第28話

───花火大会とは、リア充が興奮するイベントである。






「人が多いねー」


「はぐれるなよ?」


「じゃあ、はぐれないようにちゃんとぎゅっと手を握ってね?」


「分かった。絶対離さないよ」


「嬉しい……っ」






甘い空気をあっという間に作り出し、聞いているこっちが糖尿病になりそうな会話をする目の前の浴衣カップル。


蟻も思わず「甘っ」と文句を言って回れ右をするんじゃないか、と思ってしまう糖分多めの雰囲気を纏うその二人は、とても幸せそうで。


その後ろでホラー映画の極悪殺人鬼も真っ青な殺意を目に宿した私達二人に、全然気付いていなかった。




「……はぐれないようにちゃんと手を握ってね?」




隣の子が、カップル女の台詞を言う。


私はその言葉に、一リットルの唾を吐き捨てるような勢いで言った。




「代わりにガマガエルの手でも握ってろバカップルが!!!!」





大都会の有名な花火大会。


人間が嘘みたいに溢れるこの大会は、取り合えず暑苦しくて苦痛で。


私の憎悪のこもった言葉は、周りの人間のペチャクチャという意味不明な騒音で掻き消されてしまった。

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