大黒さまとサンタクロウズ
彼らの足は天鳥船の艦橋の床を、ほとんど音もなく踏みしめた。
「おまえらふたりに任務を与える。いいか、これは真に重要な任務だ。失敗は許されない」
一見するとクロのようだが、すぐにクニタマ、モノモチはスサだと見抜いた。
「「なんスか、
クニタマ、モノモチはスサだと見抜いたことを、わざとらしいほどに伝えた。
見抜かれたスサは、肩をすくめる。
「もう。クロっぽいと思ったんだけど。でも任務は本当ですよ。じゃあ、これを渡しておきます」
そう言ってスサは、機敏な
そして、白い鬘。白いつけ髭。赤い帽子も渡してやった。スサの企みは完璧だった。
「クロとのウケイ。なんか負ける気がするんですよね~。でも、それだと悔しいから仕組んでやろうと思いまして」
スサにしては、珍しく消極的な対策だ。
――ギャフンとさせたら俺の勝ち
クロには、まだまだ隠し球がある。テラス、オーゲツ、ウカノが3人掛かりで退ける
だから保険が必要だ。スサは、クロの底力を誰よりも
「弱気じゃないッスか
クニタマは悪い笑みを浮かべ、真新しい赤い服に袖を通した。
「そう言えば、
モノモチも同じように服に袖を通す。
「
そこに緑の服に、緑の帽子を被った
「「ああ、ゴリネエさまのスプラッシュソーダね~。わかります」」
機敏な
「師走の24日は、スプラッシュボーヤと呼べ。おまえたちには、
スプラッシュボーヤこと
「おまえたちには、これに乗って
スプラッシュボーヤこと
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「
「ウカノが門限を18時にするから無理だ。朝帰り? それをするなんてとんでもない!」
「
彼らの眼には、最高幹部のくせに家庭の事情を優先する
「
「「「痛い痛い痛い」」」
容赦がない。その攻撃はまるでやつあたりだ。
「
そう言って
「ちょっとジャンプしてみろ」
「「「
その声は、格納庫に響き渡る。
「ちぇー。ケチー。大人のクセにー」
不貞腐れたように
「「「あんた、この場で最年長ッ!」」」
息のあった返しに、
「スピニングバード
「「「痛い痛い痛い」」」
容赦のない攻撃に、
そして、急ぎ足で
◆ ★ ◆ ★ ◆
一方で火焔山を進むカワノたちは、迷子のゴズと遭遇していた。
「ゴズさん。
クシナがゴズを宥めるが、ゴズはギャン泣きだ。
「ウソだ! クシナちゃんはウソをついてる! オラ、会わせる顔がねえだ。大事な戦友を跳ね殺しちまっただ!」
どうやらゴズはクシナを
「なんスか。
人の姿に化けたゴズは雌牛神。ゆえに巨乳だ。カヅチの視線は
カワノは、予備の
カワノは吐息をひとつ。
「掴め」
祝詞で起動。忽ち、カヅチの悲鳴が響き渡った。
「イダダダッ! ぬまっち!
ウズメは、服から張り裂けんばかりの胸元に顔を顰めた。
「なってないわ。次は内臓でも見せるつもりぃ?」
ウズメは、冷ややかな視線を浴びせる。
「お見苦しいものを、申し訳ないだ。クシナちゃんらは慎ましいからな。申し訳ないだ」
ここでゴズは毒。その無邪気な一言は、女神たちの神経を逆撫でた。
「「「ああぁん!?」」」
女神たちの不興を買う。その場に
「聞こえなーい。聞こえなーい。聞こえなーい」
カヅチは、耳を塞いで、その場から意識を遮断した。
そこは元総隊長。
「お胸は大きさじゃありませんよ? ゴズさん。そうですねウズメ先生、カワノ…」
クシナがむぅむぅと言って戻ってきた。カヅチはコクコクと頷いて従った。いや、
この中で、十代中盤の容姿のクシナが一番小振りだ。
クシナはカヅチに『ふっかつのことだま』を起動させ、扉を潜ると
「あれ、大叔父さま。なんで大伯父御の格好してんです?」
帰還したカヅチは、目の前にいるスサに尋ねる。
「ご苦労さまカヅチ。でもどうして、ぼくだってわかったんですか?」
スサが疑問に思うのは当然だ。クロはスサに取り込まれて顕現した、
「いや、大伯父御は、誰がどう見ても魔王じゃないッスか? それも大魔王……」
簡潔にして辛辣な答えを返すカヅチに、
「掴め」
容赦なく祝詞が
「悪質なデマを拡散させんじゃねえ」
クロだ。その冷徹な声は、格納庫に響き渡る。
「
カワノが敬礼し報告する。カヅチは痛みに踞っている。
「スサ。ゴズを引き取れ。おまえと相性がいい」
クロは有無を言わさぬ声でスサに振り、振られたスサは、
「
スサはゴズを神仕いとして引き受けた。
★ ◇ ★ ◇ ★
「
クロとスサは、その名とともに組織の青写真を広げた。
「なんか、
クロは、そう言いながら、肩をすくめる。
