星喰いの神話

@ashika1124

第1話 名前を持たない者たち

夜の帳が降りると、村は深い静けさに包まれた。星々は数を減らし、その消失は目に見えぬ恐怖を世界に広げていた。誰もがそれを恐れ、口に出すことすら避けた。だが、カイルはその理由を知りたかった。何も知らずに生きることに耐えられなかった。


「この夜、君は名前を知るだろう。」


フィオラはそう言った。彼女の目は夜空の星々に照らされ、まるで深淵を覗いているかのように、どこか遠くを見つめていた。


「名前?」カイルは繰り返した。


「そう、名前。だが、今はまだ言えない。」フィオラはふっと微笑んだ。「今は名前を知ることが、君の命を危うくする。」


カイルは不安げに息を呑んだ。彼の胸に小さなペンダントが揺れる。父から受け継いだものだが、今それが重く感じられた。


「君の一族が、かつて何をしてきたかを知っているか?」フィオラの声は低く、冷たかった。


カイルは何も答えられなかった。祖父や父が語っていた昔のことが、今、目の前で現実となって迫ってきているような気がした。


「名前を持たない者たち。」フィオラが呟いたその言葉に、カイルは心を引き裂かれるような衝撃を受けた。「それが彼らの正体だ。」


「名前を持たない者たち?」カイルは混乱しながらも、思わず口にした。


フィオラは頷き、その目を鋭く細めた。


「彼らは、何世代にもわたって世界を支配してきた。だが、その支配には代償が伴った。」彼女は続ける。「彼らは名前をあげてはいけない。名前を口にすることが、彼らの力を削ぐからだ。」


カイルはその言葉に圧倒され、足を踏み外しそうになった。星の消失、そしてフィオラの話。すべてが繋がっているような気がした。


「だから、名前を知った者は殺される。誰もがそれを恐れ、知らぬふりをして生きている。」フィオラは語気を強めた。「でも、それが間違いだと、僕は思う。名前を知ってこそ、彼らに立ち向かう力を得られる。」


カイルは少し考えた後、震える声で問いかけた。


「じゃあ、どうすればいいんだ?」


フィオラはしばらく沈黙した後、空を見上げ、ゆっくりと答えた。


「名前を明かすことができたとき、全てが変わる。」


その言葉が、カイルの心に深く刻まれた。


だが、その先に待つ運命がどれほど恐ろしいものであるかを、彼はまだ理解していなかった。


カイルが目を覚ますその時まで、名前を持たない者たちが世界を支配し続ける。だが、カイルの存在がその均衡を崩すことになるだろう。それが、星の消失と共に起こる新たな歴史の始まりだった――。

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