第10話 楽しみ




 私は、眠る前にずっと考えていた。

 初めてのことはなんでも怖い。私のこと、ハメようとでもしてるの?。

 こんなことを考えても、頭は惑わされない。なんでだろうか。

 心臓が落ち着いてくれない。バクバク言っていて、眠れないほどに、苦しい。

 なんでだろう。ずっと理玖君の「良かったわ」が、耳にこびりついて離れない。

 あれって、どういう意味だったんだろう?

 もしかして……いや、でも、そんなわけない。たぶん。

 私は急いで妄想をふり解いた。

 ……てか、なに考えてるんだろう。こんな私のことを思うわけもないよね!?。


 顔が熱くて、頬に手を当てる。

 冷たい指先で触れても、火照った感じは消えない。


 「もー……なんであんなこと言うの……」


 ぽつりと独り言が漏れる。

 でも、嫌じゃなかった。むしろ、ちょっと嬉しかった。

 まさか理玖君に、あんな風に言われるなんて思わなかったから。

 こんなこと、無かったから。


 ドキドキする。

 変な感じ。これまでの人生で、こんな感情あったっけ?

 ぐるぐる思い出を巡らせる。嫌な思い出だらけなのはわかっている。


 私、もしかして――。


 その言葉の先が怖くて、最後まで考えられなかった。

 でも、なんとなく胸の奥がポッと温かくなる。


 隣に住んでるってことは、これからも毎日顔を合わせる。

 通学路もきっと、一緒。

 もしかしたら、またこうして――…なんて。


 浮かんでくる未来に自分で照れてしまって、猫のぬいぐるみを、体が痛くなるくらいに、ぎゅっと抱きしめた。


 「……バカみたい、私」


 でも、私でもわかってしまうくらいに顔は自然と笑ってた。

 止まらないドキドキを抱えながら、私は明日がちょっとだけ楽しみになっていた。

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