キンとギン ~KOSHINONUNAKAWAHIME~
部屋に備え付けられた、扇情的な間接照明に手を伸ばし、耳に触れた物音の元に向かう。早朝だ。起床には、ちと早い。ヤチホコやイワノなら早朝から稽古をしていそうだが、イワノは、隣で浅く寝息をたてている。カワノは、元々、戦える。支援的な神術で
研鑽の積み直しで、体術もそこそこだ。タツキが動いていないことから、脅威ではないだろう。
「なにをしている?」
「お、お代なら払ったぜ? タツキってのに見つかるとまずいんだ。見逃してくれよ。ネエちゃん」
「仲間が外で待ってんだ。頼むよ
吐息をひとつ、
「
短な
オバさん呼ばわりしなかったから、タツキに突き出すのはやめてやる。
「家出かな…」
考えられるのは、その辺り。気になる
――仲間が待ってんだ…
それだ。いずれにしても、
「
また短い祝詞。これでも神さま。理不尽なのは仕方がない。指輪は、祝詞に広がり、ふたりの頭にピタリと
「現地の
一人、ガッツポーズをして振り返ると、
「わ、忘れてッ!」
稽古に起きてきたイワノとヤチホコのふたりと目があった。カワノは赤面。ふたりはニヨニヨ、
「「朝から癒される~」」
カワノは
タツキにふたりの事情を聞くと、
ふたりとも、動きを妨げぬよう、くすんだ藍や茶の、ざっくりとした綿麻の服を身につけている。 裾を紐で縛れるズボンに、足元は何かの革を
「名前が、ミナにホウね」
「偽名のようです。ですが、無理に聞きだすのは…」
情報連携中に、タツキは難色を示す。子供に負荷を掛けることは、
「
あっさりと偽名の由来を看破するカワノに、タツキは脱帽。
「カワノさまに…」
「子供なんて産んでないわよ。ただ周りが
カワノはウガァ。
「良いお母さまになれますねカワノさまは…」
タツキは
「そんな予行演習したくねえわ」
タツキの
「「神術とか反則じゃんか」」
少年少女が目を覚ます。
「どちらがミナで、どちらがホウ?」
カワノ、視線をふたりの高さに合わせて問う。
ふたりは、
「「さいっしょは
「っしゃあッ!」
キンが
「ミナです」
胸を張ってキン。
「…ホウです。そこのカマ
しょんぼり答えて意趣返し。タツキとカワノは苦笑をひとつ、
「隠すつもり
呆れて答えて、キンに向けて祝詞を
「イダダダッ!」
「あなたがホウで、あなたがミナちゃんね?」
「そうですね
ふたりの偽名を付けかえる。キンはコクコク首肯し承諾。ギンはミナの偽名に満面の
「良いお母さまになれますよカワノさま」
タツキは断言。
「もういーよ。それで…それでホウにミナ、あなたたちにお願いがあります。
ここでカワノは黒い笑み。自身の
「「ご依頼承りましたー。
良い子のお返事。
「カワノよ。ホウにミナ。
思い出したように尋ねる。
「ああ、忘れてた。いやぁ仲間ってか、なんつうか…」
キンの歯切れの悪い言葉を、
「なんか、変な
「ち、
うん。また一癖も二癖もありそうだ。キンは慌ててギンの言葉を遮るが、そんな、お年頃だ。異性に興味津々なのは仕方がない。
「
ここで、ハラシコ。正式名称、
「どっから湧いた?」
「申し訳ありませんカワノさま。封印が甘かったようです」
ジト目を貼り付けるふたりを
「いいか
悪行に
「た、確かに…」
キンは惑乱。
「
ギンはジト目を兄に貼り付ける。
「さあ、
「うん
「
そう言ってハラシコは、キンを伴い動き出す。彼は
良かった隠れた頭脳派がちゃんといた。
「じ、自由か? 打ち解けんの早すぎだし」
「心のお年が近いのかと」
疲れたように嘆息するカワノに、タツキは綺麗な言葉で
「
そう言ってギンを伴い、イワノたちの元に向かった。
★ ☆ ★ ☆ ★
ソミンの目と鼻の先にある山。龍穴近くの山だ。滝の裏に洞穴。ハラシコがキンに
「お兄ちゃん!」
と、キンに抱きつく女は、
「
ポソリとハラシコ。以前に対した時と違って、媚びたような険はない。だから、そう思うのだろうか。
「ただいまナキメ。いい子にしてたか?
キンは、意外にお兄ちゃん。
「身内は控え目に言うもんさ。母ちゃんが言ってた」
ハラシコに答えるキンに苦笑し、
「なあ、こいつって、たぶん、
ソミン
「今は
カラリと割り切り、
「それに
そう言って濁した。ハラシコは苦笑し、ここで、
「えっ、違、違うぜ? ソミンの
キンは今更に取り乱す。
「別にどうもしねえよ。
ハラシコはぶっちゃけ、懐から、ふたりの絵姿を取り出し差し出した。ただ、
「母ちゃんに置き手紙くらいはしてやんな」
そこは、ピシャリと釘を刺す。
☆ ★ ☆ ★ ☆
組手で撃ち合うイワノとヤチホコを見て、
「なんで
ギンはポソリと疑問を溢した。
「けっこうな負荷が掛かるのよ。あれで」
カワノは解説。緩慢な動作に撃ち合うふたりの動きは、一秒を百分の一にしたほどか。姿勢を維持するにも相応な負荷が掛かるに違いない。さすがは神さまだ。いわゆる太極拳の挙動に近い。
「カワノは
「そうね。
そう言ってカワノは、ギンの頬をムニィとする。
「カワノたちは、
ムニィとされたまま、ギンは鋭く確かな眦に質す。
「牛を探してるのよ。ゴズって名前の
そこでパンと
「イワノ、ヤチホコ。ちょっと聞いて」
ふたりの稽古に割り、
「さっきも言ったけど、
「ウチはイワノ。こっちの
「ヤチホコだ。
ヤチホコ。正式名称は、
「南の国のミナです。特技は…」
ここでギン。拳を握り。
「
仙術を繰り出し、ヤチホコに仕掛ける。突然の暴挙にヤチホコは慌てることなく、あっさり往なし、
「腰が入ってない。あと構えはこう」
具体的な武術指導。一方でギン。赤面し、
「違、違うの…こ、これは…そ、その…つきあってくださいッ!」
ペコリとお辞儀し、手を差し出す。どうやら一目惚れしたらしい。この想定外に、
「良かったじゃねえか色男」
イワノはニヨニヨ。カワノは、
「
ドライに対応。
「だってよミナっち。でも、ありがとよ」
爽やかな
「ちぇー。わかったよぉ~」
シュン。ここで、
「おう。
キンとナキメを伴いハラシコが合流。キンの肩には小さな
「ほら、おまえの分」
キン、しょんぼりしているギンに茅の輪を差し出す。母の
「なんだよ。これ?」
「これがないと
キンは雑に説明。自身の腰に結んだ茅の輪を指差し、妹に装着を促した。茅の輪を装備し、ギンの目にはハラシコが。
「南の国のミナです。特技は、
突然、撃たれた仙術を難なく凌ぎ、
「つきあってくださいッ!」
ペコリとお辞儀し、手を差し出すギンに、
「
ハラシコ、実に直球。大人げない。
カワノは嘆息する。この
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