癖は宇宙を大いなるリンゴに変えること!!だからこの計画を「違うよ」…ッ?!何を…。」


「君の性癖は自分をリンゴにして宇宙を泳ぎたいんだ。それこそが君の性癖なんだよ。」


俺の言葉にまるで能面のような顔をした青山さんは、その場で大笑いした。


「そうだ!!!!!!そうだ!!!!!そうだったのか!!!!!!今心が満たされました!!!これこそが僕の性癖だったのか!!!!!」


ひとしきり笑うと彼は私に尋ねてきた。


「何故僕の性癖が分かったんですか?」


「そんなの簡単な話さ。アブノーマル板の皆は最初自分の性癖が何なのかに悩まされるんだ。だから分かった。君の言ったことは本当の性癖ではない。君はまだ性癖迷子状態だってね。後は当てずっぽでそれっぽいこと言ってみただけさ。私達アブノーマル板の人間は他人のアブノーマルも直感で分かる。だから皆相槌を打ってたんじゃないか。」
























その後青山さんは捕まって死刑が言い渡された。しかし死刑当日。青山さんは姿を消したそうだ。


その後、近隣住人からリンゴが空を飛んだという馬鹿げた通報が入ったが、警察は余り真面目に受け取らなかったそうだ。






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