明日の彼方
瞬遥
第1章 出会い
大学生活が始まる前、彩乃は心の中で期待と不安が入り混じる複雑な感情を抱えていた。東京の大学に通うことになったものの、都会の喧騒の中で新たに出会う人々や、今までとは違う環境に飛び込むことへの緊張感がある。
「新しい友達、できるかな? それに、大学ってどんな感じなんだろう…」彩乃はふとつぶやいた。バスケ部での経験から、どんな場所でも自分の居場所を見つけられる自信はあったが、どこか不安もあった。それでも、すぐに心を奮い立たせる。「でも、きっと面白いことが待ってるはず!」
一方、真奈も同じような気持ちを抱えていた。心理学を学びたくて進学を決めたものの、大学生活は未知の世界だ。「新しい環境でどうやって自分を見つけよう?」と考えつつも、彼女はその不安を少し落ち着かせようとしていた。家で静かな時間を過ごしてきた真奈にとって、大学生活は大きな一歩だ。だが、彼女はこう思う。「新しい自分に出会えるかもしれない。挑戦してみる価値はある」
そんな思いが、二人の心の中で交差していた。
大学の初日、キャンパスは新入生で賑わっていた。彩乃は早速、オリエンテーションの会場へ向かうために歩いていた。道の途中で、広いキャンパスの景色に心が踊る。「やっぱり広いなぁ」と感嘆の声を漏らす。新しい世界に足を踏み入れたことを実感し、少し緊張していたが、同時にその興奮が体の中に広がっていくのを感じた。
オリエンテーション会場に近づいたとき、ふと目に入ったのは、同じく迷っているような表情をした女の子だった。彼女は少し歩きながらスマホを見ていたが、どうも迷っている様子。彩乃はそんな彼女に声をかけることにした。
「ねえ、オリエンテーション会場ってどっちだろう?」彩乃は笑顔で声をかけた。最初の一歩として、少し勇気がいったが、どこか心の中で「この子と仲良くなれたらいいな」と思っていた。
その声に反応して、真奈は顔を上げ、少し驚いたような表情を浮かべながら言った。「あ、私も迷ってるんです。」その声にはどこか穏やかな響きがあった。
二人は少しお互いを見つめ合った。真奈の落ち着いた雰囲気と、彩乃の元気な表情が対照的でありながらも、なんだかお互いに安心感を覚えた。
「じゃあ、一緒に行く?」彩乃が提案すると、真奈も頷きながら、「はい、行きましょう」と言った。その言葉は、どこか自然で温かかった。
二人は並んで歩きながら、少しずつ自己紹介を始めた。彩乃は軽く「私は高橋彩乃、文学部だよ!」と元気よく言い、真奈は「私は島崎真奈、心理学部です」と少し控えめに自己紹介をした。
初対面だというのに、話はすぐに弾んだ。彩乃はスポーツや映画が好きだと話し、真奈はカフェ巡りや音楽、心理学への興味を語った。二人の趣味は少し違っていたが、意外と共通点が多くて驚いた。
「こんなに話しやすい子、初めてだな」と彩乃は心の中で思った。真奈もまた、彩乃の自然体で明るい性格に、どこかホッとした気持ちになっていた。
そして、二人がオリエンテーション会場に到着する頃には、もうすっかり打ち解けていた。「じゃあ、また後で会おうね!」彩乃が言うと、真奈も笑顔で「うん、楽しみだね!」と返した。
二人はお互いの名前で呼び合うことに自然に決まった。真奈はすぐに「彩乃」と呼び、彩乃も「真奈」と呼ぶようになった。
この最初の出会いが、二人の関係の始まりとなるとは、まだ誰も知らない。
オリエンテーションが終わり、大学生活の初日が少しずつ進んでいく中、彩乃と真奈はそれぞれ自分のクラスへ向かう準備をしていた。二人の間に自然に会話が流れ、互いに声をかけることも増えてきた。
