第3話 心の距離
ショッピングモールに着き、待ち合わせの場所へ向かう。
夏葉の少し明るめの地毛は、すぐに視界の端に映った。
「夏葉」
「あ、春菜?」
声をかけると、くるりと夏葉が振り返り、ふわっと笑みを作った。
リップグロスが塗られたつやつやの唇に、器用にアレンジされた巻き毛、スキニージーンズをはきこなす夏葉。
あざとさがなく、活発な女子高生がそこにいた。
この三年間で、夏葉はすっかり女子高生になったのだと実感する。
私は自分の恰好を改めて見つめてみた。
ジーンズをはいている点は同じだけれど、グレーのトレーナーは何とも地味だ。
……なんか、置いて行かれた気分。
(夏葉はたくさん友達できたんだろうな……。彼氏とか、いるのかな)
開始早々気分が沈みそうになったけど、何とか夏葉に笑みを返す。
「じゃ、行こっか」
夏葉は人懐こい笑みを浮かべ、肩に触れてくる。
その瞬間、友達に飢えていたからだろうか。ふわりと心が浮き立った。
いくらギスギスしてたって、やっぱり夏葉は、一番仲の良かった友達だったから。
「うん。行こ」
「……」
「……」
まずい。
久しぶりだからだろうか。全く会話が弾まない。
「ぅあ! なな、夏葉ってカレシとかいそうだよねぇ~」
しまったぁぁぁ!
声が裏返った上にいきなり変なことを口にしてしまった。嫌な奴と思われたらたまったものではない。
だけど夏葉は気にした様子もなく、くすっと笑った。
「ああ、紅原君のこと?」
「いい、いや……」
何か変な汗が出てきた。
夏葉が紅原秋人と付き合ってるのではと、私が探っていると思われただろうか。
「いや、違うから! 私、もうその人のこと全然だからね?」
あのときは好きだったけど今はもう何とも思ってないし夏葉が付き合ってるならそれはそれで良いと思って……。
「大丈夫だよ、そんなに慌てなくても」
顔を真っ赤にして右往左往する私の思考を遮ったのは、夏葉だった。
見ると、目に涙を浮かべながら爆笑している。彼女は、その先をあっけらかんと語った。
「紅原君、同じ高校だけど結構人気でさ。女子が皆で『紅原君いいよね』って言ってるところ見てたら、急に興ざめしたっていうか。今はもう、他に好きな人いる」
ポカン、と今の私に音を付けるとしたらそういう音がしそうだ。
そのあと、笑いがこみ上げてくる。
今、紅原秋人のことは何とも思っていない。だから安堵ではなく。
「何か、夏葉らしいね」
「ふふっ。そうかな」
私たちは顔を見合わせて、クスリと笑った。
少し、心の距離が近づいた気がする。
でも、そのあとに夏葉から学校の友達の話が出てくるたび、胸がチクチクと痛んだ。
夏葉は私の知らないところで、どんどん友達作ってくんだから。
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