ダンジョンで眠りたい
C
プロローグ~むか~し、むかし~
夜空に浮かぶ、血のように紅い月。その輝きが、かつて野蛮な力と偶然が支配していた時代の名残を映し出す。遥か昔、民衆の熱き叫びに応えるかのように、ただの暴君ではなく、正統な支配者として君臨した魔王アリアがいた。彼女の治める異形の国は、燃えるような緋色のカーペットが敷かれた広大な玉座の間と、無数の魔法陣が淡い光を放つ壁面によって、その威厳と神秘を誇示していた。アリア自身は、ふとした瞬間に「これぞ、優雅なる魔王ね」と、内心で微笑みながらも、その美貌と権威に誇りを抱いていた。
玉座に腰掛けるアリアは、月光に照らされた銀髪が生きた水のように流れ、深淵を秘めた瞳で正面に佇む一人の勇者レオを、冷静かつ容赦なく見据えていた。レオは、伝説に語られる古の刃をしっかりと握りしめ、その刃は運命の流れをそっと撫で、時の糸を優雅にねじ曲げる―禁断の奇跡の力を宿している。だが、レオの内心は、そんな自分の持つ力に対していつも「何度こいつの自己紹介を聞くのかな」と、苦笑いを隠せない複雑な思いで満たされていた。
アリアは、低く重々しい声で宣告するように口を開いた。
「我が名は魔王アリア。民の意思に裏打ち、政治も財務も統べる真の支配者として、この国を治める。だが、何故我が前に立つのは、ただ戦火の中で剣を振るう、野蛮な兵器と化した『勇者』だ。そなたのような、ただ力だけに頼る愚か者が、果たして国の未来を紡ぐ役割を担えるとでも、私が信じているのか?」
レオは一瞬、青白い瞳を伏せる。彼の内面では、幼い頃から剣と共に生きた苦労や、何度も自らの運命を変えようとした過去の挫折が渦巻いていた。
「魔王……貴女の言葉は、従来の善悪の狭い枠を超えた、壮大な未来への野望を感じさせる。しかし、我が使命は単なる戦闘に留まらず、己の運命と時の流れすらも見つめ直す覚悟を問われるものだ。」
レオはふと目を閉じ、過去の幻影―辛くも笑い話に変わるような失敗や、未来を垣間見たあの日の記憶―を思い出す。「あの日、俺はただ穏やかに暮らしたかっただけなのに、一番戦場にいるな」と自嘲しながらも、彼は続けた。
「もし、この禁断の力が、過去の過ちを正し、新たな未来を描くための唯一の希望なら……」
アリアは、眉を僅かにひそめながらも、すぐに嘲るような笑みを浮かべ、声を切り返す。
「ほほう、我が前に立つ愚かなる戦士よ。そなたの剣が振るわれるたび、まるで運命の糸が絡み直されるかのようだ。その『時の巡り合わせ』――あれは、私の精緻なる政略の隙間を埋める、予想外の救済策となるのだ。正直、そなたが運命を塗り替えるたび、私もその恩恵に感謝せざるを得ぬ。…いや、羨望すら感じることもあるわ。実際、あの瞬間は、計画がちょっと滑稽に見えてしまうのよね。」
彼の顔には決意と苦悩が混じっていた。そして、さらに問いを重ねる。
「ならば、貴女が目指す『新世界』とは、一体何を意味するのか? 我がような者が、その未来の設計図の一片として、過去も未来も捨てる覚悟を求めるというのなら……」
アリアは玉座の奥で、ふと影と戯れるように、深いため息をついた。彼女の内面では、長年の政治と財務の戦いの疲れ、そして自身が抱く壮大な野望への情熱がせめぎ合っていた。その表情には、厳格さと同時にどこか洒落た余裕が感じられ、やがて彼女は低く、しかし力強い声で答えた。
「この世界は、もはや偶然の衝突に委ねるにはあまりにも貴重だ。新たなる時代は、すべての存在に固有のスキルと、無限のレベルアップの可能性を授ける。広大な『ダンジョン』と呼ばれる未知の領域が、我々に祝福と試練を同時に与えるのだ。つまり、戦火だけに生きるのではなく、知恵と情熱、そして血で刻まれた歴史が織りなす真の秩序を共に築く未来――これこそが、我が望む世界である。」
その言葉と同時に、玉座の間に漂う魔法陣が激しく輝き、壁面に刻まれた古の紋章が震え始めた。レオは「魔王城がこのまま消えて、変わりゆく力」感じながら、深く息を吸い込み、決意を固めた。
「たとえ、血塗られた試練があろうとも、未来は我が手で切り拓く。過ぎし日々を捨て、新たな秩序の中で己の存在を刻む覚悟はある。」
その瞬間、アリアは冷たくも優雅な微笑みを浮かべ、そして最後に、皮肉とともに、しかし明らかな感謝の色を隠さずに告げた。
「ならば、勇者よ。さあ、城の扉を叩け。そなたの運命すらも書き換える奇跡の力が、我が新世界――数値となる祝福、昇華するレベル、そして果てなきダンジョンの謎に、確かな希望を与えるのだ。これから始まる、血と魔力に彩られた壮絶な冒険の中で、共に未来を創ろうではないか。」
アリアの声とともに、玉座の間に秘められた魔法の力が、時代の断絶とともに新たな大地へと注がれ、世界はかつてないほどの輝きを帯びた大いなる叙事詩へと姿を変えた。魔王と勇者の運命的な対話は、未来への衝撃的な扉を開き、その先に隠された真実と無限の可能性に、誰もが胸を躍らせるのであった。
そう、あの日、世界にダンジョンも、レベルも、スキルも、ステータスも―すべてが新たな物理法則として顕現した瞬間であったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます