第13章 別れと約束②《完結》
13.3 別れの瞬間
13.3.1 最期の日
病室は静けさに包まれ、外の明るい光が薄くカーテン越しに差し込んでいる。彩乃の呼吸は次第に浅くなり、枕の上に横たわる姿は、どこか儚く、そして永遠の静寂を孕んでいる。彼女の顔には痛みや苦しみがほとんど見えない。むしろ、安らかな表情が浮かんでいるようにも見え、これまでの闘病生活の中で彼女がどれほどの強さを見せてきたのかを感じさせる。
迅は病室の扉を開けると、目を赤く腫らしながらも冷静さを保とうと必死な様子で歩み寄る。真奈も、既に数日間続いていた緊張感から解放されることなく、その場に立ち尽くす。智輝は少し戸惑いながらも、母の側にそっと寄り添い、咲希は涙を堪えきれずに顔を手で覆っている。家族全員が、一歩一歩、足音を忍ばせながらその場に集まる。
彩乃は目を閉じたままで、まるで誰かの存在を感じ取るかのように、周囲を意識しているかのようだ。その呼吸は徐々に途切れがちになり、時折胸が小さく波打つ。最後の息が漏れるように、微かな音を立てて消えた。その瞬間、病室にいた全員が、息を呑んだ。
彩乃は目を開けることはなく、ただその静けさの中で、最期の瞬間を迎えた。彼女が残した表情には言葉以上の深い意味が込められていた。それは、すべてを受け入れ、最後に自分が大切にしてきたものを見つめ直しているようにも見えた。
迅が彼女の手を取ると、彩乃の指先が少しだけ動き、微かに反応を見せる。それが最後の力を振り絞ったようなものだと感じ取った迅は、涙をこらえきれずに肩を震わせながら、何も言えずにただ彼女の手を握りしめた。
「さよなら」と言いたいのに、その言葉は喉に詰まってしまう。そこにあったのは、ただの静かな別れだった。
13.3.2 迅の苦悩と咲希の反応
迅は、彩乃の手を握りしめたまま、ただその静かな病室で立ち尽くす。顔を上げると、彼の目には止めどなく涙が溢れ、静かな呼吸を重ねるたびに彼の胸が痛む。彩乃の死を受け入れることができない。無意識に握りしめた手のひらに力を込めるが、どうしても彼女の温もりは感じられない。手のひらが冷たく、硬くなっていくその感覚が、迅の心に深く突き刺さる。
「彩乃…」彼の声は震え、喉を通るたびに引き裂かれるような痛みが広がる。どれだけ彼女と過ごした日々が貴重で、愛おしいものであったかを理解しているはずなのに、それでもその事実を受け入れられない。自分が彩乃の側にいて支えてきたはずだった、そしてそのことに誇りを持っていた。しかし、今その誇りを手にしているはずの彼は、どうしてもその喪失を抱えることができない。涙を流しながら、彼は無意識に何度も彩乃の名前を呟き続けた。
彼はこれまで、家族を守り、支えるためにどれだけ自分を犠牲にしてきただろう。彩乃が病に苦しむ姿を見て、無力さを感じながらも、彼女の強さを信じていた。しかし、今、その信じていた彼女が、目の前からいなくなってしまった。迅の胸には激しい葛藤が渦巻き、抑えきれない感情が彼の中で爆発する寸前だった。彼は家族を支え、強くあろうとしてきたが、その圧し寄せる悲しみは、彼にとってあまりにも大きすぎた。
一方で、咲希はその場に立ち尽くしていた。姉の死をどう受け入れればいいのか、言葉を持たないまま、ただその重い空気に呑まれそうになる。彼女の胸中では、複雑な感情が渦巻いていた。姉の死という現実がどこか遠いもののように感じられ、それにどう向き合うべきかが分からない。ただただ、悲しみに打ちひしがれるだけで、涙も出ない。
咲希は目を閉じ、心の中で何度も彩乃との思い出を反芻していた。二人で過ごした時間は、幼いころからの小さな喧嘩も、笑い合った瞬間も、すべてが今は遠い記憶となり、喪失感として彼女に圧し掛かっていた。その場で何をすべきかも分からず、ただじっと黙って立ちすくむばかりだった。彼女の心は、姉がいなくなったという事実をどうにかして消化しようと必死に働いていた。
やがて、咲希は震える手で彩乃の枕元に近づき、つぶやくように「ありがとう…お姉ちゃん」とだけ言うのがやっとだった。しかしその言葉は、彼女の心の中で何かを解放するための一歩だった。
13.3.3 智輝の思い
智輝は病室の隅で静かに立ち尽くしていた。16歳という年齢で、死というものに対する理解はまだ浅かった。親たちが泣き、悲しみの中で喪失を感じている姿を見ながらも、彼の中で何が本当に起きているのか、どう感じればいいのかが分からなかった。彩乃の死が現実であるという事実が、どこか夢の中の出来事のように感じられ、心が追いつかない。彼は何度も目を擦り、涙をこらえようとするが、なかなかうまくいかない。
「お母さんがいなくなるって、どういうことだろう?」と、心の中でつぶやく。母親を失うということは、ただ一人の親を失うこと以上に、何か大きな変化を意味するのではないかという漠然とした不安が、智輝の胸に重くのしかかっていた。それでも、彼はその不安を口に出すことなく、ただ黙ってその場に立っている。死を前にした親たちの痛みを見ながら、自分の気持ちをどう表現していいのか分からなかった。
智輝はふと、父親—迅—を見つめた。迅は泣きじゃくっているわけではなかったが、その表情に浮かぶ深い悲しみを見て、彼はますます心が揺れ動く。父親は強く、どんな困難にも立ち向かってきた。しかし、今その父親が見せる弱さを前にして、智輝は自分の役割が何であるのかが分からなくなった。母親を失ったことによる空虚さ、父親の気持ち、そして家族の未来。すべてが彼にとって未知の領域であり、どう進むべきかを考えれば考えるほど、心の中で迷いが生じていた。
「僕は、どうしてあげれば良かったんだろう…」智輝の心の中で、自責の念がわき上がる。もっと母親と一緒に過ごしていたら、もっと助けられたのではないかと感じる自分がいる。それでも、彼はまだ若くて、その自分の思いをどのように整理していいかが分からなかった。悲しみを表現する方法も、親のように強くなれたらと思うが、それができる自信はなかった。
父親の肩越しに見た母親の顔—今は静かに眠っているかのような顔—その顔が彼にとっては遠い存在のように感じる。しかし、智輝は必死にその顔を脳裏に焼き付けようとする。母親の愛情、家族として過ごした日々、すべてが今、手のひらからこぼれ落ちていくような感覚だ。
「お母さん…」智輝は小さな声で呟くが、その声が病室の静寂の中に消えた。涙がこぼれ落ち、彼はその感情をどうすればいいのか分からず、ただそのまま立ち尽くしていた。16歳という年齢の彼にとって、死はあまりにも遠く、未熟で不完全な感覚として感じられた。しかし、家族がこれからどんな風に生きていくべきか、その大きな課題が目の前に突きつけられ、彼は少しずつ、自分の中でその重さを感じ始めていた。
13.3.4 家族の心の変化
病室を後にした家族は、それぞれが別々の場所で立ち止まり、彩乃の死を受け入れようとしていた。迅は帰り道、車の中で無言で運転している。胸の中に広がる空虚さと寂しさに、どう向き合うべきかが分からなかった。彩乃が生きていた頃のあの日々—共に過ごした温かな時間や、たくさんの言葉のやり取りが、今では手のひらからすり抜ける砂のように感じる。心の中で無数の後悔がこだまするが、それにどう対処すればいいのか分からない。ただ、愛していたという思いが強く胸を打つ。やがて、涙を堪えきれず、運転席で目を閉じる。
「彩乃、どうしてこんなことに…」
迅の言葉は、静かな夜の車内に消え、何も答えが返ってこない。その寂しさに、彼は少しずつ心が疲れていくのを感じていた。
真奈は家に戻ると、彩乃の遺影を見つめながら、静かに涙を流した。彼女にとって彩乃は、ただの友人以上の存在だった。目指す道は違えどもどこかライバルのような存在でもあり、お互いの心の拠り所でもあった。毎日が忙しく過ぎていく中で、当たり前のように連絡を取り合い、共に笑い合い、時には励まし合った時間が、今となってはすべてが宝物のように思える。真奈は自分の心の中で彩乃を思い出し、その存在を強く感じながら、彼女が教えてくれたこと—本当の意味で「人と向き合う」ことの大切さを胸に刻んでいた。
咲希は、彩乃の遺品を整理しながら、その思い出に浸る。姉がいなくなったことが実感としてこみ上げてくると、彼女はふと手を止めた。これまで何気なく過ごしてきた日々が、どれほど意味のあるものだったのかを、今さらながらに実感する。姉はいつも、何かしら自分を引っ張ってくれていた。それが当たり前だと思っていたが、今、その背中をもう見ていることができないという事実に直面して、咲希は思わず声を上げて泣いた。今後の人生をどう進んでいけばいいのか不安だが、彩乃が残した温かな愛情を胸に、少しずつ前に進もうと心に誓う。
智輝は、その夜、静かな部屋の中で、自分なりの整理を始めた。母親の死という出来事が、あまりにも大きすぎて、すぐには理解しきれなかった。しかし、家族が一緒に過ごす時間、互いに支え合って生きてきた日々を思い返すうちに、少しずつその感情に向き合うことができるようになってきた。彼はまだ若く、死というものに対する完全な理解はできていないが、それでも家族の中で自分の立ち位置を見つけようとし、心に深く刻み込まれる教訓を感じていた。
「お母さん、ありがとう。」智輝は小さな声でそうつぶやくと、その言葉を心の中で何度も繰り返した。そして、少しずつ前を向こうと決意を新たにする。
家族全員が、それぞれに彩乃との別れに向き合いながら、彼女が与えてくれた愛と支えを感じていた。彼女の死は深い傷を残したが、同時にその絆をより強くした。迅は家族を守る決意を新たにし、真奈は自分の使命を感じながら生き、咲希は今後の人生をどう生きるかを考え、智輝は成長していく道を模索していく。彩乃がいなくても、彼女が残したものは確かに彼らの中に生き続ける。
そして、家族はその絆を頼りに、少しずつ前に進み始める。彩乃の死が彼らに与えた痛みは消えないが、それでも彼女が教えてくれたこと—愛と、絆、そして前に進む力—は、これからの彼らの人生に強く影響を与え続けるだろう。
13.4 未来へ
13.4.1 最後の出版
彩乃の未完の作品が、彼女が残した断片的なメモやノートを基に編集者の手で完成され、ついに世に送り出されることとなった。彩乃の心を込めて綴られた言葉は、未完成のままではあったが、編集者たちは彼女の意図を理解し、最後の章を慎重に仕上げていった。その過程で、彼女の作家としての信念、作品への情熱がしっかりと形にされ、読者の前に出る準備が整った。
本が完成した後、最初に手にしたのは彼女を最もよく知る真奈だった。真奈は書店に足を運び、店の一角に並んでいた本を見つけると、表紙に印刷された「宮原彩乃」の名前を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。その名前が、どれほど彼女にとって特別なものであったかが、まるで胸を貫くように感じられた。真奈は本を手に取ると、その重みを感じながら静かにページをめくり始める。
ページをめくるたびに、彩乃の声が、彼女の思いが文字の中から浮かび上がってくるような気がした。そこに刻まれた言葉は、まるで自分に語りかけているかのようだった。彩乃がどれほどの思いでこれを書き綴ったのか、その一つひとつの言葉に込められた彼女の想いが、真奈の心を温かく、そして痛みを伴いながらも深く打った。
涙が一滴、また一滴と頬を伝った。真奈は涙を拭いながら、何度も何度も同じページを読み返した。そのすべてが彩乃からのメッセージであり、彼女の人生の一部がその中に詰まっていた。真奈にとって、これはただの本ではなかった。それは、彩乃の魂の一部であり、彼女と過ごした時間の証であり、これからも忘れられない約束が込められた言葉だった。
彼女はそのまま本を抱きしめ、静かな店内でしばらく立ち尽くしていた。どこか遠くで、彩乃が微笑みながら自分に言っている気がした。「ありがとう、真奈。私のことを忘れないでね。」その言葉が、真奈の胸に深く刻まれ、再び彼女の心を強く支える力となることを感じながら、その本を購入し、ゆっくりと店を後にした。
13.4.2 咲希の決意
咲希は彩乃が残した作品を手にしたとき、胸の中で何かが変わった。姉が書き残した言葉には、彼女の強さ、優しさ、そして深い愛情が詰まっていた。ページをめくるたびに、彩乃の思いが鮮やかに蘇り、咲希の心は次第に温かく、そして重くなっていった。彩乃が家族に対してどれほど深く思い、愛していたか、そして彼女が示した生き方に込められた強いメッセージが、咲希にとってはまさに心の中で光り輝く道しるべとなった。
「お姉ちゃんは、いつも強くて、優しかった。」咲希は静かに呟きながら、もう一度その言葉を胸に刻んだ。姉が自分に向けて放った言葉が、今になってすべての意味を持ち始めていた。あの日々、姉が見せてくれた笑顔や、言葉の裏に隠れた深い愛情。それがどれほど大きな力だったのかを、咲希は今更ながら実感した。
そして、彩乃が伝えたかったことは、ただ家族のためだけではなく、自分自身をしっかりと生きること、そのために何を大切にしていくかを問いかけるものだった。咲希はそれを読みながら、自分の生き方を再評価せずにはいられなかった。過去の自分、姉を失ってからの孤独感、そしてこれから向かうべき未来について、心の中で葛藤していたが、この本を読み終えた瞬間、彼女の中に新たな決意が芽生えた。
咲希は彩乃の死をきっかけに、自分の人生に向けた新たな道を歩む決心を固めた。姉が残したメッセージを胸に、これからの自分の生き方を自分の手で作り上げていこうと誓った。過去の自分に囚われず、姉が示したような生き方をしっかりと見つけること、そして何よりも、前向きな選択をすること。それが咲希にとっての新たな挑戦だった。
彼女は心の中で、決して戻れない時間と姉の死を無駄にしないと誓った。自分の未来を、自分の力で切り開いていく。その思いを強く持ちながら、咲希は次の一歩を踏み出す準備を整えた。そして、彩乃がどこかで見守ってくれていることを信じて、彼女のように自分の道を進む覚悟を決めた。
13.4.3 真奈の再出発
彩乃の死後、真奈は家族の支えを受けながら、少しずつ新たな人生を歩み始めていた。最初はその空虚さに圧倒され、何もかもが重たく感じられたが、時間とともに、彼女は自分が彩乃に教わったこと、そして彩乃との絆を胸に、再び前を向くことができるようになった。親友が遺した言葉、あの日々に交わした何気ない会話や、彼女が示してくれた強さが、今の自分を支える力となっていることに気づいた。
子供たちの成長を見守りながら、真奈は改めて自分の人生に向けて前向きな気持ちを持つことを決意した。特に娘の結衣と穂香の成長を見ていると、彼女らがどんな人間になるのか、どんな道を選んでいくのか、その未来に対しての希望が湧いてくる。真奈もまた、彼女らのように新しい可能性を信じ、進んでいきたいと強く思うようになった。彩乃が教えてくれた「前に進む力」は、今も真奈の心に息づいており、それを胸に、彼女もまた自己成長を目指していく。
真奈は、仕事でも新たな挑戦を始めた。以前から気になっていた分野に踏み込むことを決め、子供たちのことと並行して、自分のキャリアを積み重ねていくことにした。彼女はもう一度、仕事における情熱を取り戻し、これまで以上に家族を支えながら、未来に希望を抱いて生きる決意を新たにした。
前に進むことを、彩乃はいつも教えてくれた。そのことを思い出しながら、真奈は自分の歩みを一歩一歩進めていく。未来にどんな困難が待ち受けていても、彼女はその時が来たときに、家族と共に力強く乗り越えていくと信じている。そして、家族を守り、支え合いながら、明るい未来を築いていくことを決意した。
13.5 約束と希望
13.5.1 再会の約束
真奈は、静かな朝の光が差し込むリビングで座り込み、目の前にある写真を見つめていた。それは、彩乃と一緒に撮った最後の写真。彩乃が病床に伏してから何ヶ月かが過ぎ、彼女の死後、真奈はその写真を何度も手に取った。彩乃の笑顔が、真奈の心に優しく響く。あの日、彩乃はいつも通り明るく、そして力強く語りかけてきた。「私がいなくても、真奈なら大丈夫。前を向いて生きていってほしい」その言葉が、今でも真奈の胸に強く刻まれている。
「あの時の彩乃の笑顔を、絶対に忘れない」
そう呟きながら、真奈は心の中で再び彩乃と交わした約束を思い返した。あの日、彩乃が生きる力を与えてくれたその言葉が、今もなお真奈の心を支えていた。彼女がいなくなってからの生活は、時に辛く、そして寂しくもあったけれど、その言葉があったからこそ、前を向いて進むことができた。
家族が支えてくれる中で、真奈は今までの自分を振り返りながらも、新しい自分を見つけることを決めた。子供たちが成長し、母親としての役目も果たしつつ、自分の道を歩んでいくためには何が必要なのかを考えた。これからの人生をどう過ごしていくか、その答えが少しずつ見えてきた。彩乃の死後、これまでのすべての時間が、彼女の教えや思いに繋がっていると感じる瞬間が増えていった。
「前を向いて生きていく。」
真奈は心の中で強く誓う。家族とともに歩みながら、自分自身を大切にしていく覚悟を決めた。そして、その道を進みながら、いつかまた彩乃と再会する日を信じて。何度も繰り返し、心の中で言い聞かせる。彼女が教えてくれた「生きる力」を胸に、これからも進んでいくのだと。
新しい一歩を踏み出す瞬間、真奈は静かな誓いを立てた。彩乃との約束を守りながら、前に進んでいく。今も彼女の存在は、決して消えることなく、真奈の中で息づいている。
13.5.2 未来を生きる
彩乃の死から10年が経ち、時の流れが家族に与えた変化を感じながらも、彩乃が教えてくれた「前に進む力」を胸に、彼らはそれぞれの道を歩んでいた。
智輝は26歳になり、青年として自分の未来に向かって歩み始めていた。
若さゆえに迷いながらも、彼は確かな決意を持っていた。独立を果たし、彼の職業は彩乃が生前に何度も話していた「自分らしく生きる」ことを体現していた。かつての父の背中を見ながら、そして母から受け継いだ教えを基に、自分の道を切り拓こうとするその姿に、家族は誇りを感じていた。「僕も、母さんのように大きな影響を与えられる人になりたい」と語る智輝の顔には、確かな未来への希望が宿っていた。
咲希は52歳、旅行代理店で新たなプロジェクトを手掛けながら充実した日々を送っていた。
事故を乗り越えて再び歩き出した彼女は、今やキャリアを積み重ね、ベテランとして第一線で活躍している。彩乃の死後も姉の教えを胸に、彼女は生きる力を見つけ、前向きに歩んでいる。「お姉ちゃんが教えてくれたこと、忘れてはいけない。私は、これからも笑顔で進んでいくよ」と語りながら、咲希は新たなチャレンジに挑んでいた。
迅は55歳となり、ジュニアチームのコーチとして未来を担う選手たちを育てる仕事に情熱を注いでいた。
彼は、家族の絆を大切にしながら、スポーツを通じて若い選手たちに自己肯定感や努力の大切さを伝えている。「君たちには無限の可能性があるから、恐れずに進んでいこう」と、練習中に励まし続けるその姿には、選手たちに向けた深い愛と期待が込められていた。家族と共に築いてきた絆を、次の世代に受け継いでいこうとする迅は、どこまでも温かい存在であり続けた。
真奈は56歳、スクールカウンセラーとして、これまで以上に多くの子供たちと向き合っていた。
彼女は子供たちに「前に進む力」を伝え続け、彼らの未来を支える存在でありながら、自分自身も新たな一歩を踏み出していた。家族と過ごす時間を大切にしつつ、彼女は仕事でも新しい挑戦に積極的に取り組み続けていた。「私も、彩乃が残してくれた教えを実践していく。それが、私にできる唯一のことだから」と、真奈は静かに決意を新たにしていた。
彩乃はもうこの世界にいない。
しかし、彼女が残した思いと教えは、一人ひとりの中で生き続け、それぞれの人生に希望と力を与えている。彩乃がいなくても、その影響を受けて前向きに歩み、明るい未来を信じて生きている。
その姿に、彩乃の存在がある。
「前に進むことを恐れずに、未来に向かって歩んでいこう」と。
明日の彼方 瞬遥 @syunyou
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