第11話 名前を挙げるとき

カイルの剣が影を切り裂くたび、次々と新たな影が湧き上がる。フィオラの魔法が何度光を放っても、影たちは絶えることなく二人を包囲し続けた。まるで終わりのない輪の中に閉じ込められているようだった。


「なんで……!?」フィオラが息を切らしながら叫ぶ。「どれだけ戦ってもキリがない!」


「こいつらは終わりがない!」カイルも必死に剣を振り続けながら答えた。「この戦いが永遠に続くってことなのか……?」


ローブの男の冷たい笑い声が響いた。


「そうだ、お前たちは永遠に戦い続ける定めだ。お前たちが“名前を挙げてはならないもの”を求め続ける限りな。」


その言葉に、フィオラははっと気づく。「私たちが……求め続ける限り……?」


カイルが影に剣を振りかざしながらも、ふと動きを止めた。「どういうことだ?それを詳しく言え!」


ローブの男は静かに語り始めた。


「お前たちは、この世界の真実を探り、敵を作り続けてきた。“名前を挙げてはならないもの”という概念を創り出し、それに立ち向かうことで自分たちの存在意義を見出してきたのだ。」


「そんなはずはない!」カイルは反論した。「敵は存在するだろう。俺たちを襲い、この世界を支配しようとする者が!」


「だが、よく考えてみろ。」男の声が深くなる。「お前たちが戦っている“敵”とは何だ?それは本当に、外から来たものか?」


その言葉が落ちた瞬間、影たちの動きがぴたりと止まった。


フィオラは混乱しながらも、ふと自分の中に浮かぶ違和感に気づいた。戦い続ける中で見たもの、感じたもの――それはすべて、自分たちの恐れや欲望の投影ではなかったか?


「……私たちが作り出していた?」フィオラが呟いた。


ローブの男はゆっくりとフードを下ろした。その顔は、なんと――カイル自身だった。


「何……だと……?」カイルは自分の目を疑った。


「そうだ。」フィオラの目の前にもまた、自分と同じ顔を持つ存在が現れた。ローブの中にいた“名前を挙げてはならないもの”の正体――それは、フィオラとカイル自身だった。


二人は膝をつき、手にしていた剣と本を地面に落とした。その瞬間、影もローブの男たちもすべて霧のように消えていった。辺りには静寂だけが残り、夜空の星が再び輝き始めた。


「結局のところ……すべては私たち自身だったのね。」フィオラの声は震えていた。


「俺たちが作り出した幻影に踊らされていた……」カイルは悔しそうに拳を握った。


「でも……」フィオラがふと空を見上げる。「名前を挙げてはならないものなんて、いなかったのかもしれない。」


「いや、いたんだ。」カイルがフィオラを見つめる。「それが俺たち自身だった。ただ、受け入れられなかっただけなんだ。」


そう言いながら、彼は地面に落ちた本を拾い上げた。その表紙に刻まれていた古代語が変化し、今度は彼らにも読める文字となって浮かび上がった。


「フィオラ、カイル――お前たちこそ、“名前を挙げてはならないもの”であり、この物語の中心である。」


その言葉に、二人はようやく全てを理解した。彼らが戦ってきた敵は、外から来たものではなく、自分自身の内にある支配欲、恐れ、そして認められたいという渇望だったのだ。


最終的に、フィオラとカイルは剣を地に置き、戦うことを止めた。


「戦い続ける限り、永遠に終わらない。」フィオラが呟いた。「でも、私たちがこの輪を断ち切れば……」


「世界は変わる。」カイルが微笑んだ。「支配する必要も、敵を作る必要もなくなる。」


その瞬間、夜空に無数の星が流れ落ち、新たな光が地上に降り注いだ。それは、彼らが新たな歴史を創り出す第一歩となる光だった。


物語はここで終わる――そして、新たな物語が始まる。

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星喰いの神話 @ashika1124

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