夢現

yossy

1.目覚め

ある日を境に、現実感のある夢を見るようになった。

確か金曜日で、28歳の誕生日前日だったと思う。

仕事の繁忙期でかなり忙しく、ひどく疲れていた事を覚えている。


担当しているシステムの構築が中々上手くいかず、顧客からかなり詰められていた。

後一歩のところでエラーが頻発し、打つ手がなくやり直しになる。

納期も迫っている中、エラーの原因が掴めずに時間だけが流れ続けていた。


明日は誕生日だけど、休日出勤で巻き返さないと。

独り身の男を祝ってくれる人などいないので、誕生日が特別な訳では無い。

だからといって、寂しくないといえば嘘になる。

高校や大学の友人達はみんな結婚して家庭を持っている。

自分だけが幸せの階段を登れずに取り残されている気分だ。


簡単な食事をとり、シャワーを浴びた。

時計を見るとすでに12時を回っている。

スマホを手に取りチャットアプリを開いてみるが、連絡は特になかった。


明日も早いし今日は寝てしまおう。

なんとも言えない悲しさに包まれたまま、布団に入り就寝した。

明日起きたら全部解決していればいいのに。


いつもの通り出社し、システムの構築を進めている。

同僚と特に会話をすることもなく、黙々と作業をこなしている。

構築も終わりシステムのテストを行う、やはり上手くいかない。

ちょっとした思い付きで、システムファイルの名前を変えてみた。

再度テストを実行してみたところ、数か月の苦労が噓のように上手くいった。

最終確認まで完了し、顧客への納品メールも送った。

無口な同僚と手を取り合って喜び、ニコニコと会社を出た。


ふと気が付くと、布団の中にいた。

時計を見ると朝の7時、日付は誕生日だ。

ああ、幸せな夢を見ていただけのようだ。

残酷な誕生日プレゼントだな、と呟いてみる。

準備を済ませ、会社への移動を開始した。


会社に到着すると、同僚がすでに作業に取り掛かっていた。

簡単に挨拶をし、作業を始める。

一通り構築が完了した後、ふと思い付きでファイル名を変えてみた。

テストを実行してみると、なんと、エラーなく完了してしまった。

最終確認まで完了し、顧客にメールで連絡を入れる。

後は月曜日に顧客説明を行えば完了だ。

同僚と手を取り合って喜んだあと、会社を後にした。


夜まで掛かる予定の休日出勤が夕方に終わり、日曜日も休みになった。

せっかくの誕生日、自分へのご褒美で一人で居酒屋に行った。

魚介にこだわりのあるお店、マグロカツが絶品だ。

鮮度を売りにしているお店で食べる加熱した魚、申し訳ないけど抜群に上手い。


お酒を飲みながら、チャットアプリを開いてみた。

何件かグループトークが動いているが、自分宛てのお祝いは特になかった。

20代前半は馬鹿みたいに遊んでいた友人達、奪われてしまった気分だ。

正確には自分だけが取り残されているんだろうけど。

いけない、ネガティブにならず楽しいことだけ考えよう。

そのあとはスマホを見ながら楽しくお酒を飲んで過ごした。


良い気分でお店を出た後、自宅に帰ってシャワーを浴びた。

明日は久しぶりに自由に遊べる、何をして遊ぼうか。

期待に胸を膨らませながら布団に入った。

それにしても、結局何が原因だったのだろうか。

上手くいったのはいいけど、この後の原因解明が少し面倒くさいな。

そういえば、昨日同じような夢を見た気がするな。

色々と考え事をしているうちに、気が付いたら就寝していた。


日曜日は晴天で、わかりやすいお出かけ日和だった。

せっかくなので徒歩30分の所にあるショッピングモールに行くことにした。

心地よい陽気に穏やかな気分で歩いていた。

しばらく歩いて大通りに到着し、信号を待っていた。

車道を眺めていると、遠くから違和感のある車が向かってきていた。

他の車に比べて明らかに速度が出すぎている、速度落ちなかったら危ないぞ。

信号から少し離れて様子を見ていると、悪い予想は当たってしまった。

速度を出しすぎた車が交差点に突っ込み、大事故が起きてしまった。

騒然とする現場、初めて目の前で事故をみた恐怖、呆然と立ち尽くしていた。


耳元で目覚まし時計が鳴っていた。

どうやら物騒な夢を見ていたようだ。

爽やかな日曜日が台無しじゃないか。

このまま二度寝する気にもならないし、出かけるとしよう。

そういえば欲しい漫画もあるし、本屋にでも行こう。


カーテンを開けてみると雲一つない晴天だった。

久しぶりに気持ちのいい天気だし、少し歩きたい気分だ。

朝ごはんを食べて着替えを済ませた頃にはすでに夢のことは忘れていた。

そういえばショッピングモールに大きな本屋さんがあるな。

散歩がてら歩いて行ってみようかな。


ショッピングモールまでは歩いて30分程度、ちょっとした運動だ。

心地よい陽気に穏やかな気分で歩いていた。

しばらく歩いて大通りに到着し、信号を待っていた。

車道を眺めていると、遠くから違和感のある車が向かってきていた。

他の車に比べて明らかに速度が出すぎている、速度落ちなかったら危ないぞ。


ここで、ふと夢で同じ光景を見たことに気が付いた。

間違いない、絶対事後が起こる。

ここからは夢で見た通り、速度を出しすぎた車が交差点に突っ込んだ。

騒然とする現場、間違いなく自分はこの光景を知っている。

目の前で見た2度目の事故。

何もできず、ただ立ち尽くしていた。


あの後ショッピングモールには行かず、自宅に戻った。

食欲はなかったので、とりあえず昼からお風呂に浸かった。

お湯の中で目を閉じると、体の芯からほぐれていく感覚がする。

身体をほぐしながら最近の奇妙な出来事について考えてみた。


まずは仕事のエラーについて。

夢の中でファイル名を変更して改善、実際に試したら改善した。

正確には、実行した内容が前日夢で見た内容だった、だろう。

そして今日の事故。

直前で気が付いたが、あれも昨日見ていた夢だった。


ここで2つの可能性が考えられる。

1つ目は予知夢を見ているというもの。

翌日起きる出来事が夢の中で事前にわかるというもの。

2つ目は夢でみた光景が現実に書き換わるというもの。

正直どちらもフィクション感が強いが、実際に起きている。

まだ2回しか起きていないが、しばらく検証していきたい。

どちらにしろ、まさに"夢"のような力が自分にはあるかもしれないのだから。

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