1-3 雨御

―次の日

無事、謎の野生の勘が働き、昨日は家に帰ることが出来た。

帰りが遅かったからか、両親には「まあそういう年頃だもんね」と冷たく言われた。僕、高校生3年生だよ…。

それはとにかく!!僕はいますごく焦っている。

それは…。すばり!!リュックを置いてきてしまったことである。

昨日家に帰ってきてからないことに気づいた。

(他にリュックはない…。あるはあるけど、ミッ〇ーで学校は厳しいかな…。)

現在時刻8時20分。8時半から出席確認をされる。家から学校までの時間は5分以上かそれ以下。つまり、やばいということ。

(考えてる暇は無いよね…。手ぶらで行こう!一か八か!)

勢いよくドアを開けて外に出た。


(リュックに今日使う教科書、スマホ、筆箱、水筒、お守り全部入ってる…)

汗が滝のように溢れ出てくる。

僕だけ真夏の炎天下にいるみたいだ。

(お弁当だけ持ってるの…変人だよね)

お弁当しか持っていくものがなかった。

(なんで途中で気づかなかったんだ〜僕〜!)

涙が目尻に浮かぶ。

プライドが死にそうな上に、馬鹿すぎる自分が嫌になった。

(というか、そもそも急に意識が失ったり急に変な白い空間に飛ばされるのが悪いよ〜!おかしい〜!)

はあ…とため息を着く。どうしようも無いこと呟いても意味無いか。

そもそも、なんで僕にそんな意味のわからない不幸が降りかかるのかよく分からないけど。

(ああ…僕は高3生活2日目で終わるんだろうな…)

首の根っこから下を向いて歩く様子はまるで何かの妖怪のようだった。

「何あの人、こわ」

「みたら呪われそう」

ふと耳に入る。僕は妖怪か何かなのかな?

(僕はずっとそういう人生なんだね…)

もう一度ため息をついた。

すると、その時誰かに話しかけられた。驚きのあまり、叫ぶ。

「す、すみません…。え、えっと…」

後ろを振り向くと、そこに昨日ぶりの人が立っていた。

昨日、僕に「かたづけちゃうよ」といった、中性的な見た目の人。

「昨日はすみませんでした…あ、あの…」

昨日僕が逃げたから怒ってない?今日こそ僕を殺りにきた?

そう考えると恐怖で手が震えてくる。僕はぎゅっと目を瞑った。

が、思ってたのとは反して優しく温かい声が僕に降りかかった。

「大丈夫だよ。君こそ、もう大丈夫?」

「ぼっ僕は全然…!!」

予想外の返答に驚き、戸惑う。

優しい笑みが僕に向けられていた。

(僕を殺りに来たんじゃないんだ…)

「あ、これ。君のカバンだよ」

すると、その人は背負っていたカバンを方から下ろして、大切そうに渡してくれた。

心があったかくなるのと同時に、涙が出そうなくらい安心した。

「あ、ありがとうございます…っ!」

両手でしっかりと受け取った。そしてすぐさま背負う。弁当も入れた。

「…えっと、僕天照零っていいます!またお礼させてください!」

ペコペコと頭を下げる。昨日の人はにっこりと微笑んだ。

「天照…零くんか。素敵なお名前だね」

「い、いえいえ!」

顔を赤らめる。この人、優しい。

「私は雨御。とりあえず今は苗字だね」

昨日の人…雨御さんは一礼したあと、再び笑った。

(何だか優しそうな人で…安心感があるなあ)

僕はそう感じたからか、スっと言葉が口からでた。

「あ、あの…。昨日なんであそこにいたんですか…?」

悪い人じゃなさそうだったから、聞いてみることに。気になっていた。

急だったからか、雨御さんは何度か瞬きをした。

「ああ、昨日のことだね。それはね…」

すると、思い出すかのように上を向いた。

「有名な心霊スポットって聞いたから」

「え、ていうことは…」

あの場所、心霊スポットだったのー!?