「アナムチの神仕いや、さっきスサの神仕いになった……」
クロの視線が、ゴズの
嫡妻であるスセリが、その視線を見逃すはずがない。
「クロ?」
スセリは、有無を言わさぬ厳しいジト目を貼りつけ、言葉の先を促した。その圧力は
「そこのゴズとかで編成する。俺たちは基本的にカクリヨにカクレル」
クロは咳払いをして、一度態勢を立て直す。
構想は明確だ。
「神代を閉ざし、
クロの言葉には、時代の転換期を担う指導者としての重みが感じられる。
「その際の連絡班だな」
クロは、改めてその役割を定義した。
「十二支の動物神たちで構成します」
スサが、クロからバトンを受け継ぐように、詳細を語り始めた。
「猿はウズメの旦那さま?である
スサの口ぶりは、すでに組織の立ち上げに必要な事務手続きが完了していることを示唆している。その手際の良さはさすがである。
その最中、
ふたりは、フライドチキンとフライドポテトを、山と積んで抱えている。
「おいおい、なんのパーティーだよ?」
クロが、その豪勢なジャンクフードの山を指さして尋ねる。
「Merry Christmas!」
そう言い放ち、赤い服を着たモノモチが、景気の良い音を立ててクラッカーを鳴らして登場する。
続いて、
「新しい祭りです。きっと世界で一番信じられる神さまになるでしょうね」
スサは、この異文化の祭りの意義を真剣な表情で説明する。
「これが
そして、スサは誇らしげに新たな別動隊を紹介した。
「
その宣言とともに、七面鳥の丸焼きを抱えたオーゲツが入ってくる。
オーゲツは、スプラッシュソーダをコップに注ぎながら、室内にその存在を誇示する。
いつも以上にフリルがうざい派手なドレスを纏ったオーゲツに、クロが容赦のないツッコミを入れた。
「フライドチキンにフライドポテトあるじゃんゴリネエ。あと、その服目にいてえ」
クロの言葉は、妹の旦那であっても遠慮容赦がない。
「いいのよこれで」
ゴリマッチョの身体に似合わない、可愛らしい仕草でオーゲツがウインクをかます。
「食べきれないほどのご馳走を並べて、みんなで騒ぐのよゲン
オーゲツは、心の中身が乙女であることを、改めて強調した。
次々に並べられる料理の量を目にして、さすがのクロも一瞬、胸焼けを覚える。
「ケーキにプレゼント。
ウカノが、焼きたてのピザを切り分けて差し出す。
「ピザもどうぞ」
オーゲツもウカノもウケモチの神だ。
彼らが作り出したご馳走を、旨そうに食べてくれれば神威が増す。
このクリスマスの豪勢なご馳走は、ウケモチの神々への敬いなのだ。
「そうだぜゲン
そう言い放ち、ツクヨはサンタミニスカートに身を包んだ
「いや、おまえの趣味だよね?」
クロは、その個人的な趣味を隠そうともしないツクヨに、即座にツッコミを入れた。
「ツクヨ。ジャンル孫だからな?」
テラスは、姉として、弟の越えてはいけない一線について釘を刺す。
「お姉ちゃんの言いたいことわかるよな?」
テラスは、強いジト目を貼りつけた。
「ジャンル孫に手ぇ出すかッ!」
ツクヨは心外だと言わんばかりに激しく否定する。その否定の裏には、「一歩手前までは楽しむ」という確固たる信念が垣間見えた。
クロは吐息をひとつ。もう議論に付き合う気はない。
「アメノシタツクラシシオオカミウツシクニタマノミコトが命ずる」
クロは、
「サンタクロウズを
ヤカミは、何の予兆もなく
そして、この場のすべての女性たちを、サンタミニスカートの衣装へと強制的に変身させた。
この悪意に満ちた不意打ちに、
「「ちょっと
ふたりの声には、怒りと呆れが半々に混じっている。
だが、ヤカミには痛くも痒くもない。
ヤカミは、身重であるという、動かしがたい最強の盾を持っている。
「あたし妊娠中」
ヤカミのこの一言で、彼女だけは、この悪戯の対象外であることも示された。
それ故に、ヤカミはいつも通り、厚顔無恥でいられるのだ。
一方で、
まるで、最初からこうなることを知っていたかのように、泰然自若としている。
やがて、突然の衣装替えに驚いていた神々も、この場を楽しみ始め、騒ぎ始める。
スサは、クロに開始の号令を促す。
「さあ、始めようか」
クロは、最高の指導者として、この宴の始まりを告げた。
「メリークリスマス! 存分にジャンクフードと、この奇妙な祭りを堪能し、騒ぎ明かそうぜ!」
彼の号令とともに、
スサノワ ~KUNIYUZURI~ いやさかキッキ @iyasakakikki
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