ひとくちだけならいいと思うな

隠れ豆粒

ひとくちだけならいいと思うな

「ひとくちちょうだい」

 僕が肉まんを食べていると、彼がそう言って口を開けた。貰う前提の構えに少しイラッとしたけれど、僕は肉まんを彼の口飲前に差し出す。

「ひとくちだけね」

 彼は遠慮なく大きめに口を開いて、ガブリと肉まんを噛みちぎった。三分の一ほどが無くなった肉まんを呆然と見つめて、その目のまま彼を見る。とても美味しそうに食べているものだから、まあいいかという気持ちになり、僕は肉まんを食べきった。


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「ひとくちちょうだい」

 僕が三色団子を食べようとしていると、彼がそう言って、上目遣いに僕を見てきた。肉まんの時は食べる前提だった構えから、へりくだってお願いすることを覚えた彼に、少し感心しつつ、三色団子を彼の口の前に差し出す。

「ひとくちだけね」

 彼は1番上のピンク色の団子をパクリと食べた。三色団子の内の一色の重みを解っているのかと彼に目をやると、それはそれは貴重なものを頂いたと言わんばかりの美味しそうな顔をしているものだから、まあいいかという気持ちになり、僕は二色団子を食べきった。


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「ひとくちちょうだい」

 僕がひとくち大福を食べようとしていると、彼がそう言って、指ですこーしだけというのを示してきた。ジェスチャーを習得したかと感心しつつ、『「ひとくちちょうだい」という言葉に対して僕が持っているものは「ひとくち大福」である』ということを真剣に考えた。

「ひとくちだけだよ」

 試しにそう言って差し出すと、ひとくち大福という文言を的確に理解しているのか、彼は器用に、僕の指を噛まぬように大福だけを平らげた。僕は粉だけが残った指を見つめたまま、しばらく動けなかった。

 ひとくち大福に対してもひとくちちょうだいを言うということの愚かさを、彼は理解しているのだろうか。そもそも、どうしてひとくちなら貰えると思うのか、ひとくちだけならあげてもいいと思ってしまうのか。

 人の情につけ込んで、自分が得をするためだけの言葉。


 ひとくちちょうだいという言葉の恐ろしさを改めて実感した時、彼のひとくち貰ったものを食べている時の純粋そうな表情が、戦利品を堪能している悪の表情に見えた。

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