第3話 獅子宮
EDに滞在する三箇所でSHURI《シュリ》の役人が襲われた
三日後にはSHURIの王と幕府の五大老が謁見すると言うのに、由々しき事態である
すぐに御奉行『長谷川出雲』の元に使節団の代表である
獅子宮は40歳ぐらいで、彫りの深い顔立ちに太い眉毛に黒い髭を生やし、そのギョロリとした目から放たれる眼光は、野生の獅子のように爛々と輝いている
よく鍛えられた肉体をスーツに包み、その腰には太刀を帯刀していた
耳は柔道などの格闘術をやっているのが、一目でわかるくらいに潰れている
獅子宮はSHURIのタカ派の急先鋒と聞いていたが、なるほど、確かにSHURIの若者が心酔するのもわかる『漢』としての力強さを、そのずっしりとした物腰から感じられた
「知りませんな」
獅子宮は獅子のような瞳で長谷川出雲を睨みながらそういった
敵意をまるで隠していない
SHURIは長年、独立を保ってはいるが、火星に近いその場所を軍事拠点に置きたいと思うコロニー国家が存在する
その代表格が木星圏で勢力を伸ばすSINだ
SINは昔からSHURIを取り込もうとしており、EDはそれを防ぐためにSHURIの貿易権を奪うなど弾圧をしてきた
その恨みを持つ、SHURIの若者は多い
獅子宮はそんな若者たちを抱え込み、コロニー内で急速に勢力を伸ばしてきている
そして、獅子宮の裏には強大なSINの影が動いているとされるのを、柳生局から出雲は聞いていた
「しかしな、獅子宮殿。現に、使節団のものが殺されておるのだ。下手人の心当たりを教えていただけると、こちらとしても助かるのだが。例えば、お主に恨みがあるものなど」
「私の身内に裏切り者がいると?馬鹿馬鹿しい、我々S HURIの漢は血よりも濃い絆で結ばれている。貴殿たちとはまるで違う」
獅子宮ははっきりと否定する
それに、獅子宮は続ける
「原因があるのは、そちらの方ではないですかな。この十数年の間にEDは『由井卍救世軍の乱』『天草天動党の乱』と二度の大きな内乱に遭われている。SINとの独自外交をよく思わない不逞浪士が我々を襲ってもおかしくはありますまい」
「王は穏健派であるのに、それを無視して、SINとの接近を強行しているのは獅子宮殿だと聞きましたが」
獅子宮の太々しい態度にたまりかねた酒井が横から口を挟む
「それがどうした?口を挟むな
獅子宮は強い言葉で怒鳴った
その様子はまるで、獅子の咆哮である
「我が国は国際法で認められた独立したコロニー国家だ。どの国と組もうとEDには関係がないことである。しかし、長い間、属国のように見下してきた我々がSINに近づけば貴殿らは、裏切りだ、強硬派だと叫ぶ。いい加減にしろと言いたい。長年、貿易さえ独自にできないようにして我々を苦しめてきたくせに、まだ、我々を弾圧したいのか!!」
獅子宮は激昂して椅子から立ち上がった
ああ、尊大で漢らしい見た目と素振りをするが、怒らせると抑えが効かない粗暴な漢なのだなと、出雲と酒井は察した
「まあまあ、落ち着いてくだされ。獅子宮殿。EDとSINの板挟みになってきたSHURIの苦しい立場は拙者も承知しております」
出雲は頭を下げる
「フン。ひとつ聞かせておいてやるが、私は裏切り者は許さない。仮に私に恨みがある者が、私を裏切り、我々の同胞を殺したと言うのならば、私はその者を草の根分けても探し出して、家族もろとも八つ裂きにしてくれる。だから、我々は独自で下手人を探し出すゆえに、貴殿たちに頼るつもりはないのです」
この男はこのEDで裏切り者を見つけて、生きたまま拷問をして殺すつもりでいるのだ
あまりの粗暴さと無法さに出雲は呆れて苦笑いを浮かべる
「それは困ったな。EDで勝手な仇討ちは禁じられているのだが」
獅子宮はそこで立ち上がった
「ならば、もう、話すことはあるまい。王と五大老の謁見の準備で忙しい、帰らせてもらう」
獅子宮はそういうと付き人と共に部屋から出ていってしまった
残された出雲と酒井は顔を合わせる
「酒井、どう思う?」
「何か心当たりがあると思います。それに獅子宮は柳生局の調べによればSINから武器を密輸していると聞きます」
「これは俺の勘だがな。この五大老とSYURHI王との謁見、何かキナくせえんだよ」
獅子宮は奉行所の前に止めてあった車に乗り込んだ
「如何するおつもりで。獅子宮親方」
運転する部下に尋ねられて獅子宮はニヤリと笑う
「何も問題はない。量産型无切はすでに由井卍救世軍の残党に全て配備した。北谷の小僧は見つけ出して血祭りに上げるとして、計画になんの問題もない。あと三日、三日だ」
獅子宮は煙草を咥えるとライターで火をつけた
「王も五大老と懇ろに始末してやる、それがSINとの約束だからな」
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