今日はギターを弾かない日(仮)
新出既出
第1話 20230122
腰が痛い。
だが、いくらなんでも新たな年の新たな小説の書き出しに「腰が痛い」はひどすぎる。
と、ここまでわたしは嘘だけは書いていないつもりだ。嘘はいけない。いついかなる場合であっても、嘘は借りた金を借りて返すようなものだ。
腰が痛い理由は明確だ。たくさんの荷物をはりきって運び過ぎたのだ。はりきった理由も明らかで他人から頼られたかったからである。「ありがとう」「助かったよ」「もう用意してくれたんだ」「いつもごくろうさま」「いてくれないと困る」「仕事速いね」「よく気が付くね」「これ、どうすればいいと思う?」「さすがだね」「ありがとう」「いえいえ。いつでもどうぞ」
という職場での役割にはまりたかったせいだ。
転職して丸2年が過ぎた。そろそろ新人補正は期限切れになり、できて当然という評価基準で測られる。
そしてもう一つ考えられる理由は、新型コロナワクチン接種の影響だ。昨日は副反応が出て終日こたつで頭を抱えていた。
頭が痛い。
頭痛は持病のようなもので、ほとんどは眼精疲労からくる偏頭痛だが、低気圧の接近に伴う気圧変動性の頭痛と、冬場に耳たぶが冷たくなりすぎるせいで起る冷却性頭痛とが混然となって、ほど間断なく襲ってくるのだ。頭痛には、「ノーシン」や「ノーカイ」「バファリン」や「セデス」など、その時手近にある頭痛薬を口に放り込む。治る頭痛と治らない頭痛がある。頭の中で脈打つような頭痛もあれば、持続的に脳の皺の奥へ錐をねじ込まれ続けているような頭痛もある。こめかみをこぶしでずっとごりごりと押されているようなものや、脳味噌をラップでくるんで掃除機でバキュームされるようなものなどがある。
頭痛の時は世界がひずんで見えるし、音も水の中にいるときのようにへしゃげて聞こえてくる。満員電車の中にいるような感じだ。そんなとき、わたしはひじょうに内向しており、とても束縛されているように感じる。
ワクチン接種はひじょうにスムースだったが、駅からずいぶんと歩かされた。途中、ところどころに整備されている「動く歩道」も半分は「調整中」のため動いておらず、ワクチンを打ち終わった人がゾロゾロと戻って来る、二階の高さにある外通路を寒風に吹かれて接種会場に一歩一歩近づいていった。
道路を挟んだ南側はJRの高架線となっており、ガード下は自転車置き場とハンバーガーショップとセブンイレブンがあった。新幹線の線路も並走しているはずだが、駅から接種会場へ行くまでの間には一本も走ってこなかったし、一番手前のホームに入線していた電車も動く気配がなかった。
ワクチン接種会場は巨大な体育館のような空間で、受付から書類確認。そして事前問診。そこから接種ブースを経て、経過観察区域へと、流れるように誘導された。経過観察区域に整然と並ぶパイプ椅子には空席が多く、わたしはなんとなく、高校の卒業式のことを思い出していた。
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