驚きのあまり、叫びそうになるもぐっと堪えた。

「ますます分からなくなってきた…。なんで僕はあの場所にいたのかな…」

小さく独り言のようにつぶやくと、雨御さんは突然僕の肩の上の何かを手で払い除けた。すると、目が合う。

「君はみえる?」

「え?」

突然の質問に驚く。

「なにがですか?」

「いわゆる…幽霊だね。みえる?」

僕は黙る。目をそらす。

「…雨御さんは何か、見えてるんですか?」

そう聞くと、雨御さんは目を細めた。

「そうだねえ…。君に大量の霊が憑いてるのがみえるよ」

背筋が凍った。冷たい汗が頬を流れる。

雨御さんは微笑んだまま、僕ではない何かを見ていた。

恐る恐る口を開く。

「…僕、昨日なんであそこに居たのかわからなくて…。雨御さんは何か、知ってますか…?」

「…知りたい?」

ごくり、と生唾を飲みこむ。

あの白い空間にいる時、意識が飛んでいる間のことがわかる時がきた。

「…教えてください!」

そういって頭を下げる。

「いいよ。そうだなぁ」

その声を聞いて頭をあげる。雨御さんは顎に手を当ててしばらく考えていた。

(そんなにやばかったのかな…)

少し心配になった。物凄い真相が明かされたらどうしよう。

そう思っていると、雨御さんは考えがまとまったようでひらめいたポーズをした。

「簡単に言うと、君は昨日とある霊に取り憑かれてたんだよ」

一瞬固まる。時が止まったように感じた。

「とりつかれてた…?」

信じられない。ずっと、あの白い空間にいる時は取り憑かれていたってこと?

目を見開く、そんな僕の様子をみて、雨御さんは微笑んでいた。

「取り憑かれていた君はあの場所で暴れてたんだ。それを私たちが止めていたんだよ」

頭がこんがらがる。

ん?取り憑かれていた僕が暴れていて、それを雨御さんたちが止めていた…。

(わからない…)

そんな僕を見て、雨御さんは「信じられないよね」と答えた。

「君は取り憑かれている時、きっと白い空間にいたと思うんだ。それは君に取り憑いた霊の心だよ」

「あの空間が…?」

(うそ…)

驚きのあまり口を塞ぐ。

なんで白い空間のことを知ってるんだろ。なんであれが霊の心だって知ってるんだろう。

「時々、誰かの声が微かに聞こえなかった?」

その質問にハッとする。

「はい!今回は女の子だったかな…?」

昨日の、かすかに聞こえた声を思い出す。高くて可愛らしい声だった。

すると雨御さんは「なるほど」といって、顎に手を当てた。

「君に取り憑いた霊を祓った時、その子は女の子だったね。心の中から声は聞こえるんだ。へぇ〜。」

ついていけない。本当に分からない。頭を抱えそう。

けど、今引っかかった言葉がある。

「霊を祓うって…」

雨御さんの口角が怪しく上がる。そして髪を揺らし僕に1歩近づいた。

「知りたい?」

「…えっと、」

視線を逸らす。大丈夫なのかな。何かやばい事にならないよね…。

「…私は知りたいな。君のその、霊を異様なまでに引き寄せる、理由を」

「!!」

しばらく固まる。なんだか雨御さんの笑みが不気味に思えてきた。

「えっと…なんで…」

「…」

そういってもじもじしていると、雨御さんは僕から離れた。

そして、先程とは打って変わって無邪気な笑みを見せた。

「なんて、急に言っても怖いね。知りたいと思うなら、」

雨御さんは背を向けた。そしてまた振り返り、僕を見た。

「今日の学校終わったら、校門の前集合でもいいかな?」

‪ここら辺だったら‪✕‬‪✕‬高校だよね?と聞かれ、頷く。

胸が痺れるような感覚に陥った。

じゃあね、と歩いていく雨御さんの背中をしばらく見つめて、何度もさっきの言葉を脳内で繰り返した。

きっと、今の僕の顔は赤い。

(放課後に…集合…)

「まるで…友達同士がする会話みたい…」

大きく心臓が脈打つ。ドクンドクン。

嬉しい、そんな気持ちに支配され、気分が上がっていっていたからか、

学校のチャイムがなったのに気が付かなかった。

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霊祓師団 麗月 @Tumimo

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