「今日は色々と忙しそうだけど、終わったらどこかで一緒にお茶でもしようよ!」彩乃は興奮気味に提案した。初めての大学生活に対する興奮が溢れ、真奈もその気持ちに共感していた。
「うん、いいね。ちょっとリラックスしたいし」と真奈も笑顔を浮かべて答える。二人の間には、初対面だったとは思えないほど自然な雰囲気が流れていた。
オリエンテーション後、共通の授業に参加していた二人は、昼休みになるとカフェテリアで合流した。小さなテーブルに座りながら、お互いの近況や将来の夢について話し合う。お互いがどれだけ新しい環境にワクワクしているのかが、会話の中で感じ取れた。
「彩乃は、スポーツが得意なんだね。大学でもバスケ部に入るの?」真奈が興味深く尋ねると、彩乃は少し照れながらも答えた。「あ、大学ではバスケ部には入らないかな。文芸にとかに興味があるんだよね。楽しくやれたらいいなって思ってる。」
「そうなんだ。私は…まだ部活は決めてないんだよね。。心理学部だから、サークルでも人の心について学べるようなものに入れたらいいなって思ってるけど。」真奈は少し考え込むように答えたが、その後すぐに彩乃の笑顔に引き込まれるように続けた。「でも、最初はちょっと怖いよね、新しい場所に馴染むのって。」
彩乃はその言葉に頷きながら、「うん、新しい環境ってやっぱりドキドキするよね。でも、やっぱり慣れてきたら楽しいと思うよ!」と明るく答えた。「私たち、これからも一緒に過ごすことが多くなるんだろうし、そんな中で気軽に話せる友達がいると嬉しいな。」
その言葉に真奈は少し驚いたように目を丸くした。初対面で、こんなにお互いに打ち解け合えるなんて思ってもみなかったからだ。
「ありがとう、彩乃。」真奈は感謝の気持ちを込めて言葉を返す。「実は、こうやって誰かと話せるのって、すごく心地いいよ。もっと気軽に話せるようになれたらいいなって。」
昼食後、二人はまた一緒に講義を受けるためにキャンパス内を歩きながら、お互いの夢や希望について語り合った。大学生活への期待感と、少しの不安が交錯しながらも、それを支える友達ができたことにお互いにほっとした気持ちを抱えていた。
二人はまだこの先の人生でどんなことが待ち受けているのかを知る由もない。しかし、この初対面の瞬間が、二人の関係の始まりであることは確かだった。
初めての大学生活は、新しい環境や人々に囲まれて、予想以上に忙しく感じられた。彩乃と真奈は、それぞれの講義や課題に追われながらも、何度も顔を合わせる機会があった。昼休みに会うことが増え、一緒に過ごす時間が自然と増えていく中で、二人の距離は確実に縮まっていった。
ある日、大学のキャンパス内で、二人は偶然にも同じカフェテリアでランチを取っていた。真奈は普段、少し控えめな食事を選ぶ傾向があったが、今日は気分転換に彩乃と一緒に食事をすることにした。
「ねえ、今日の授業、どうだった?」彩乃が箸を持ちながら話しかける。「少し難しかったけど、興味深いことも多かった。なんだか、これからの大学生活がますます楽しみになってきたよ。」真奈は少し笑顔を浮かべながら答えた。
「私も同じ!最初はちょっと不安だったけど、少しずつこの大学の雰囲気にも慣れてきたし、友達もできてきたし、心強いよね。」彩乃が頷きながら話す。二人の会話は、自然で心地よいもので、初対面のころとはまるで別人のような距離感になっていた。
「これからも、どんどん仲良くなろうね」と彩乃が笑顔で言う。真奈はその言葉に胸が温かくなるのを感じた。「うん、これからもよろしく、彩乃。」
二人は、まだ大学生活のほんの一部を過ごしただけだったが、お互いにとってかけがえのない存在になる予感がしていた。新しい環境の中での不安や期待は、二人で共有することで少しずつ薄れていった。そして、大学生活という大きな一歩を共に踏み出したことが、二人にとって大きな意味を持つ瞬間となった。
この日、二人はそれぞれの授業が終わった後も、一緒に帰る約束をした。キャンパス内を歩きながら、今後の予定や興味があることについて話し合い、再び笑顔を交わしながら帰路についた。
互いにとって、大学生活の中でこんなに素晴らしい友達ができたことに感謝しながら、二人はこれからの未来に胸を膨らませていた。
大学生活に少し慣れた頃、彩乃と真奈は、再びカフェテリアで昼食を共にしていた。互いに忙しい日々が続いていたが、こうして一緒に過ごす時間が何よりも心地よかった。
その日も、昼食を取りながら軽い会話を楽しんでいたが、ふとした瞬間に二人はお互いの過去に触れることになる。
「彩乃って、なんだかいつも元気だよね。大変なことがあったりしないの?」真奈が少し控えめに尋ねた。彩乃はしばらく考え込み、「そうだね、私、結構家庭が忙しくて、親も共働きだったから、なんでも自分でやらなきゃって感じだったかな。でも、妹がいて、いつも一緒に遊んだりして楽しかったよ」と答えた。
「妹かぁ、いいね。私、お兄ちゃんがいるけど、ちょっと違ったな」と真奈は微笑んだ。「うち、両親が教師だから、学問を大切にする家庭で育ったんだ。でも、お兄ちゃんはもっと外向的で、私とはちょっと違う性格だったから、学校とかで相談したり、すごく頼りにしてたな。」
二人の会話は静かに続き、お互いに少しずつ家庭環境や価値観が見えてきた。彩乃の家庭は活発でエネルギッシュな雰囲気が感じられ、妹との仲の良さがそのまま彩乃の明るさに繋がっているのだろうと感じた。一方、真奈は静かな家庭で育ち、学問を大切にする両親の影響を受けて内向的で慎重な性格が育まれたようだ。
二人の違いはあるものの、それぞれが持つ背景や考え方は、相手に対する理解を深めるきっかけとなった。そして、会話の中で「それぞれの家庭があってこそ今の自分がある」という思いが自然と二人の心に刻まれた。
「ねえ、彩乃、大学生活って思ってたよりもいろんなことがあるよね」と真奈がふとつぶやく。「そうだよね。新しいことに挑戦できるチャンスがたくさんあって、最初はちょっと不安だったけど、少しずつ自分にできることが増えてきた気がするよ。」
彩乃の言葉に真奈は頷き、「私も、これからもっと学んでいけたらいいなって思う」と言った。その言葉に彩乃は嬉しそうに微笑み、ふたりはしばらくの間、お互いの目を見つめ合った。
「ねえ、真奈。将来、どんな仕事をしたいと思ってる?」彩乃が興味津々に尋ねた。「うーん、私はカウンセラーになりたいんだ。人の心に寄り添う仕事がしたくて、大学でも心理学を勉強してるんだよ。」
真奈の言葉を聞いて、彩乃は真剣な表情を浮かべながら言った。「カウンセラーかぁ、それすごいね。私は、ライターとして誰かに影響を与えるような仕事をしたいんだ。自分の言葉で何かを伝えて、誰かの心に届くような仕事がしたい。」
二人はお互いの夢を語り合う中で、共通して感じるのは「人の役に立ちたい」「自分の力を信じて、成長していきたい」という強い思いだった。意気投合した二人は、お互いに未来への期待を込めて笑い合った。
「これから一緒に頑張ろうね、真奈。」彩乃が言うと、真奈は柔らかな笑顔を見せて、「うん、私たちならきっとできるよ。」と答えた。
その日、二人はそれぞれの夢を語り合いながら、大学生活が待ち遠しくなるような気持ちを共有した。そして、こうしてお互いに大切な友人として認識し、これから共に過ごす時間を楽しみにする気持ちが強くなった。
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